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FASHION

2024.06.27

アメリカ屈指の老舗「ペンドルトン」はなぜ、100年経っても、古さを感じさせず、普遍的でいられるのか

1924年の誕生より、100周年を迎えたペンドルトンのウールシャツ。その歴史的傑作にして超ロングセラーは、いかにして生み出されたのか。今回は、来日した経営陣にビジネスの側面から語ってもらった。

アメリカの一部となった老舗の魅力

英国からの移民であった毛織物職人トーマス・ケイにより、1863年米国オレゴン州にて毛織物工場として創業されたペンドルトン。当初は毛織生地の生産のみだったが、ケイの娘ファニーが小売商のC.P.ビショップと結婚したのを機に、事業をSPA(製造小売業)に拡大。なかでも地元のネイティブアメリカンとの交流から、彼らに代々伝わる民族柄を鮮やかにアレンジしたウール製のブランケットを開発。瞬く間に全米の先住民たちに大ヒットし、現代にも続く代表的な商品となる。1912年にはファッション衣料にも進出し、1924年には不朽の名作となるウールシャツを発表。アパレルを中心とする企業としての礎を築いた。

こうした歴史を経て、ペンドルトンは現在7代目となるジョン・ビショップCEOと、彼を補佐するボブ・クリストノックバイスプレジデントが切り盛りする。アメリカの家庭にはブランケットが必ずと言っていいほど備えられており、クローゼットには代々着られてきたウールシャツがかかっているほど、アメリカのライフスタイルに溶け込んでいるペンドルトン。“American Conscience(アメリカの良心)”とまで謳われる、その企業としての魅力はどこにあるのだろうか。

「覚悟をもって、アメリカ生産にこだわっているのです」

―― ペンドルトンは160年を超える歴史を歩んできた老舗企業ですが、これまで経営が苦しかったのはどんなときでしょうか?

ジョン それはたくさんありました。例えば、工賃が低い国で生産した同じカテゴリーのブランドが台頭してきたときなどです。私たちはラインナップの一部をアメリカ国内で生産しており、どうしてもコストが割高になってしまう。それでは価格競争で太刀打ちできないのです。そのため私たちもカットソーなどをメキシコでアウトソーシングし、平均価格でバランスを取るようにしています。

また、アメリカでは近年小売業界の再編があったのですが、その影響にも苦労しました。これまではディラーズやメイシーズなどの小売大手でも扱ってもらっていましたが、百貨店のメイシーズでは私たちの規模では小さすぎて扱ってもらえなくなったのです。その対策として直営店舗を全米で30店まで増やし、ウェブストアにも力を入れています。結果的にBtoC(企業対消費者取引)に注力するようになり、カスタマーに近い関係でビジネスが行えるようになったというメリットもありましたが。

ウールシャツ誕生100周年を機に来日した、ペンドルトンの7代目ジョン・ビショップ CEO(左)とボブ・クリストノックバイスプレジデント(右)。

―― アメリカ国内での生産はどれくらいなのでしょうか?

ボブ 現在、アメリカ国内で生産しているのは、ブランケットとウールシャツ用の生地、それと一部のウィメンズのアウターのみです。それでも国内生産を維持するために、新しい機械を導入するなど、ここ5年でかなりの設備投資を行なってきました。ブランケットとウールシャツに関しては、今後も国外で生産することはないと断言できます。それほどの覚悟をもって、アメリカ生産にこだわっているのです。

―― 日本には1980年代より進出していますが、市場としてどう捉えていますか?

ジョン 日本は世界的に見ても、最も重要な市場のひとつです。日本のカスタマーは感性が素晴らしく、受け入れられているのは誇りに思っています。また、日本からのリクエストや解釈がいつも新鮮であり、新しい視点やインスピレーションを与えてもらっているのです。そういった面からも興味深い市場のひとつですね。

ウールシャツと並ぶ、ペンドルトンを象徴するアイテムであるウール製のブランケット。現在もアメリカの自社工場で生産し続けられている。

「カスタマーに対して正しいことをしていきたい」

―― 近年はナイキやザ・ノース・フェイスといったスポーツ&アウトドアブランドから、サカイやメゾン マルジェラといったモードメゾンまで、幅広いコラボレーションを展開していますが、戦略的にコラボをどう捉えていますか?

ジョン コラボレーションのメリットのひとつは、まったく新しい顧客層へアプローチできること。そしてもうひとつは、パートナーの視点から自社製品を客観的に見つめ直せることです。さらに市場におけるペンドルトンの鮮度を保つのにも役立っているでしょう。こうしたメリットを鑑みても、コラボは戦略的に重要と捉えています。

―― コラボレーションのパートナーはどうやって選ばれていますか?

ジョン 厳格な選考基準などはないのですが、できるだけ間口は広くもつようにしています。なぜなら、例えば私たちとは異なるカテゴリーのブランドなどと組むことで、新しさや鮮度を取り込むことができるからです。ゆえに私たちの基本姿勢から逸脱していなければ、交渉に応じるようにしています。ひとつ重視するのは、私たち同様に製品の品質に対するこだわりがあるかどうかです。

―― 現在のアメリカ国内のカスタマーの年齢層はどれくらいですか?

ジョン 年齢層のボリュームゾーンは2つあり、ひとつは30~45歳、もうひとつは55~60歳で、それらで6割以上を占めています。60歳を超えている私とボブは、すでに外れていますが(笑)。いずれにしろ、異なる年齢層へのアプローチは重要であり、リーチする方法を常に模索しています。なかでも若い世代へのアプローチは重要な戦略のひとつであり、SNSなども注視しているのですが、“本物”をわかっているインフルエンサーは少ないと感じます。あくまで私たちがリーチしたいのは、若い世代のなかでも本物や伝統などを重んじるグループであり、人工的なブームを起こしてまで不特定多数の若者に訴えようとは思いません。

ブランケットやウールシャツに加え、カジュアルウェア全般やバッグ類、さらにはインテリアなどのホームコレクションもラインナップする。

―― 日本のビジネスシーンについてはどう思われますか?

ジョン 日本には老舗企業が多く、伝統やクラフツマンシップを重んじる文化がある。その反面、最新技術の研究などにも余念がなく、伝統と革新を両立させている点に、私たちと通じるものを感じます。

ボブ 日本のビジネスシーンから感じる品質へのこだわりやモノづくりに対する熱量には、いつも感服しています。かつてアメリカでも感じたことですが、いまでは感じられなくなってしまったので。例えば店舗を見ても、日本にはバイヤーが一点ずつ吟味したであろうアイテムを丁寧に並べた店が少なくないですが、アメリカはとにかく大量のものを圧縮陳列した店ばかりです。

―― 100周年を迎えたウールシャツを含め、今後の予定は?

ジョン ブランケット同様に、ウールシャツはペンドルトンにとって不可欠なアイテムであり、間違いなく今後もつくり続けていくでしょう。企業としてはこれまで通り、カスタマーに対して嘘のない正しいことをしていきたいと思っています。そして商品だけではなく、カスタマーとさまざまな価値観を共有していければ幸いです。

ボブ 新しいプロジェクトとしては、2025年春夏より初のスイムウェアのラインをローンチする計画です。すでに好評をいただいているジャカードタオルと親和性があり、同じ売り場に投入を予定しています。これは私たちも楽しみにしています。

失われゆくアメリカの良心の温もり

大量生産・大量消費を礼賛する資本主義の国であり、企業間の買収・合併も日常茶飯事なビジネス大国でもあるアメリカ。そんな国にあってペンドルトンは、160年にわたってファミリー企業としての体制を維持。一部ながらも国内生産にこだわり続け、生産量やラインナップを闇雲に拡大させることもなく、カスタマーと正しく向き合い、製品のクオリティ維持に努めてきた。そうした現代のアメリカが失いかけているものの価値を理解し、企業理念とし守り続けてきたからこそ、ペンドルトンは100年愛されるウールシャツを生み出し、幾世代にもわたる歴史を歩んでこられたのである。

自然豊かなオレゴンの大地にしっかりと足をつけ、血の通ったビジネスを直向きに紡ぎ続けてきたペンドルトン。そのウールシャツに袖を通すと、強く正しく、そして優しく温かい、“アメリカの良心”を感じるに違いない。

2024年で誕生100周年を迎えたウールシャツ。数十年前のヴィンテージ品も古さを感じさせず、普遍的なデザインであることがわかる。

問い合わせ
美濃屋 TEL:03-6804-2176

TEXT=竹石安宏 EDIT=大内康行

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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