GOURMET

2021.05.28

いつか訪れたい! 選ばれしワイン愛好家だけが通える西麻布の隠れ家

DRCや5大シャトーは序の口。それを何百本と飲み尽くし、ワインに精通した者だけがたどりつける天界が西麻布にある。秘密のワインバー「なゆた」が、猛者たちを唸らせる存在であり続ける理由とは?

シュヴァリエ・モンラッシェ ドメーヌ・ドーヴネ

【シュヴァリエ・モンラッシェ ドメーヌ・ドーヴネ】ワイン界の伝説的存在、マダム・ラルー・ビーズ・ルロワが個人で所有するドメーヌ。すべてのワインがごく少量生産で知られる。所有するシュヴァリエ・モンラッシェの畑の広さはわずか0.16ヘクタール。「味わった人にしかわからない炸裂するドーヴネ香」と塙(はなわ)さん。

選ばれし愛好家だけが通える比類なき隠れ家

ドアを開けてもワインの陳列棚や冷蔵庫は目に入ってこない。あるのは一枚板のカウンターと、通称“はなちゃん”こと、ソムリエの塙(はなわ)あや子さんの笑顔だけ。

点(た)てたばかりのお抹茶が出てきそうな静謐(せいひつ)な空間。席に着くと、ロブマイヤーのグラスがスッと置かれる。1950年代〜’80年代のノン・ヴィンテージ・シャンパーニュを注いだ、「なゆた」名物の“お通シャン”だ。

グラスはすべてロブマイヤー

グラスはすべてロブマイヤー。ワインに合わせて使い分ける。右端は、新作のウォーターグラス。

規格外な趣向で出迎えてくれる、このなゆたのオーナーは、古酒ツウの間では伝説的存在だった30人限定の会員制ワインバー、Uを手がけた謎のワイン商T氏。「もう少し間口を広げて、ワインを提供する場にしたい」と2年前の10月にオープンさせた店だ。

Uから引き継がれたワインリストは圧巻だ。その数およそ1500種類で、9割がフランス産。特にブルゴーニュの古酒が多く、造り手も滅多にお目にかかれないようなスーパースターが名を連ねる。愛好家なら一日中でもリストを眺めていられるに違いない。しかし当のT氏は、「お客さんのリクエストに応えていたらこうなっちゃって」と気負いがない。

「好きなワインを楽しんでほしい。ただそれだけですね」

まがい物が蔓延(はびこ)る今こそ真に信頼できるワインを

古酒や希少品の仕入れには注意が必要だ。有名オークションでさえ偽物が横行する。

「だから、オークションは使いません」というT氏は、フランス現地の信頼できるクルティエやインポーターに、予め欲しいものを伝えておくという。見つかったら、現地から送られてくる写真で、液面の高さ、色、コルクやラベルなどの状態を細かくチェックし、納得したものだけを購入。

生ハム盛り合わせと焼きたてのグリッシーニ

料理のメニューは、名物のトリュフピザや松阪牛シャトーブリアンなど6種類。写真は生ハム盛り合わせと焼きたてのグリッシーニ。メニュー開発も塙さんが担う。

ワイナリー訪問のための渡仏も欠かさず、3年前はアラン・ユドロ・ノエラのロマネ・サン・ヴィヴァンのピジャージュを手伝うなど造り手との親交も深い。

これら希少品や古酒のサービスを一手に担うのが塙さん。癒やし系の雰囲気だが、「古酒を任せられるのは彼女だけ」とT氏が太鼓判を押す実力者だ。古酒の取り扱いと状態を見極める技術は熟練の域。どんな古酒でも、ソムリエナイフ一本で抜栓してしまうというから驚く。

三ツ星フレンチなどで活躍した経歴を持つ塙さん

国内の三ツ星フレンチなどで活躍した経歴を持つ塙さん。3年前にT氏にスカウトされたのだそう。

信頼できる人とワインを分かち合いたいと紹介制にしているが、これが会員制と違わぬ狭き門。オークションリスト並みの逸品、希少品揃いゆえ、皆この財宝のありかを広めたくないらしい。コネクションを求めて奮闘する人が後を絶たない隠れ家、それが“なゆた”なのだ。

 

超貴重! なゆたの垂涎コレクション公開

オークション会場でも天国でもない、これが、なゆたの垂涎コレクション。ワインの神髄を極めるもよし、ただ享楽に溺れるもよし。楽しみ方は自分しだいという究極の贅沢がここに。

超銘酒を縦飲みで
たとえ1本でも出合えたらラッキーなワインがバーティカルで揃う、奇跡の品揃え。

モンラッシェ ドメーヌ・ルフレーヴ

モンラッシェ ドメーヌ・ルフレーヴ

1717年からの歴史を持つ、ブルゴーニュ白ワインの最高峰と誉れ高い大御所。1989年よりビオディナミ農法に取り組む。’60年に植樹された0.08ヘクタールのモンラッシェの畑は、’91年に取得したもの。約1樽(300本弱)しか生産されない希少品。

シャンベルタン ドメーヌ・ルロワ

シャンベルタン ドメーヌ・ルロワ

マダム・ルロワが厳選した畑のみを購入し、1988年に創立したドメーヌ。9つ所有するグラン・クリュのひとつであるシャンベルタンの広さは0.8ヘクタール。「もっとも威厳があり、シャンベルタンの頂点」と塙さんが絶賛する銘柄だ。

モレ・サン・ドニ レ・ソルベ ジャッキー・トルショー

モレ・サン・ドニ レ・ソルベ ジャッキー・トルショー

モレ・サン・ドニ村に居を構える伝統派の名匠ジャッキー・トルショーが、2005年に引退し畑を売却した際、唯一手元に残したのが、自宅裏にあるこのプルミエ・クリュのレ・ソルベ。自家用に1樽のみ生産しているというレアワイン。

名物“お通シャン”
席に着いたらまず1杯。お通しならぬ“お通シャン”はNV(ノン・ヴィンテージ)のオールド・シャンパーニュ。

オールドNVシャンパーニュ

オールドNVシャンパーニュ

ヴィンテージ・シャンパーニュでさえ1950~’80年代のものにはなかなか出合えないというのに、なんとも状態のよい古酒のNVがグラスで楽しめる。「熟成したよさを知ってもらいたい」と塙さん。現在とは異なるラベルデザインを見るのも楽しい。

店最古の1800年代
フランスの歴史が刻まれた銘酒。保存状態も素晴らしく、これぞまさに生きるアート。

シャトー・ラフィット・ロッチルド 1887&シャトー・ディケム 1870

シャトー・ラフィット・ロッチルド 1887(左)
厳選した5ヴィンテージしか造られなかった1880年代の貴重な1本。
シャトー・ディケム 1870(右)
プレ・フィロキセラのブドウから造られたディケム。1991年にリコルク済。

入手困難の極み
ボトリングナンバー00000! ロマネ・コンティより入手困難な幻のワインがここに!

バタール・モンラッシェ 2005 ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ

バタール・モンラッシェ 2005 ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ
DRCが1966年にモンラッシェとともに購入した0.17ヘクタールの畑。自家用に300本ほど生産しているだけで、通常ルートでは世に出回らない超レアワイン。

店一番の“どデカ”ワイン
ボトルの大きさとしては最大。これを熟成させれば、飲み頃はもはや一世紀超え!?

シャトー・ディケム 2014 ナビュコドノゾール

シャトー・ディケム 2014 ナビュコドノゾール
15ℓボトルのリリースは年間50本のみ。750mlボトルがミニサイズに見える! ちなみにナビュコドノゾールは新バビロニア王国の名君に由来。

 

一枚板のカウンター

壁を作る前に設えたという、一枚板のカウンターが存在感を放つ。

なゆた
住所:東京都港区西麻布4-11-25 モダンフォルム西麻布ビル パートⅢ 1F
TEL:非公開(紹介制)
営業時間:20:00~翌3:00
休業日:日曜・祝日
※店舗の営業時間等は要問合わせ

TEXT=西田 恵

PHOTOGRAPH=滝川一真

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