DRCや5大シャトーは序の口。それを何百本と飲み尽くし、ワインに精通した者だけがたどりつける天界が西麻布にある。秘密のワインバー「なゆた」が、猛者たちを唸らせる存在であり続ける理由とは?
選ばれし愛好家だけが通える比類なき隠れ家
ドアを開けてもワインの陳列棚や冷蔵庫は目に入ってこない。あるのは一枚板のカウンターと、通称“はなちゃん”こと、ソムリエの塙(はなわ)あや子さんの笑顔だけ。
点(た)てたばかりのお抹茶が出てきそうな静謐(せいひつ)な空間。席に着くと、ロブマイヤーのグラスがスッと置かれる。1950年代〜’80年代のノン・ヴィンテージ・シャンパーニュを注いだ、「なゆた」名物の“お通シャン”だ。
規格外な趣向で出迎えてくれる、このなゆたのオーナーは、古酒ツウの間では伝説的存在だった30人限定の会員制ワインバー、Uを手がけた謎のワイン商T氏。「もう少し間口を広げて、ワインを提供する場にしたい」と2年前の10月にオープンさせた店だ。
Uから引き継がれたワインリストは圧巻だ。その数およそ1500種類で、9割がフランス産。特にブルゴーニュの古酒が多く、造り手も滅多にお目にかかれないようなスーパースターが名を連ねる。愛好家なら一日中でもリストを眺めていられるに違いない。しかし当のT氏は、「お客さんのリクエストに応えていたらこうなっちゃって」と気負いがない。
「好きなワインを楽しんでほしい。ただそれだけですね」
まがい物が蔓延(はびこ)る今こそ真に信頼できるワインを
古酒や希少品の仕入れには注意が必要だ。有名オークションでさえ偽物が横行する。
「だから、オークションは使いません」というT氏は、フランス現地の信頼できるクルティエやインポーターに、予め欲しいものを伝えておくという。見つかったら、現地から送られてくる写真で、液面の高さ、色、コルクやラベルなどの状態を細かくチェックし、納得したものだけを購入。
ワイナリー訪問のための渡仏も欠かさず、3年前はアラン・ユドロ・ノエラのロマネ・サン・ヴィヴァンのピジャージュを手伝うなど造り手との親交も深い。
これら希少品や古酒のサービスを一手に担うのが塙さん。癒やし系の雰囲気だが、「古酒を任せられるのは彼女だけ」とT氏が太鼓判を押す実力者だ。古酒の取り扱いと状態を見極める技術は熟練の域。どんな古酒でも、ソムリエナイフ一本で抜栓してしまうというから驚く。
信頼できる人とワインを分かち合いたいと紹介制にしているが、これが会員制と違わぬ狭き門。オークションリスト並みの逸品、希少品揃いゆえ、皆この財宝のありかを広めたくないらしい。コネクションを求めて奮闘する人が後を絶たない隠れ家、それが“なゆた”なのだ。
超貴重! なゆたの垂涎コレクション公開
オークション会場でも天国でもない、これが、なゆたの垂涎コレクション。ワインの神髄を極めるもよし、ただ享楽に溺れるもよし。楽しみ方は自分しだいという究極の贅沢がここに。
超銘酒を縦飲みで
たとえ1本でも出合えたらラッキーなワインがバーティカルで揃う、奇跡の品揃え。
1717年からの歴史を持つ、ブルゴーニュ白ワインの最高峰と誉れ高い大御所。1989年よりビオディナミ農法に取り組む。’60年に植樹された0.08ヘクタールのモンラッシェの畑は、’91年に取得したもの。約1樽(300本弱)しか生産されない希少品。
マダム・ルロワが厳選した畑のみを購入し、1988年に創立したドメーヌ。9つ所有するグラン・クリュのひとつであるシャンベルタンの広さは0.8ヘクタール。「もっとも威厳があり、シャンベルタンの頂点」と塙さんが絶賛する銘柄だ。
モレ・サン・ドニ村に居を構える伝統派の名匠ジャッキー・トルショーが、2005年に引退し畑を売却した際、唯一手元に残したのが、自宅裏にあるこのプルミエ・クリュのレ・ソルベ。自家用に1樽のみ生産しているというレアワイン。
名物“お通シャン”
席に着いたらまず1杯。お通しならぬ“お通シャン”はNV(ノン・ヴィンテージ)のオールド・シャンパーニュ。
ヴィンテージ・シャンパーニュでさえ1950~’80年代のものにはなかなか出合えないというのに、なんとも状態のよい古酒のNVがグラスで楽しめる。「熟成したよさを知ってもらいたい」と塙さん。現在とは異なるラベルデザインを見るのも楽しい。
店最古の1800年代
フランスの歴史が刻まれた銘酒。保存状態も素晴らしく、これぞまさに生きるアート。
入手困難の極み
ボトリングナンバー00000! ロマネ・コンティより入手困難な幻のワインがここに!
店一番の“どデカ”ワイン
ボトルの大きさとしては最大。これを熟成させれば、飲み頃はもはや一世紀超え!?
なゆた
住所:東京都港区西麻布4-11-25 モダンフォルム西麻布ビル パートⅢ 1F
TEL:非公開(紹介制)
営業時間:20:00~翌3:00
休業日:日曜・祝日
※店舗の営業時間等は要問合わせ