AND MORE

2025.07.25

『不適切にもほどがある!』と『ローマの休日』の関係とは? 令和×古典の引用術

「センスのいい人」=「気づきが多い人」。教育やコミュニケーションを研究し『全力!脱力タイムズ』の解説員としてもおなじみの齋藤孝さんが、人生と仕事を劇的に変える「気づき」のメカニズムと習慣のコツを解説する。『「気づき」の快感』より一部を抜粋してお届けします。

ドラマや映画がもっと面白くなる! 古典で得られる“気づき力”

2024年のはじめに『不適切にもほどがある!』(TBS系)という宮藤官九郎さん脚本のテレビドラマが大きな話題となりました。私も当時、毎週楽しみに視聴していた作品です。

ドラマの第七話では、昭和の時代からタイムスリップした純子(河合優実さん)が、美容院で現代風に髪を切ってもらい、美容師のナオキとデートをするシーンが描かれていました。

2人はデートの終わりにレストランで食事を楽しむのですが、ナオキがスマホを落としたために支払いができず、暴れた純子は警察に捕まってしまいます。そして留置場(ろう)で2人はキスを交わします。

昭和に帰った純子が、令和に持ち帰ったデジカメを見ると、撮ったはずの写真は消えてなくなっていました。令和の思い出を尋ねられた彼女は「一番よかったのは牢屋、かな」と答えるのです。

映画についてある程度の知識があり、「宮藤官九郎さんなら、何かを仕込んでいるはず」と思えば、これらのシーンが『ローマの休日』という映画作品のオマージュであると気づきます。

『ローマの休日』では、ヨーロッパ某国のアン王女と、アメリカの新聞記者であるジョーが人目を忍んでデートを楽しみます。王女が美容室で髪を切ったり、バイクの暴走で警察に捕まったりするシーンも描かれます。

ジョーはカメラマンが撮影した2人の写真を記事にしないことを決断し、写真は王女に渡されます。記者会見で一番楽しんだ訪問地を聞かれ、王女は「断然、ローマです」と答えます。

宮藤さんが、これらのシーンを自分の脚本に反映したのは明らかです。

『ローマの休日』を鑑賞した上で、『不適切にもほどがある!』を見ると、どの場面がどのように引用されていたのかがわかります。特に純子のセリフで“牢屋”と“ローマ”をかけているところに、おかしさがあります。そこに気づくかどうかで、ドラマの楽しみは大きく変わります。

ネット上では、パロディに気づいた人が自分の気づきをSNSに書き込み、気づかなかった人が「なるほど」と反応する様子が見られました。私の周囲にも、『不適切にもほどがある!』を楽しみながら、『ローマの休日』を見たことがないという人がいたので、即座に「すぐ見たほうがいいよ」とアドバイスしました。

古典を知っておくと、「これはあの作品のオマージュだ」と気づきます。気づく面白さがあるだけでなく、古典には引用されるだけの魅力があることにも気づくことができるのです。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:「気づき」の快感
齋藤孝

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年9月号

陶酔レストラン ゲーテイスト2025

ゲーテ2025年9月号

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年9月号

陶酔レストラン ゲーテイスト2025

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ9月号』が2025年7月25日に発売となる。食に人生を懸ける 秋元康小山薫堂中田英寿見城徹の“美食四兄弟”が選ぶ、圧倒的にスペシャルなレストランを一挙紹介。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる