開業して1年以上が経ったブルガリ ホテル 東京。そのシグニチャーダイニング「イル・リストランテ ニコ・ロミート」はミシュランの星も獲得。今、東京のダイニングシーンで注目を集めている。来日した世界的シェフ、ニコ・ロミート氏に話を聞いた。
イタリア料理の真の基準を提示
その佇まいは情熱溢れるイタリアンのシェフというより、思考を巡らす学者のよう。
ニコ・ロミート氏はイタリア・アブルッツォ州で、2014年からミシュラン三つ星を獲得し続けるレストラン「レアーレ」のオーナーシェフ。また、若手の育成にも力を入れており、学校の運営なども積極的に行う、現在のイタリア料理界の重鎮のひとりだ。
そしてロミート氏は、2017年よりブルガリとパートナーシップを組み、ブルガリ ホテルのイタリアンを監修するシェフでもある。その料理は2023年4月に開業したブルガリ ホテル 東京の「イル・リストランテ ニコ・ロミート」で味わうことができる。
ミラノ、バリ、ロンドン、北京、ドバイ、上海、パリに続き、東京に世界で8番目のブルガリ ホテルとして誕生(2023年6月にはローマでも開業)したブルガリ ホテル 東京。開業して1年が経ち、久しぶりに来日したシェフに話を聞いた。
「『イル・リストランテ ニコ・ロミート』では、オーセンティックなイタリア料理を提供します。私の料理は、いずれもシンプルで過剰な装飾はありません。ひとつひとつを研ぎ澄ましていき、食材の真髄、ピュアさを追求したものです。
アブルッツォにある私の店『レアーレ』は、コンテンポラリーなイタリアン。伝統的な料理を実験的ともいえるスタイルで再解釈したもので、『イル・リストランテ ニコ・ロミート』の料理とは異なります。ただ、イタリア料理の真の基準を提示するという点では同じ。『レアーレ』と『イル・リストランテ ニコ・ロミート』の料理は、コインの表と裏といった具合でしょうか。
『レアーレ』はコース仕立てですが、『イル・リストランテ ニコ・ロミート』はホテルダイニングですので、トマトのパスタだけ食べたいといった、いろいろなお客様がいらっしゃいます。ですので、コースもご用意しますが、アラカルトを多数揃えております」
そのトマトのパスタ「スパゲッティ ポモドーロ」は、いわゆるイタリア的なマンマの料理。しかしロミート氏の手にかかると、魔法のごときの逸品に仕上がる。
ひと口食べた瞬間に、口の中に広がる鮮烈な香り。単に凝縮したトマトの旨味とは言えない、新しい味わいに驚かされる。旨味が濃厚でコクがあるのに軽やか。ただただ唸らずにいられない。シンプルにして実に奥深き皿だ。ロミート氏が言う「素材を吟味し、幾重もの技を駆使することで到達した究極のシンプリシティ」を象徴するひと皿だ。
ブルガリとニコ・ロミートの共通する世界観
「世界各国の『イル・リストランテ ニコ・ロミート』と東京の『イル・リストランテ ニコ・ロミート』では何が違いますか、ということをよく聞かれますが、まったく同じです。もちろん食材は現地で調達しますし、スタッフも異なりますが、どこにいても同じ味、サービスを提供します。哲学と方向性をみな一緒にする。これこそが『イル・リストランテ ニコ・ロミート』の唯一無二なところです。
そして私はイタリアが世界に誇るハイジュエラー、ブルガリと同じ価値観を共有していると自負しております。美しさをひたすら追求するブルガリは、マテリアルを厳選し、革新的な技術やデザインで商品に仕上げていく。その過程は、食材を選ぶところからはじまる私の料理も同じです」
ロミート氏の話のなかには何度も「RICERCA(リサーチ)」「LABORATORIO(ラボ)」という単語が登場する。ロミート氏の研ぎ澄まされた料理は、食材への深い探求心、そしてラボでの研究から生み出されたものだ。
ロミート氏は当初、料理人になるつもりはなく、大学で経済学を学んだ。故郷のアブルッツォで両親が菓子店を営んでいたものの、大学在学中に父が倒れたことがきっかけで、姉とともに店を継ぎ、独学で料理を始めたという異色の経歴を持つ。その研究熱心な点、几帳面さはイタリア料理界で有名だという。
「私は常に研究の成果を求めています。理論性をもって伝統料理を研究しており、どちらかというと突き詰めていくタイプです。シェフというより学者に近いかもしれません。シェフの仕事は素材を変換すること。新しい発見をする視点を持つことが大切なのではないでしょうか」
今回の来日では、夏メニューを確認。世界中の「イル・リストランテ ニコ・ロミート」を巡るため、滞在もわずか数日と多忙を極めた。
「開業時に初めて日本に来ましたが、日本の食材の素晴らしさを実感しました。なによりも驚いたのは生産者のパーフェクトな仕事です。とにかく丁寧で、私はイタリアに帰ってから、そのことをイタリアの生産者たちに伝え、リクエストしたくらいです。
私は現地で入手できる素材を駆使しながら、まぎれもないイタリアの味を提供することに心血を注いでいます。素材を選ぶ決め手は、味わいにイタリアらしさを感じるかどうか。そういう点ではオリーブオイルやパルミジャーノ・レッジャーノといった素材はまだイタリアに頼るしかありませんが、例えばリコッタは北海道産のものを使っており、日本の素材の可能性には期待をしています。
イタリア料理の真髄とは何か、と聞かれたら、イタリア人はその議題で喧々諤々とひと晩語り合うくらいさまざまな意見があるでしょう。ただ、私は基本は家庭料理だと思っています。ゆえに調理はシンプルなアプローチが望ましい。地方性があって、食材を大切にする。そういった意味では日本料理と似ているのではないでしょうか」
イル・リストランテ ニコ・ロミート
住所:東京都中央区八重洲2-2-1 ブルガリ ホテル 東京 40階
TEL:03ー6262ー6624(レストラン予約直通10:00~19:00)
営業時間:12:00〜L.O.14:30、18:00~L.O.21:00
定休日:無休
料金:夏のディナーコース¥32,000(税サ込)、 アラカルトあり