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FASHION

2022.04.22

カッコいい男性像を書き換えるBED j.w. FORD 山岸慎平 ──連載「世界に誇るべき、東京デザイナー」Vol.1

東京が誇るべき、“今”を生きるデザイナーに迫る本企画。初回のゲストには、BED J.W. FORD のデザイナー、山岸慎平氏を迎えた。 パリに進出したブランドのデザイナーはコロナ禍で活動が制限される中、何を感じるのか。 前編では、ブランドの原点や服作りへの想い、その真髄に迫る。

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都会の男性像をつくりたい

―――まずは、BED J.W. FORDとは、というところから聞いていければと思います。今は何年目でしょう。

10年経ちましたね。アルバイトしながら始めたころからだと12年目ですかね。ブランドを始めるとき、まずは自分が洋服が心から好きという想いと向き合いました。この国で色んな洋服を見てきた中で、影響を受けたこと、好きなことでも足りないものってなんなんだろうなって考えて。いわゆるカッコいい大人とか、センスの良い男性像みたいなことを書き換えたいなっていう想いがありました。

それで、よく「着飾る」っていう言葉を使ってるんですが、「着飾る」っていうのも、ジャケットでタイをしめて、とかそういうステレオタイプな事ではなくて。スタイルであったり、ムードのある大人の男性像みたいなものをいかにして作るか。例えば、A BATHING APE®、NEIGHBORHOOD だったり、カルチャーを孕んで伝える物作りは、日本がもちろん上手かったんですけど。その陰で皆が触れなかったり、忘れていったものがいっぱいあるんじゃないかと、じゃあ新しい人物像、それこそ新しい男性像、そういった“像”を作りたいなっていう想いで最初にスタートしています。

―――実は、当初はバイトしながら始めされたとか。

そうですね、最初の3、4年なんかはバイトしてました。こんな服誰が買うんだって話なんで。ロゴもないし、ポップじゃないですし、いわゆる「BED J.W. FORD」って描いてあるグラフィックTシャツみたいなものもないですし。僕はそういった服を作らないっていう覚悟のもと始めてるんで。変な話、その覚悟があったからこそ、今のスタイルが出来上がったのではないかと思います。ただ紙一重で今の状態になっただけというか、それは僕たちの力だけではなくて、おそらく自分が感じた時代の流れみたいなものと、自分が若いころに感じていた違和感みたいなことが、上手くリンクしてれただけだと感じています。早すぎず遅すぎずというか。

―――よくある、あのブランドでパタンナーやってましたとか、そういう流れではないのですね?

はい。一応 GENERAL RESEARCH(現:MOUNTAIN RESEARCH)には居ましたが、そこでは販売、プレスのお手伝いをさせてもらったり。小さな会社だったので、色々と見させてもらえたんですけど、そこで学んだのは洋服づくりではなく、スタイルのつくり方とか、頭の置き方ってところです。マウンテンリサーチというのは、一つのベースにフォーカスを当て、その場所に自分達として何が必要か? といった形で洋服やギアが出来上がっていくブランドです。それこそ、スタイルそのものです。

自分で始める時も自分のスタイル、つまりは主観といったところに対しては、ものすごく意識しましたし、デリケートに扱ってきたわけです。その上で、皮肉ったわけではないんですが、僕はまず都会の男性像をつくりたいといった思いが強く、山や海ではなく、都会で、いわゆる東京で、日本で一番面白い場所だと少年時代に憧れた場所で、その空気感を孕んだ雰囲気、ムード、匂いのような物を作りたいと考えました。

―――「着飾る」っていうのは、服を着飾るというよりは、どちらかというとオーラを纏うというようなイメージでしょうか。

その表現が近いと考えます。それを一番分かりやすく言えて、なおかつ毛嫌いされている言葉が「着飾る」といったワードだと考えていて、それでよくこの言葉を意識的に使っています。変な言い方かもしれませんが、つくっている洋服自体が安くないので。もちろん高いには高いなりの理由があるんですけど、高い金額を払い購入していただいたものを「リラックスウェア」とは言いたくないので。

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BED j.w. FORD 2017SS COLLECTION

―――そもそもの質問にはなりますが、ブランド名はイギリスにインスパイアされているのですか。

ベッドフォードって面白い名前で、イギリスにベッドフォードっていうエリアがあるんですけど、アメリカにはクウィーンの隣町がベッドフォードというんです。今はちょっと観光地化してしまってるんですけど、旅行で一か月間ぐらいちょっと滞在した時は、まだ倉庫街で何とも言えない恐いムードで。いわゆるジャンキーみたいな人だったり、いろんなアーティストがいました。

当時は、物件も安かったんでしょうね。暮らしている人たちの空気感だったたりとか、なんとなくとてもカッコよくて、“何か”が始まりそうなムードがあって。今では、東京で例えるなら中目黒みたいな街になっちゃったんですけど。イギリスでもいいし、ニューヨークでもいいし、オーストラリアでも、どこにでもある名前なので、いろいろ人が自由な捉え方をしてくれる地名だなと思って。

――― 後付けした J.W.には意味があったりするんですか。

ないですないです。意味はなんですかって聞かれるたびに、今となっては困っています。
自分で言うのも変ですけど、ブランドとしてここまで、東京でショーをやれたりとか、海外でショーを実現できたりとか考えてもなかった。そんな気持ちが多分どこかにあるんですよね。もうちょっとアウトサイダーでいたいって思っていた自分もいて。そういうやり方で始めたんで、ですけど、本当に時代と周りの人たちの協力のおかげで、今はなんとか、このスタンスでしっかりと立っていられるので、不思議なものだなあって思ったりしています。

―――当時のエピソードを伺った上で、今のブランドを見ると夢がありますね。

そんな良いもんじゃなかったですよ。悔しかったですしね。ロゴものを作って、ドカーンと売れていく同期の方は割といたんで。それを横目で見ながら「多分5年後は自分の方が上にいる。5年後こいつらいないな」とか思っていました。本人たちにも言葉に出してましたけど、そんなこと言いながらバイトしてたんで、凄く情けなかったですけどね。

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BED j.w. FORD 2017SS COLLECTION

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BED j.w. FORD 2017SS COLLECTION

―――東京のカルチャーといえば、ロゴ、グラフィックが上手いみたいな風潮がありましたよね。

裏原宿というものには、僕はすごく尊敬の念があるんです。裏原はプリントTシャツっていうものを発明したよねっていう話はよくあがるんですけど、自分はそこではない気がして。裏原宿が作ったのは、大人がT シャツに短パンで、いい車に乗る“文化”を作ったことだと思うんです。それは本当にすごいことだと思っています。ただ、僕はその真逆をやりたいなって常々思っていますし、考えています。言葉のままなら、田舎の砂利道をコートで颯爽と歩く男性とかね。

―――少なくとも、ついこの前のシーズンくらいまでは、裏原宿のカルチャーがモードでも最前線っていうところがあったと思います。何か感じるものはありましたか。

ありましたよ。僕がパリに行きはじめた時って、本当にちょうどVETEMENTSが大全盛期を迎える時だったんです。みんなストリート一色っていう。正直、うわーって思っちゃいましたけど。「オレ、全然違うわ、そういうテンションじゃないわ、どうしよう」って。

そういう気持ちはあったんですけど、またここから始めればいいかと。東京でやってきたことと同じだと。今ではちょっとずつそのトレンドも落ち着いてきていると思っていて。ホッとしているというよりは、情報の速さ、量みたいな物を考えればそりゃそうだろうなと。本来なら、とんでもないニュースだと思うんです。「Louis VuittonとSupremeがコラボした」とか、「NIKEとDiorがコラボした」みたいな情報のスピードが速すぎて、ビックリすることなのに、一瞬で何事も無かったかのようになってて。僕らが今まで特別なことだって思ってたことは当たり前になってしまった。

つまり、今特別なことっていうのは、丁寧に作って、丁寧に届けること。当たり前の作業を真面目に、相手にもっと人間の体温として届けていくっていうことなのかな、と思っています。

Shinpei Yamagishi
石川県出身。BED J.W. FORD デザイナー。2010年、最初のシーズンを展示会形式で発表する。’17 春夏には、初コレクションを東京で発表。’19 春夏、Pitti Uomo 94にゲストデザイナーとして参加、adidas Originals とのコラボレーション商品を発表。その年の秋冬から Milan Fashion Week に。 ’20秋冬より、パリでコレクションを発表する。

TEXT=ゲーテ編集部

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