役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
自分の余命を知った時、残された人生をいかに生きるか
皆さまに理想の男性像があるように、滝藤にも憧れの俳優が何人もおります。
例えばこのコラムでたびたび言及してきたゲイリー・オールドマンやジャン・レノ。今回紹介する映画『グッバイ、リチャード!』の主役を務めるジョニー・デップもまた、学生時代から刺激を受け続ける存在です。
今回の作品、インディーズなんですね。『シザーハンズ』『チャーリーとチョコレート工場』そして、『パイレーツ・オブ・カリビアン』などメジャー作品で、まるで漫画のようなキャラクターで印象に残る彼がインディーズに出る。しかも、何でもない大学教授役をサラッとこなす。力を見せつけますね。
そして、彼はまたジャック・スパロウの扮装をして、難病の子供たちの病院に慰安訪問も行っている。自分がこの世に生まれてきた役割を理解し、全うしているように感じます。人間性も素晴らしく憧れの存在です。
この映画、英文学の教授が、余命宣告されるところから始まります。治療をしなければ、持って半年。治療をすれば1年から1年半は生きられるが、苦痛を伴う。さあ、皆さまならどうしますか?
私は子供がまだ小さいので苦しくても一分一秒でも長く生きられるほうを選択すると思います。しかし、ジョニー・デップ演じるリチャードは治療しないと決断。全体的には、感情がずっと平坦で、淡々としている。
アメリカでは、そういう演出と演技にちょっと厳しめの評価だったそうですが、私はむしろ、彼がわかりやすい感情表現を選択していないところに想像が膨らみ共感を持ちました。
加えて、どうせ死ぬんだったらと、日常における偽善めいた行動や考えをすべて捨ててしまうのも痛快です。決して派手な映画ではありませんが、今のご時世と重なる部分があり、見入ってしまいました。生きているということは必ず死と隣り合わせであると思い知らされます。
家族に介護をいっさい求めない決断も潔く、理想ではあるけれど、果たして自分はその選択ができるのか? 命について考えさせられる1本です。
『グッバイ、リチャード!』
アーティストの美しい妻、愛らしい娘。優雅な大学教授として長年、英文学を教えてきたリチャード。ところがある日、末期の肺がんとの宣告を受け、「やりたいことしかしない」という決断をし、残された人生を謳歌すべく過ごしていく。
2018/アメリカ
監督:ウェイン・ロバーツ
出演:ジョニー・デップ、ローズマリー・デウィット、ダニー・ヒューストン、ゾーイ・ドゥイッチ
配給:キノフィルムズ
8月21日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開