映画『パリ・テキサス』『ベルリン・天使の詩』などで知られる、親日家のヴィム・ヴェンダース監督が10年ぶりに来日。日本財団による東京・渋谷区内の公衆トイレを改修するプロジェクト<THE TOKYO TOILET>を題材とした映画で俳優・役所広司とタッグを組むことが発表された。年内に撮影し、2023年の公開を予定している。
現代映画界の巨匠、ヴィム・ヴェンダース監督と役所広司が初タッグ
ファーストリテイリング取締役・柳井康治氏発案のもと、日本財団が実施する「THE TOKYO TOILET」は、安藤忠雄氏や伊東豊雄氏、隈研吾氏、坂茂氏、片山正通氏、佐藤可士和氏をはじめとする世界的に活躍する建築家やクリエイター16人が区内の公衆トイレ17ヵ所をリデザインするプロジェクト。ネガティブなイメージから入りづらい状況がある公衆トイレを、デザインとクリエイティブの力を活用し「誰もが快適に使用できる」ようにすることを目指す取り組みだ。
2020年にスタートし、現在までに12ヵ所が完成。その斬新でユニークなプロジェクトは、日本だけでなく海外からも大きな注目を集めている。
【THE TOKYO TOILET】そのほかのクリエイターが手がけた公衆トイレはこちら
そして先日、このプロジェクトを題材に、ドイツの映画監督・ヴィム・ヴェンダース氏がアートフィルムを制作することが発表された。主演を務めるのは俳優の役所広司さん。365日休まず1日に2回、公共トイレのメンテナンスを行う清掃員を演じる。
記者会見で役所さんは「この職業についてきて40年。しがみついてきてよかった。素晴らしいご褒美をいただいたような感じでとても嬉しいです」とコメント。
また、ヴィム・ヴェンダース監督は、役所さんに対して「自分というものがありながら、作品や環境によってまったく異なるキャラクターを演じ分けることができる俳優だと思う。私は好きではない俳優とは仕事ができないが、役所さんは本当に最初から好きになった。悪い役を演じている時でもすごくいいなと思っていたので、なぜここまで私は役所さんのことが好きなのか? ということを知るためにも、是非ご一緒したいと思っています」とラブコール。
それを受け、役所さんは「今回の作品で監督に嫌われないように頑張りたいです(笑)」と意気込みを語った。
安藤忠雄が設計を手がけた公衆トイレ「あまやどり」
<THE TOKYO TOILET>プロジェクトの発案者である柳井氏は「オリンピックのタイミングでいろんな方が海外から来られるということでその時に、東京っていいなと思ってもらえることが最初のきっかけです」と話す。
記者会見の前にはプロジェクトの責任者である日本財団・笹川順平氏とともに、ヴェンダース監督と旧知の仲の安藤氏が手がけた公衆トイレ「あまやどり」の視察も行われた。
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「一般的に、公共のトイレは世界中どこにいっても綺麗なものはありません。そのトイレが清潔だったら、海外から来た人に日本の心が伝わるのではないか、という想いのもと、光も風も入ってくることで美しさを出せるよう考えました。また急な夕立ちで雨宿りができるといいなと思ったのと、丸い地球を表現するために、庇(ひさし)のある円形デザインを採用しました」と安藤氏。
<THE TOKYO TOILET>では清掃員が雨の日も雪の日も毎日、何度も清掃し、メンテナンスを行う。1年以上たってもピカピカのトイレに、安藤氏は心底驚いていた。
このアートフィルムを通して「公共トイレを綺麗に使う。そういった人の意識を変えるきっかけになれば」と柳井氏が言うように、常識を覆したり、視点を変えるのがアートの持つ力。
巨匠が東京の街を、日本の心をどう描くか。映画はもちろん、<THE TOKYO TOILET>の今後から目が離せない。