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2022.02.01

恋愛以外もハマる! 政治に大失望中の人におすすめの韓国ドラマ『サバイバー 60日間の大統領』

2021年12月20日(月)に発売となった映画ライター・渥美志保の最新刊『大人もハマる! 韓国ドラマ 推しの50本』が話題だ。韓国ドラマは数あれど、厳選50作品を通じて、恋愛、イケメンだけではない、社会派サスペンス、歴史スペクタル、アクションなど、ハズレなしの隠れた名作を掘り起こす。今回は特別に『サバイバー 60日間の大統領』を引用して解説。人を惹きつける魅力のあるリーダーとは? 大統領の秘書は切れ者揃い? エンターテインメントの醍醐味を味わえる作品。この本を読んでからドラマを観れば、面白さが爆増するはず。

写真:Collection Christophel/アフロ

『サバイバー 60日間の大統領』/主人公はオードリー・タンのような人物

ジェンダーギャップ指数120位の日本で「ロだけ男女平等風」のおじいさん、おじさんおばさんの政治家たちを見ていると、会社や社会の支配層に居座っているこういう人たちが一掃されない限り、世の中は変わらないな……と暗澹たる気持ちになる。平時は日々の忙しさで後まわしにしていたが、コロナ禍における政治家のあまりの無能ぶりを毎日のように見せられると、ただの暗澹じゃ足りない、ドス黒澹とかヘドロ暗澹とか真っ暗闇澹とか、新しい言葉が必要なんではと思う。

『サバイバー:8日間の大統領』は、そんな政治に大失望中の人におすすめの作品である。ドラマの始まりが凄い。国会議事堂の爆破テロで、大統領以下の閣僚とほとんどの現役議員がもろとも死んでしまうのだ。韓国では大統領が任期途中で死去した場合、8日以内に選挙が行われる。そのあいだ仕事を引き継ぐのは「大統領権限代行」で、閣僚の中で継承順位が決まっているのだが、順位も何も、生き残ったのはこの日の議会に欠席していたひとりだけ。それがKAIST(韓国科学技術院。ソウル大以上の偏差値の理系専門の国立大学)の教授から環境庁長官に抜擢されたパク・ムジン(チ・ジニ、 『宮廷女官チャングムの誓い』)。そもそも政治家ではない環境分野の天才、つまり台湾のオードリー・タンのような男である。

ちなみにこのドラマはアメリカのドラマ『サバイバー:宿命の大統領』の韓国版リメイクなのだが、法律の違いによって大きく異なる部分がある。アメリカでは、任期中に大統領が死亡すれば後を引き継ぐ者はそのまま大統領になるが、韓国ではあくまで大統領「権限代行」だ。つまり権限が弱く、周囲にもナメられがちである。さらにムジンは、そもそも権力に興味がなく、「60日が終わったら大学に戻ります」と口癖のように言う。

そんな人が、政治の怒涛に巻き込まれてゆく。爆破テロの原因究明で真っ先に考えられる北朝鮮との関係が緊迫する。時を同じくして消えた北朝鮮の潜水艦に、軍は「やられる前にやれ」といきり立ち、主導権を取ろうと米軍も出てくる。これを機に北朝鮮に由来を持つ人々への差別や極右派のデモが始まる。60日後の大統領選への出馬を狙う与野党の党首たちは、そうした分断を利用して支持を集めようとする。

リーダーのまっすぐさが若手スタッフを惹きつける

次々と起こる軍事、外交内政上の問題の中で、際立つのはムジンの「まっすぐさ」だ。前統領のスタッフたちは、ことあるごとに「政治は妥協だ、取引だ、手段を選ばない足の引っ張りあいだ」と言いながら戦略を立てるのだが、ムジンはそれをことごとく拒絶する。日本で言えば「永田町の常識」でなく、「(部下を含めた)国民の命が最優先」「弱きものを助ける」「嘘をつかない」といった、きわめて一般的な善良さと正直さで事にあたり、理系らしい合理的な判断を下し、自信が持てないときは人権派弁護士である妻に相談し、法的根拠と憲法の精神に従う。

その基本路線を決して譲らず、どうにか事をすり抜け支持率を回復させてゆくムジンを見て、周囲のスタッフたちが変化してゆく。とくに変わるのが、「永田町の常識」に慣れきっていない、どこかで理想を信じている大統領府の若手スタッフたちだ。ムジンは「力と支配」で政治を動かそうとする古参を退け、そうした優秀な若手を抜擢する。その一番手が秘書室長のヨンジン(ソンソック、『マザー〜無償の愛』)なのだが、面白いのは、かならずしも彼がムジンの「信者」ではないことだ。「私は嘘はつけません」「いや、代行、嘘じゃないでしょ、方便でしょ?」「いえ、嘘は無理」「いやあの、代行〜!!」みたいなやりとりがいちいち可笑しい。

そしてついに彼はキレて言う。「政治の場で正直であることは、戦場で丸腰でいるのと同じ。いくら守ろうと思っても守れないじゃないですか!」。堅物のムジンはその意見にかならずしも賛同はしないが、彼を「僕に必要な人」と自分のブレインのトップに据える。そして一方のヨンジンは、引き続き振りまわされながら、60日後の大統領選に立候補するようムジンを説得しはじめるのだ。

自分が仕える人には、いい人ではなく勝てる人を

前大統領の善良さを愛しながら、その政治的無能さも知っている現実主義者のヨンジンは、次に自分が仕える大統領には「いい人でなく勝てる人」と決めている。だが同時に理想主義者でもある彼は言う。「代行は勝てる人。でも代行の勝負には、敗者がいない」。ムジンは「力による支配で邪魔者を排除する」という旧来型の政治に否を唱える存在なのだ。

ドラマの最大の謎は「爆破テロを起こしたのは誰か? そしてなぜか?」なのだが、その鍵を握る人物がオ議員(イ・ジュニョク、『秘密の森』)だ。議事堂の瓦磯から救出された唯一のサバイバーである彼は、やがて国を救う英雄のように祭り上げられてゆく。「元軍人で全羅道出身」というその設定は、このドラマに通奏低音として響き続ける「差別」を象徴している。

全羅道は朝鮮半島の歴史における伝説の時代からの「地域差別」の対象であり、それゆえにもっともリベラルな地域だ。1980年に起きた民主化運動の象徴である「光州事件」の光州もその地域にある都市で、全羅道出身の唯一の大統領、金大中の出身地である。激動の60日間を通じて出馬を決意したムジン、その大きな目標が「包括的差別禁止法」の成立だ。

現実世界でも2007年から韓国議会に提出されながら否決され続けている「包括的差別禁止法」は、人種、性別、性的指向、障害、出身地、宗教、思想など、あらゆる差別を禁止するものだ。もちろん韓国には激烈な差別が存在する。だが少なくとも、政治をあきらめてはいない。パク・ムジンのセリフが心に響く。「政治以外の何が、問題を解決できるのか。政治は神が人間に与えた終わりなき答えだ」。こんな政治家が日本にもいたらいいのになあ。

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Shiho Atsumi
ライター。カルチャー、人物インタビュー、コラムなどを中心に執筆、多くの媒体で連載を持つ。1990年大より釜山国際映画祭に通い続け、韓国カルチャーへの取材は、映画監督、俳優、アイドル、アーティスト、作家など幅広い。『冬のソナタ』に始まる韓国ドラマ歴は現在も更新中。現在はELLEデジタルにて「推しのイケメン、ハマる韓ドラ」好評連載中。

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