今、若い女子たちがおじさん俳優に熱狂している。なぜ同世代の俳優やアイドルではなく、おじさんにハマるのだろうか。女子から好感を持たれるコツやヒントを、話題の韓国ドラマを通して探る。連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
イ・ジョンジェ、チョン・ウソン、イ・ドンウクら、40代の俳優に女子が熱狂する理由
「私のパパは41歳。パパ、ごめん…。私ね、ヒョンビンが好き♡」
これは、韓国の俳優ヒョンビンの新しい主演映画『共助2:インターナショナル』(原題)の舞台挨拶の時、とある女性ファンが手にしていたメッセージボードに書かれていた言葉だ。パパが41歳ということは、彼女はおそらく10代である可能性が高い。
なぜ彼女はパパに「ごめん」と謝っているのか。『愛の不時着』で日本でも有名なヒョンビンは1982年生まれで、今年40歳。つまり、パパより1歳しか違わないヒョンビンが好きで舞台挨拶に参加したことに対する背徳感と、ファンとしての熱心さを「ごめん」という言葉に込めたのだろう。
Z世代ならではのセンスが光るこのメッセージボードは、当然ヒョンビンの目にも留まった。ヒョンビンがそれを見て思わず吹き出した様子がしっかりと動画に収められ、韓国のあらゆるSNSで話題になったのである。
このエピソードは、最近韓国で起きている新現象を示唆している。その現象とは、40代以上のアジョシ(韓国語でおじさんという意味)俳優たちを「推し」として応援する10、20代のZ世代の女性が増えていることだ。
Netflixシリーズ『イカゲーム』の主演俳優イ・ジョンジェと、映画『鋼鉄の雨』『無垢なる証人』などに出演した俳優チョン・ウソンも、この「アジョシ俳優ブーム」を享受している。2人とも今年49歳だ。
イ・ジョンジェは『イカゲーム』のヒット後、映画監督になって公の場に現れる。自身が演出兼主演を務めた監督デビュー作『HUNT』を世に送り出したのだ。この映画でイ・ジョンジェとW主演を務めたのがチョン・ウソン。実はこの2人、1999年の韓国映画『太陽はない』での共演をきっかけに友情を深め、今や韓国芸能界きっての親友であり、芸能事務所を共同設立したビジネスパートナーでもある。
『HUNT』の公開によって再び取り上げられた2人の格別な友情に、Z世代の女性たちも大いに興味を示した。『イカゲーム』のおじさんが昔は青春スターだったなんて、彼女たちにはかえって新鮮だったのかもしれない。
その上、トレンドを取り入れた『HUNT』のプロモーション活動が若い世代に大ウケしたことも、2人の人気をさらに高めた。イ・ジョンジェ、チョン・ウソンはファンから「チョンダム夫婦」という愛称をつけられ、理想の俳優コンビとして推されている(ちなみにチョンダムとは、2人が立ち上げた事務所がある街の地名。夫婦というのはZ世代のユーモアなので、真に受けないでいただきたい)。
他にも『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』で知られるイ・ドンウク(40)、映画『殺人者の記憶法』やドラマ『熱血司祭』に出演したキム・ナムギル(42)、Netflixシリーズ『ナルコの神』で存在感を発揮したチョ・ウジン(43)らが、Z世代の女性たちを虜にしている。
10、20代の若い世代といえば、同年代のスターに憧れるのが一般的だと思われるが、彼女たちはなぜ歳の離れたアジョシ俳優たちを「推し」にするのだろうか。
先日、韓国のツイッターで多くの共感を集めた記事が、今の現象をズバリ分析していたので少し紹介したい。
2022年9月23日の韓国紙『京郷新聞』に掲載された記事「おじさん熱風の裏面」によると、Z世代の女性ファンを虜にするアジョシ俳優たちには、大きく2つの共通点があるという。
その1つ目は容姿端麗だ。
韓国芸能界にはいつの間にか「雰囲気イケメン」や「個性派イケメン」の若手俳優が急増しており、「王道イケメン」が姿を消しつつある。そこで目鼻立ちくっきりの王道イケメンが恋しくなったZ世代の女性たちが、40、50代の俳優に視野を広げるようになったのだという。
王道イケメンじゃなくても、顔と身体にきちんと手入れの行き届いた印象を与えていることが大事だ。日韓問わず、男性に対する好感度ポイントとして必ず挙がるのが「清潔感」であることは、言うまでもない。
特筆したいのは、次の2つ目だ。
記事では、実はアジョシ俳優ブームの要は「外見より態度だ」と主張する。いま絶大な人気を博しているアジョシ俳優の傾向として、若い女性ファンからの好意や愛情表現を当たり前だと勘違いしない「淡白でストイックな言動」が多いというのだ。
一例として『HUNT』の舞台挨拶の時、婚姻届を差し出したり、ウェディングドレスを着てきたりするファンがあまりにも多く、それにうんざりしたチョン・ウソンがガチで「プロポーズ禁止令」を出したことは有名な逸話だ。
これは、チョン・ウソンがZ世代の女性ファンからの声援を“異性にモテる感覚”として受け入れていないことを意味するが、そんな彼の態度を受け、ファンは自分が性的対象として見られないことに安心感を覚えるのだ。だからこそ安心して好きを爆発できるし、自分の健全な推し活に胸を張れる。
この矛盾こそがアジョシ俳優ブームを支える実情であり、多くのZ世代の女性が自ら「私のおじさん」を作り出している理由だ。
若手俳優にはない“無害な魅力”を、40代の俳優たちに見出している韓国のZ世代の女性たち。この新現象は、日本のアジョシたちも注目してみてはいかがだろうか。
■連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。