現在、配信中の韓国ドラマ『ムービング』が反響を呼んでいる。韓国の人気ウェブ漫画を実写化した本作は、特殊能力を隠して生きる3組の親子が、謎の組織との闘いに挑んでいくアクションヒーロードラマだ。Disney+史上、最大級の制作費が投入され、豪華キャストが集結したことでも話題だ。連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは
配信前から話題! 大ヒット漫画の実写版
2023年8月9日からDisney+で配信中のオリジナル韓国ドラマ『ムービング』。特殊能力を隠して生きる3組の親子が、謎の組織に立ち向かう姿を描く、本格SFヒーローアクションだ。
韓国で大ヒットしたウェブ漫画『Moving -ムービング-』の実写化であり、映画『エクストリーム・ジョブ』のリュ・スンリョン、ドラマ『トンイ』『ハピネス -守りたいもの-』のハン・ヒョジュ、『わかっていても』のイ・ジョンハ、『還魂2』『Sweet Home -俺と世界の絶望-』のコ・ユンジョンら豪華キャストが集合。
それゆえ配信前から話題を集めていたが、配信開始後もあらゆるランキングで1位を占める人気ぶりを見せ、一部では「第2の『イカゲーム』になるのでは?」という期待の声も上がっている。
Disney+が最後の賭けに出た期待作
特に注目を集めるのは『ムービング』に投じられた制作費だ。
韓国ドラマ初の試みという「超能力を題材としたアクションスリラー」を謳うだけあって、制作費はなんと約650億ウォン(約70億円)。“ヨン様”ことペ・ヨンジュンの主演ドラマ『太王四神記』(2007年作)が持っていた韓国ドラマ史上最大制作費の記録(550億ウォン)を塗り替えた。
最近、Disney Koreaのオリジナルコンテンツチームが事実上解散したため、Disney+ではこれ以上韓国オリジナルコンテンツが見られないかもしれないという声もあった。それだけに、韓国メディアは「Disney+が最後の賭けに出た期待作」などの見出しも打っている。
実際、『ムービング』に対するDisney+の期待はプロモーションや配信方法にもよく現れていた。
配信1ヵ月前からティーザー予告編を大々的に打ち出して、韓国の人気作家である原作者・Kang Full氏のすごさや各キャラクターについて詳しく紹介。
また、1~7話を一挙配信した後、8話以降は毎週2話ずつ順次公開する方法を採用。1~7話で視聴者を確実に取り込むという狙いだ。
『ムービング』のヒット次第で韓国オリジナルコンテンツに対するDisney+の投資の行方が決まると言っても過言ではないだろう。
そのため韓国のコンテンツ業界は『ムービング』の成果に目を向けているが、実はこのような“超大作”を見る業界の視線は少し複雑だという。
今や世界的に脚光を浴びる韓国ドラマだが、韓国ではドラマの制作費が200億ウォン(約21億円)に及ぶだけでも主要テレビ局での編成が難しい。
2022年、社会現象ともいえるほど爆発的ヒットを飛ばしたドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』も、総制作費が150億ウォン(約16億円)を超えるという噂が流れたことで、KBSやSBSなど韓国の地上波主要テレビ局は食い込めなかった。
そのため、『ウ・ヨンウ』の制作会社ASTORYは、結果的にケーブル局・ENAとNetflixの2箇所に放映権を売却した。
年々高まるドラマの制作費をまかなうべく、制作会社が新作の売り先として真っ先に訪ねるのが動画配信プラットフォーム業界で1位を誇るNetflixだという。
『イカゲーム』に300億ウォン(約32億)を投資して1兆ウォン(約1086億円)以上の収益を上げたと言われるNetflixは、高い制作費を負担する代わりに成功時の利益をすべて持っていくという戦略を貫いている。
そういう状況のなか、Disney+が社運を賭けたともいえる『ムービング』は、今後の韓国ドラマ業界の見通しを立てる指標になるのではないだろうか。
韓国的な要素と世界に馴染みやすいSF要素がうまくバランスを保ちながら、巨額の制作費も納得できる出来栄えを見せている『ムービング』の躍進に、引き続き注目したい。
ちなみに、メンバーたちを象徴するウサギのキャラクターでIP(知的財産)ビジネスにも積極的であり、現在はLINE FRIENDS、Spotifyとコラボした公式グッズやキャンペーンを展開中だ。
■著者・李ハナ
韓国・釜山(プサン)で生まれ育ち、独学で日本語を勉強し現在に至る。『スポーツソウル日本版』の芸能班デスクなどを務め、2015年から日本語原稿で韓国エンタメの最新トレンドと底力を多数紹介。著書に『韓国ドラマで楽しくおぼえる! 役立つ韓国語読本』(共著作・双葉社)。
■連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。