以前(『ビジネスエグゼクティブにこそ必須!審美だけではない大人の「歯科治療」始めました【前編】』)、保険治療の銀歯をセラミックへと置き換えた男性美容研究家の藤村岳。静電気を発する銀歯が少なくなって歯も磨きやすいし、何より見た目がよくなり、すこぶる調子がいい。「一気にやらず、じっくりと噛み合わせを調整しつつ、気長にやる方がいいですね」という、審美歯科治療で定評のあるホワイトホワイト石井李奈先生のアドバイスに従って、診察は少しの間お休みしていたが、新たな問題が……。
一難去ってまた一難。新たに「食いしばり」疑惑が発覚!
最後の治療から半年が過ぎた頃、ホワイトホワイトから「噛み合わせチェックをしましょう」との知らせが。しかし、ちょうど新型コロナウイルスの変異株の感染者が爆発的に増加しているころで、ちょっと放っておいてしまった。すると、それから3ヵ月ほど経ち、なんだかクラウンに換装した歯にうずくような違和感が……。「これはマズイ?」と思ったので、早速予約を取って診察してもらうことに。
結果を先に話すと「噛み合わせが変わって、それで歯根膜が炎症を起こしたようです」とのこと。神経を取った歯だったので、まさかクラウンを外してまた神経の治療なの? と恐れおののいていたが、それは杞憂に終わった。噛み合わせを入念に調整してもらって終了。10日ほどでうずきも落ち着き、普通に噛めるようになった。ほんの数ミリ、いや数ミクロンで影響が出てしまう噛み合わせ。これからちょっとでもおかしいと感じたら、すぐに受診して調整してもらおうと心に決めた。
頭痛、肩こり、顔面肥大、鬱にまで発展する「食いしばり」
しかし、「藤村さんは食いしばるクセがあるようですね。それも多少影響しているかもしれません」と気になることを言われた。たしかにかなり前、別の歯科医からも食いしばりを指摘されたことがある。その時は放っておいたのだが、今回は気になったので調べてみることに。
すると、食いしばりはかなり健康を損なってしまう行為だと判明。何と食いしばりは体重の2倍もの負荷がかかることもあるという。多忙により不安やストレスを感じると進行するとのこと。まさにコロナ禍における、ストレスフルな現代病と言ってもいいのかもしれない。
そして、その対処法には大きく2つある。ひとつはマウスピースで、もうひとつはボトックスの注射。こうなったら、取材をということでマウスピースは前述の石井先生に、そしてボトックス注射は衣理クリニック表参道の総括院長である片桐衣理先生にお話しをうかがうことにした。
「食いしばり」をしているかを見分ける方法とは?
まず、石井先生に食いしばりをしているかどうかの見分け方を尋ねてみると、「朝起きた時に頭やあごが痛い、首筋や肩がこるなどの症状がある場合は、寝ている間に食いしばっている可能性があります。また食いしばることで、あご周りの筋肉が緊張して固くなり、頬の内側に白い噛み跡ができることも見分けるポイントです」と教えてもらった。
「一緒に寝ている家族から歯ぎしりを指摘された方や、最近、なぜか顔が四角く、大きくなってきたという方も要注意。あと、マッサージをしても肩こりが改善しないという人も疑っていいかもしれません」と、衣理先生が付け加える。
たしか、以前指摘された時は「ほんの少しエラが張るくらいなら、まあいいか」と放置してしまったのだが、肩こりや頭痛の原因になるなら、そうも言ってはいられない。その他の食いしばりによる弊害を聞いてみると「知らず知らずに進行し、全身の骨格のゆがみや自律神経の乱れが起こります。すると眠りが浅くなって慢性的に疲労を感じ、ひいては鬱になってしまう方も」と衣理先生は警鐘を鳴らす。え、それはかなり怖い!
歯科医の立場から石井先生は「過度に噛みしめることによって歯が削れてしまうと虫歯リスクが高くなり、さらに知覚過敏を引き起こすこともあります。最悪の場合、歯が破折してしまうケースも」と。こちらも、大変な事態になってしまうことがわかった。たかが食いしばりでは、決してないのだ。
マウスピースかボトックス注射か、それが問題だ
そこで、マウスピースの作成の手順と期間、そして費用を聞いてみると「マウスピースはクリニックで型取りを行ない、作成します。通常、型取りから1~2週間程で完成。顎関節症の症状が認められれば、保険でマウスピースを作成することもできます」。気になる費用は、自費でマウスピースを作成する場合、種類や素材にもよるが10,000~15,000円の場合が多いとのこと。
調べてみたところ、今どきは通販でもマウスピースが買える。それらとオーダーの違いを尋ねると「市販のマウスピースは800~3,000円と安価ですが、ピタリとフィットしないため逆に歯やあごにダメージを与えてしまうことも。一時的に使用するくらいにとどめ、長期的にはオーダーしたマウスピースを使用することをお薦めします」とのこと。スーツと同じで、やはりここはオーダーに軍配が上がるようだ。
次の選択肢であるボトックス注射について、衣理先生にどのように効くのかを伺ったところ「食いしばりに関与する筋肉を見定めて注射を行うことで、過剰な筋収縮を抑え、1週間ほどで強く噛むことがなくなって筋肉が休まります。また、3週間もすると筋繊維が細くなり、フェイスラインがシャープになって小顔効果も」と。
おお、それは、いいではないか! 食いしばりが軽減される上にフェイスラインが引き締まるとは。「ただし、食べる、話す、表情を作るなど、生活に必要な行為に支障をきたさないようにするのは、実はとても難しいんです。経験の浅いドクターが闇雲に打ってしまうと、頬がこけたり、不自然にボコボコになったりします。熟練の技とその方の表情を崩さない美的センスも必要です」とのこと。効果を得るには複雑な顔筋を理解しているドクターの経験と腕次第ということか。
マウスピースorボトックス注射。各々のメリットとデメリット
ここで疑問に思うのが、これらの方法で効果がどれくらい持続するかということ。マウスピースの耐用年数を聞いてみると、「一般的に2~3年はお使いいただけます。しかし食いしばりの頻度や噛む力によっては、数ヵ月から半年ほどで割れたり、ヒビが入ってしまうことも。すぐに割れる場合は、より厚みのあるマウスピースに切り替えて。また食いしばりをなるべくしないよう意識するなど、日常の対策を歯科医師に相談してください」と石井先生。
一方、ボトックス注射の効果持続は「一般的には1回の注射で半年~1年。通常、ボトックスの粉末を生理食塩水で溶解するのですが、濃度を薄くしているクリニックですと、すぐに効果がなくなってしまいます。あまりに安売りのところは要注意。当院は一般のクリニックの平均の5倍の濃度に。それには理由がふたつあって、ひとつ目は最小限の刺入部でおひとりおひとりのフェイスラインに合わせた効果を実現するため。そしてもうひとつは生理食塩水が多いと、患部が腫れやすいのでそれを防ぐためでもあるのです。費用はエラの両側で1回につき55,000円。重度の方には1年間フリーパスの192,500円というプランも」と衣理先生。
マウスピースの場合、使用を続ければ食いしばりがなくなったり、弱くなったりするのだろうか?
「マウスピースには食いしばりを予防したり、その力を弱める効果はありません。食いしばりによってあごや歯にダメージが加わることを予防するものです。長期的に使用することで、顎関節症や歯の破折、咬耗を予防する効果があります」
それでは、ボトックスは?
「当院オリジナルの衣理式ですと、3~4ヵ月の短めのインターバルで集中的に3回行えば効果が持続し、半永久的になる可能性も。ただし、その頻度での治療は十分なスキルのあるドクターに治療してもらうことが前提です」
これまで見てきたように、マウスピースは装着するだけととにかく手軽。イニシャライズコストも低く、針を刺すなどの侵襲性はない。しかし、使用をやめてしまえば、また症状は続く。ボトックスは注射というハードルの高さがまずあり、打つ人のスキルに結果がかなり左右されてしまうという危うさもある。しかし、効果の持続性と、人によっては症状がなくなる可能性があるというメリットは大きい。
どちらもメリットとデメリットがあり、各人によってその正解は変わってくるだろう。筆者ももう少し考えた上で、しかし、今度は食いしばりを放置せず、適切に対処することにしようと思う。
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男性美容研究家・美容コンサルタント 藤村 岳
All Aboutメンズコスメガイドを務める傍ら、雑誌やテレビなど各メディアで活躍。経営者の個人カウンセリングやコスメのプロデュース、ブランドのコンサルティングも手がける。著書に『一流の人はなぜ爪を手入れするのか?』などがある。