全日本スナック連盟の会長である玉袋筋太郎さん(以下玉ちゃん)がスナックを巡り、プロの目線で、ママやお店の評価を下す連載「スナックミシュラン」。日本列島津々浦々、スナックは全国に7万軒もあるというのに「興味はあるけど行ったことがない」なんて人も多いはず……。玉ちゃんが、ママのキャラ、お店の雰囲気、つまみ、歴史、時にはお客さんの質まで、深い愛情を持って★をつけてゆく。第4回は新宿・歌舞伎町にある『港崎』。
歌舞伎町での再会
今回は、歌舞伎町にある「港崎」さん。21歳の時から20年以上、ソープ嬢として夜の街歌舞伎町で働き、今もなお歌舞伎町で人を癒すママ。そのドラマのような人生に少し触れた。
ママ 玉ちゃん、何割にしますか?
玉ちゃん おれ、ウーロンハイで。
ママ ウーロンハイね、はい。
玉ちゃん じゃ、竜宮城で乾杯!
ママ 乾杯!
玉ちゃん いやいや、ここは竜宮城だよね。新宿の竜宮城。乙姫ならぬ泡姫がいるっていうね(笑)
ママ アハハハハ。
玉ちゃん いやぁ、小ちゃい頃からそこのバッティングセンターとかでずっと遊んでたんだよね。高校の時は歌舞伎町のラーメン屋で出前やっててさ、ヤクザの事務所からソープランドの控え室、麻雀屋、歌舞伎町全体くまなく配達してたんだよね。その出前を持って行ってた先にママの働いていた店もあったんだよね。だからか、ママと会った時は運命の再会を感じたんだよね。
ママ 初めて会ったのは歌合戦だったよね。
玉ちゃん そう、たまたまね。MXのママ対抗歌合戦だね。ママがグランプリ獲ったよね。
ママ 玉ちゃんが審査員でね。そのあと、取材に来てくださって、ね。
玉ちゃん そう、そっからなんだよね。
結婚、出産、離婚、そして歌舞伎町
玉ちゃん いやぁ、ほんとママはすごいんだよ。世界最高のサービス業やってて、そこのトップだからね。本数なんて、張本(日本プロ野球界初の3000本安打達成者)の10倍以上なんだから(笑)
ママ そ、わたし5万本だから。
編集部 5万!!
ママ でもね、やっぱりソープやったおかげだなって思うことたくさんあるの。わたしのこの飲み屋さんのサービスというか接客の仕方は風俗じゃないかなって、そんな気がするの。
編集部 どういう経緯で歌舞伎町でスナックをやることになったんですか?
ママ わたし、生まれも育ちも横浜なんだけど、21の時に歌舞伎町に出てきたの。19の時に結婚して子供産んだのよね。その後、離婚して、家裁にかけたんだけど娘を取れなかったの。その理由が経済力がないということだったのよ。10代で結婚しているんだから経済力なんてあるわけないじゃん。
玉ちゃん そりゃそうだ。
ママ で、世の中お金なんだな、とその時は思ってね。それで、娘がいつ私を見つけてくれても、その時にちゃんとお金を持ってなくちゃと思ってソープの世界に入ったの。でも、最初は怖くて面接を3回もすっぽかしちゃったのよ。
玉ちゃん そりゃ、20歳そこそこでその世界に入るのは怖いよね。
ママ でも、わたしが働いたお店の代表や当時のナンバー1のお姉さんがすごく優しくしてくれてね。ホッとしたのよね。で、お店も目をかけてくれて売れて行ったのよね。
玉ちゃん でも、どうして歌舞伎町だったの? 横浜じゃなくて。
ママ 川崎とかにもあるんだけど、近いと里心がついて辞めて帰っちゃうんじゃないかというのもあったしね。あと、やっぱりやるなら東洋一の歓楽街、眠らない街、新宿でやってみたかったのよね。
玉ちゃん 退路を絶ったわけだね。いや、すごいよね、この度胸がね。
ママ あと、娘が2歳半の時に別れてるから、私も悲しいけど、娘も悲しいわけでしょ? 母親と別れてね。だから、娘が泣いている分、自分も泣かなきゃいけないって思ったのよね。
玉ちゃん どうだ、これ。ほんとすごいよね。
サービス業とは?
玉ちゃん やっぱり、そういう人と違う経験や苦労してる人だからね、ママは優しいんだよね。大変な思いしてると思うんだよね、それが滲み出ててさ、癒されるよね。やっぱりこの竜宮城はいいぜ。ズバッと言う時は言うけど、優しさがあるんだよ。
ママ そうね、でもお客さんも言ってもらいたくて来てるとこはあるのよね、スナックって。怒ってもらいたいとか、迷っている時に肩をポンと押してもらいたいとか。
玉ちゃん だってさ、さっきオレ、本数で言ったけど、その数の人もそれぞれに気持ちが違うと思うんだよね。カチカチの人もいるだろうし、威張ってるやつもいるだろうしね。その全てをセックスというカウンセリングで癒してったのはスゴイと思うよね。
ママ そう、だからいろんなものを抜いて帰っていったのよね。心も体も頭もね。
玉ちゃん いやー、名言だね。でも、さっき言っていた接客の仕方がソープだってのはさ、ここでもある意味抜いてるんだよね。
ママ でも、どんなお客さんでも、お客さんを一度も嫌いになったことはないよ。
玉ちゃん いやー、言えないよね、そんなこと。いろんな客がいたはずだもん。
ママ だって、わたしごときが嫌いになるなんておこがましいわよ。
玉ちゃん でも、相当いろんな人来たと思うんだよね。
ママ 全ての人に親兄弟がいたり子供がいたり、その人を大事に思う人がいるわけじゃない? その人に何かあったら涙する人がいるってことよ。そういう人に対して、その人のことを何も知らないわたしが嫌いになるとかあり得ないじゃない。わたしはそう思うの。
玉ちゃん かぁーーー、すごい。
ママ それと、1ヵ月間頑張って働いて稼いだ大事なお金を握りしめて来てくれるわけじゃない。それに対しては、誰であれちゃんとしたサービスをしないとだよね。
玉ちゃん いやぁぁ、どうよ。ほんとにすごいよ。
ママ ううん、そんなことないのよ。みんなによくしてもらってここにいるのよ。ここのお客さんでもソープの頃からのお客さんも来てくださってるしね。
16年後、娘との再会
玉ちゃん いやぁ、風俗なんてって言う人もいるだろうけど、やっぱりママのやってきたことは無駄じゃなかったってことだよね。娘さんといつか会えるだろうと思って、人を癒し続けてきたってことはね。
ママ そうね、娘とも会えたしね。
編集部 え、会えたんですか?
ママ そう、向こうから探してくれて会えたのよ。わたしの実家に無言電話が何度もかかってきてね、ある時勇気を出して「もしもし」って言ってくれて、それで16年ぶりに会えたの、娘が18の時かな。
玉ちゃん でも、2歳半って、お母さんの記憶なかったよね?
ママ うん、写真も全部捨てられてたんだって、わたしの膝の上で抱っこされてる写真が1枚だけ残っていて、そこにわたしの手だけが写ってたんですって。それが唯一の母親の写真だったみたいなの。娘は、母親は死んだと聞かされていたみたいなんだけど、中学くらいになって、死んだと言う割にはお墓参りもいかないしおかしいなと思って家中いろいろ探したら引き出しの中にわたしの実家の住所と電話番号が出てきたのね。で、勇気が出なくて、電話しては切って、電話しては切ってを繰り返してたみたい。
玉ちゃん こりゃ、映画化決定だな。言葉失うよ。いや、でも、歌舞伎町という変わりゆく大陸でね、ママは根っこ生やして、ぐっと生い茂っている立派な大木だよね。太っい木だよ。前にも言ったけど、本当にスナックってのは、乱れたチューニングを調整してくれる場所だよね。
編集後記(取材陣の感想)
書ききれないほどの苦労をしてきたママの言葉は、リアルで説得力があり、取材陣は何度も言葉を失い考えさせられた。実際、数年前には朝日新聞の取材を受け、掲載された記事を見て、一般の主婦の方が救われたと手紙をよこしたり、小学校の先生が子供達に聞かせたりと、ママの言葉に心動かされた人も多いようだ。
ママは、「ゲーテさんの読者の中には、身なりを着飾ることで虚勢を張っている人もいるかもしれないが、男なんてパンツ脱いだらみんな同じよ。だからスナックにいらっしゃい」と話す。ぜひ一度足を運んで欲しい。ここでは伝えきれない気づきが歌舞伎町の遊郭にある。
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①TECHNIQUE
★★★
「心のトゲから何から、全て抜いてくれるな」
②OCEAN
★★
「苦労してきたママは、人に優しく、心が広く、言葉は深く、全て包み込んでくれる海のよう」
③SMILE
★★★
「人生、酸いも甘いも経験したママの笑顔は最高だね」
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港埼
住所:東京都新宿区歌舞伎町2-39-12 K会館B1F
TEL:03-3202-1654
営業時間:20:00~
休み:日曜