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2024.05.31
原価ゼロで売上4000万円! ヤクザが目をつけた「現代の錬金術」
年功序列、終身雇用が崩壊し、欧米型の雇用環境に変わりつつある日本。これからのシビアな社会を生き抜くには、ただの「いい子」ではやっていけません。そんなときヒントになるのは、生き残りを賭けた戦いを日々、繰り広げている裏社会の人たち……いわゆるヤクザの生き方です。リーダーシップ、錬金術、逆境の乗り切り方など、彼らヤクザの「戦略」がよくわかる『ヤクザに学ぶサバイバル戦略』より、その一端をご紹介しましょう。
ある組長の鋭いひらめき
もう何年前のことになるだろうか。テキヤ系若手のA組長は、たまたまその日、クルマを使わず、電車に乗るハメになった。
しばらく電車に乗っているうち、A組長はあることに気がついた。サラリーマンや学生と思しき連中が、買ったばかりの週刊誌やマンガ雑誌を、荷棚や座席にそのまま置いていったり、いともあっさりゴミ箱に捨てていってしまうのだ。
「あぁ、もったいねぇな。読み捨てかい、いまの連中は」
貧乏性のA組長、思わず声をあげた。子どもの頃はマンガ雑誌も買えないほど家が貧しかった。それが一因でヤクザになったようなものだっただけに、なおさら若いヤツの行為が信じられないのだ。貧しかった子どもの頃に思いを馳せながら、
「マンガや週刊誌、いまナンボするんだい?」
と、おつきの者に聞くと、
「マンガは200円、週刊誌は300円くらいですね」
との答えだ。
「ふーん、それにしたって、もったいねぇな。アイツら、買ったそばから捨ててやがる。新品のまんまじゃないか」
実際、それを拾って読んでいるヤツも目についた。
「昔、世のなかが貧しくてモノが何もなかったときには、オレたちの先達が、露店にガラクタまがいのモンを置いたって、飛ぶように売れたっていうんだがなぁ。いまは新品のモンでも捨てる世のなかになったんだなぁ」
「けど、親父さん、見てますと、なかには誰かが捨てるのを待ってる、“拾い”専門のヤツもいますよ」
「そういや、ゴミ箱を漁ってるヤツとか、荷棚を探しまわってるヤツもいたなぁ」
「読み捨ての雑誌に200円でも払うのがもったいないっていうのもいるんですよ」
オレだって、昔ならそのクチだよ、いや、買うカネさえなかったんだ――との言葉を、A組長は呑み込んだ。
「ふーん」
何かを思案している様子のA組長。
「おい、これ、商売になるんじゃないか」
おつきの者には思いもよらないセリフが、やがて組長の口から飛び出した。
「ホームレスを助ける」という大義名分のもとで稼いだ金額は…
A組長が、このおつきの者に命じ、それを実行に移させたのは、それからまもなくのこと。元手も準備期間もほとんどかからなかった。
ホームレスを動員し、マンガ雑誌や週刊誌を、電車のなかやプラットホーム、駅構内など、そこいら中から回収させ、それを1冊10円、20円で買い取ることにしたのだ。当日発売の雑誌は20円、1日でも過ぎたモノには10円支払った。
そして、それを一律100円で売ったのである。売る場所は、都心の最も乗降客の多い駅前、駅改札口近くの道路、地下昇降口など、3カ所ぐらいから出発した。もともとテキヤだから露店商売はお手のものだ。
「なんとまぁ、せこい商売を……」
と、笑った者たちは、あとで自分の不明を恥じることになる。
誰もやらなかったその商売は、大いにアタリ、軌道に乗った。が、しばらくして、イヤでも警察や行政の目につくところとなり、道路不法占拠であるとの苦情が出た。もっとも、おカミが口を出してくるというのは、テキヤ側には当初から織り込み済みのことでもあった。
彼らがそんなことにビクともしなかったのは、大義名分があったからだ。つまり、彼らが安い賃金で雇っている労働者は、ホームレスの連中。彼らのことは新左翼系活動家も支援し、『〇〇共闘委員会』なる運動体もできていた。それを背景にして、テキヤ側は、
「仕事がないというホームレスの人たちの自立のために、オレたちは及ばずながら力になろうとしているんだ」
との大義名分を楯に、警察や区役所の文句も何のその、強引に押し切ったのである。以後、あまりうるさいこともいわれなくなって、彼らは駅頭などでマンガ雑誌を売り続けた。
それにしたって、たいした儲けにはなるまい――とは、誰もが思ったことだった。だが、一度、税務署の手が入り、彼らが所得税法違反などで挙げられたことが新聞で報じられたとき、その商売を内心バカにして笑っていた連中は、仰天してしまう。年間の売り上げが4千万円と知ったからである。
となると、1年365日のうち300日稼働するとして、1日の売り上げはおよそ13万~14万円ということになる。元手はタダなうえに、人材費や実質経費もよくよくかからないのだから、大変な儲けとなるのは間違いのないところ。いってみれば、究極のリサイクル商売だ。
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