GOLF

2021.12.11

タイガー・ウッズから学ぶ、復活に必要な思考

多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。先週開催された「ヒーロー・ワールドチャレンジ」において主催者のタイガー・ウッズが登場し、現在の身体とゴルフの状態について語りました。ドライバーでフルスイングをするなどのデモンストレーションを行い、順調に回復していることをアピールしたものの、競技レベルに復活するにはまだ時間がかかるという見解を示しました。タイガー・ウッズはこれまで度重なるケガで再起不能と言われながらも復活を遂げてきましたが、今回も不死鳥のように復活してくれることでしょう。今回は復活が期待されるタイガー・ウッズのゴルフの取り組みを「PGAツアー超一流たちのティーチング革命」から一部抜粋し、再構成した記事としてご紹介します。ゴルフに対する考え方をアップデートすることでゴルフ上達に役立てていただきたいと思います。

【タイガーの逆算思考】

タイガー・ウッズが2014年にクリス・コモをコーチに招聘したのは、タイガーなりのロジカルな判断と明確なビジョンによるものでした。

今でこそ、米国ゴルフダイジェストのコーチランキングにおいてブッチ・ハーモンに次いで2位のコモですが、当時の米ゴルフ界ではほとんど無名でした。しかし、一部のプレーヤーにはテキサス女子大学のヤン・フー・クォン教授と共同でスポーツ・バイオメカニクスをゴルフに応用する研究を行っていることが伝わっていました。タイガーはそのことを、スタンフォード大学時代のチームメイトで、現在はゴルフアナリストをしているノタ・ビゲイ3世から聞き及んでいました。

その頃、タイガーは自分が求めているのは身体に負担のかからないスイングだと公にしていました。タイガーのビジョンをビゲイが知っていたため、バイオメカニクスを用いて体に負担が少なく、飛距離の出るスイング構築を行うことができるコモを紹介したのです。このとき、タイガーが別のスイングを求めていたら、コモに出会うことはなかったでしょう。

「いいコーチを紹介してほしい」というだけでは自分の課題を解決することにはつながりません。「自分のいまの課題は〇〇だ。この課題を解決するために必要なコーチは△△の知識を持ったこんな人物だ」ということを明確にする必要があります。

例えば家を建てるとき、和風建築なら和風建築の専門家に依頼するでしょう。「とにかく住みやすい家を建ててほしい」という依頼では、どのような家が建てられるのかまったくわかりません。明確な要望を伝えずに、建ててから文句を言っても仕方がないのです。

タイガーは理想とする家を明確に決めていたことで、適材のコーチとの出会いを引き寄せました。ビジョンが明確だから、必要としている人材も明確になったのです。

ビジョンは問題意識と言い換えることも可能です。問題意識が低いと日々の現状や目先の問題に流されてしまいがちです。それでは何が課題で、課題解決のために何が必要なのかがわかりません。自分に必要な人がどんな人なのかも当然わからないでしょう。

ゴルファーは、調子が悪くなってはじめて自分のスイングについて考えはじめるものですが、多くの場合は戸惑いながら自分で試行錯誤することが多いでしょう。何かしなければならないと思いながら、それまでやってきたスイングや取り組み方からなかなか脱却できないというジレンマに陥るのです。これまでと違うスイングに変えるには、もう1度自分のスタイルをつくり直すことになるので長い時間を要することを覚悟しなければなりませんが、多くの人がここで躊躇したり、挫折します。スランプに陥ったときにスイングをつくり直す場合、一から新しい技術を生み出すに等しいわけですから、困難があることを覚悟しなければなりません。

【スランプから脱出するには】

スランプには2つの種類があります。1つめは「どこに問題があるのかはわかっているが、直し方がわからない」という状態。もう1つは「自分が今、どういう状態なのかわからない」という状態です。そして、多くの場合、現状認識でつまずいている場合が多い傾向があります。

ゴルファーの中には、問題にぶつかると悶々としながら試行錯誤する人が多いように思います。特に私たち日本人は、自分で研鑽を重ねて技を磨くという考え方や、何か問題が生じたら「安易に人に答えを求めず、自分で考えることが大切」という考えに陥りやすい傾向があるということが影響しているのかもしれません。

自分の現状を客観的に分析できないまま試行錯誤を続けていると、感覚と実際の動きのズレがだんだん大きくなり、元の問題がわからないほど深刻な状態になります。そして、もつれた糸のように、元の状態に戻せなくなってしまうのです。このような泥沼にはまらないように選手の状態を客観的に把握し、修正していくのが指導者の役目です。

ビジネスでは何か問題があれば人に聞いたり、本から答えを見つけたりすることがあるかもしれませんが、ゴルフにおいても同じように他者の考えを取り入れることで早期に問題解決に至ることがあります。ひたすら練習をしたり、目の前の一打をどう打つかに集中しても、長期的な展望は開けてきません。

タイガーのように度重なる困難を乗り越えるためには、自分一人の才能だけでは成し得ることは難しいでしょう。タイガーは自身のビジョンを明確にし、ビジョンを実現するために必要な人材を見つけることで、スランプを抜け出し、復活してきました。最適な人材を招聘し、現状分析を行い、課題を解決するためのベストな方法を選択する。このプロセスを経ることで、ゴルフ上達だけではなく、スランプを乗り越えることができるのです。

現在、タイガーはコーチを付けていませんが、今までの度重なるケガからの復活と、3度の大きなスイングチェンジによって、十分な経験と知識の蓄積があります。ベン・ホーガンが自動車事故で大けがをしたのち、メジャー6勝を挙げて復活したように、いつかタイガーがメジャーで再び勝利を挙げる日が来ることでしょう。

「PGAツアー超一流たちのティーチング革命」

 

TEXT=吉田洋一郎

PHOTOGRAPH=小林 司

COOPERATION=取手桜が丘ゴルフクラブ

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