ENTERTAINMENT

2022.07.08

滝藤賢一がその演技力を絶賛! 間宮祥太朗主演の映画『破戒』

役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介する連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい! 今回は2022年7月8日公開の『破戒』を取り上げる。

破壊

©全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

父親からの戒めを破る。その決意の先に見えたものとは

日本文学をきちんと読まずにここまで生きてしまいました。学生時代、あんなに時間があったはずなのに。今は台本の台詞を覚えることが何よりの優先事項なので、なかなか小説を手にすることがない。来世こそは文学青年になりたいと心底思う滝藤であります。

そんな私でも島崎藤村の名前は知っています。『夜明け前』のタイトルも聞いたことがある。そして今回の作品も。ずっと『破壊』だと思っていたのですが、大間違いでした。『破戒』だったのかあ!!

主人公の瀬川丑松(うしまつ)は故郷を出る時、父親から被差別部落出身であることを決して人に明かすことなく生きろと言われます。その父からの戒めを破ることを決意するまでのお話。

これは、想像するに辛い。学校で親友ができても、年頃になり好きな人ができても、心の中に言えないことがある。その苦悩を、見事に演じたのは、NHKの連続テレビ小説『半分、青い。』で私の娘と結婚する男を演じた間宮祥太朗君です。憂いのある眼差し、すっくと立った姿勢、感情を押しこめた表情。静かな演技なので、こちらもゆっくり丑松の心情を慮(おもんぱか)って映画を観ることができる。

原作者である島崎藤村は小学校教員時代、勤務先のエリアにかつて被差別部落出身で、偏見と戦いながらも、教育者として生徒に慕われた人がいた話を同僚から聞きます。そこから取材を重ねて、『破戒』を自費出版したそうです。冒頭、丑松の逗留先の宿で、被差別部落出身であることが判明したことから、けたたましく追いだされるお大尽が出てきますが、それもその先生の実体験だそうです。

私が思うに、島崎藤村がプライベートな共感や関心から書いた小説だからか、この映画もすごくわかりやすい。今もSNSなどにヘイトな言動を記す人がいますが、誰かを差別することで自分の自尊心を保つのってダサすぎる。形は違えど差別が続く、変わらない世の中で、そんな差別的なことを言っているのは、ほんの一部の人間だと思うけどなあ。人間はもっと素晴らしい生き物だと信じたい!

『破戒』
2022/日本
監督:前田和男
出演:間宮祥太朗、石井杏奈、矢本悠馬、高橋和也ほか
配給:東映ビデオ
2022年7月8日より丸の内TOEIほか全国公開
1906(明治39)年に島崎藤村によって自費出版された長編小説「破戒」を60年ぶりに映画化。過去に木下惠介、市川 崑によって映画化されている。被差別部落に生まれた主人公の苦悩は出版から110年以上が経っても部落差別のほか多くの差別問題として見る者に多くの示唆を与える。

【連載 滝藤賢一の映画独り語り座】

滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。絶賛公開中の映画『極主夫道 ザ・シネマ』で元極道の虎二郎を演じている。撮影のためにつくり上げた身体にも注目。ちなみに撮影時は体脂肪8%だったという。

COMPOSITION=金原由佳

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