美しい里山や季節によって表情を変える海――。自然の営みとともにある、京都の“別の顔”を見つけに。今、足を運びたい「美味しい京都」へ案内する。【特集 京都の秘められしスポット】
移ろう季節を感じる京都・奥座敷にある「とり料理 瀬戸」
洛北と呼ばれるエリアの奥まった北部地域。鞍馬、貴船、大原は、名刹(めいさつ)・古刹が点在する自然豊かな“奥座敷”だ。
万物の命の源である水の神を祀る貴船神社のお膝元とあって「戦争が終わって私が嫁いできた頃は、周りに素晴らしい田園風景が広がっていた」と話すのは「とり料理 瀬戸」の名物女将として、全国から訪れるお客を迎える瀬戸孝子さん。
息子たちにせがまれ、市内まで鶏の唐揚げを食べに出かけたのをきっかけに、本当の鶏の美味しさを知ってもらいたいと店を始めたのが43年前。もともと代々続く養鶏農家だったこともあり、恵まれた環境で大切に育てた鶏の美味しさには自信があった。京都の鳥料理といえば坂本龍馬も好んで食べたという水炊きが有名だが、女将は、昔ながらの古民家で「農家の鳥料理」を出すことに決めた。
静かに燃える炭の上に網を置き、そこで30分前に捌いたばかりの鶏を焼く。ももや胸、内臓など肉の香ばしい匂いが室内に立ちこめ、焼きたてを口に運べば、しっかりとした歯触りのなかに力強い旨味が感じられる。ひととおり焼き物を食べ終えると、炭の上に鍋が乗せられ、ガラスープに九条ねぎやきのこ、さまざまな鶏肉の部位を入れた“鶏すきの部”が始まる。食材の豊かな風味がとけだしたスープでつくる締めの雑炊も絶品で、気取らないけれど味わい深い“農家の料理”に胃の腑も心もじんわり温まる。
現在は1日2組限定の営業で、女将の体調や天候によっては、知る人ぞ知る“はなれ”で料理を楽しむチャンスに恵まれることも。母屋の横に建てられた6畳ほどの別空間は、移り変わる自然の景色をより身近に感じることができ、春の桜、盛夏を伝える虫の声、木々が紅く色づく秋、しんとした雪景色など季節によって雅さもひとしお。
時代の流れで変わりゆくものもあれば、大切に守られ受け継がれていく“京都の原風景”もある。忘れがたい食体験を通して、その尊さを確かに感じるはずだ。
とり料理 瀬戸(Toriryori Seto)
住所:京都府京都市左京区静市市原町336
TEL:075-741-2667
営業時間:12:00~21:00
定休日:月曜(祝日の場合は営業)
席数:2~4名(1グループ)
料金:コース¥8,500
※完全予約制