GOLF
2024.09.01
“ゴルフ仙人”と呼ばれた名コーチのゴルフ名言「殴られて言うことを聞く者はいないよ。たまには殴られるボールの身になってごらんよ」
ゴルフ仙人と呼ばれた名コーチ、ハーヴィー・ペニックは、テキサス大学のゴルフ部員も指導した。マスターズで2回優勝したベン・クレンショーや、全米オープンで優勝したトム・カイトなどもジュニア時代からコーチしていた。
キズついたボールは、素直に飛ばない
そのためか、子どもにも届く平易な言葉や、子どもたちが興味を持ちそうなフレーズを使って教えている。表題の言葉も、そんなペニックらしさがにじみ出ているように思う。
彼がゴルフを教えていた時代は、糸巻きボールが主流で、表面のカバーは最近のものとは比べものにならないぐらい耐久性が低かった。だから、アイアンでトップボールを打つと、すぐにカバーが切れてへこんでしまったり、パックリ口を開けてしまったりしていた。
日本人ゴルファーには、これを「切腹した」と表現する人もいる。アベレージゴルファーは1日に何回もトップすることがあるが、ボールは高価なこともあり、少しキズがついてもそのまま使ってプレーしたものだ。
しかし、少しでも球体が崩れたボールは、予期せぬ飛び方をしてしまう。そのため、上級者になるほどボールの状態をこまめにチェックして、交換すべきかどうか、毎ホールのように確認していた。
力まかせにひっぱたいても、クラブフェースとボールはいいコンタクトができず、ボールを傷つけてしまうばかりになる。そんなにボールをいじめては、自分が願うようにボールは飛んでくれない。だから、「もっとフェースがやさしくボールにコンタクトできるように、スウィングしなさい」というのが、表題の言葉の意図だったのだろう。
耐久性が向上した現代のゴルフボールも、割れる
さて、時代は進み、ボールも進化を遂げた。ウレタンカバーの登場により、ボールの耐久性は飛躍的に向上し、安価でも高性能なボールが多く開発された。今では、少々トップしたぐらいでは、カバーが切れたり割れたりすることは、ほとんどなくなっている。
ボールにつくキズは、ストロークによるものよりも、カート道路に当たってしまってできたスリキズや、樹木や何らかの人工物に当たるなどしてできたもののほうが多くなった。このため、そういう物へぶつけることなくプレーできている限りは、ボールの状態は問題ないと思ってプレーしがちだ。
実際、私はどんなに長く使っても2ラウンドでボールを交換するので、もう何年もプレー中に、ストロークによってボールを破損したことはなかった。カート道路など、物に当たってキズがつけば、次のホールで交換もするが、とくに何もなければ、そのラウンドが終わったときに、ボールのつやの状態を見て次回は交換するかどうかを判断している。
だから、最近のボールはプレー中には割れないものと思っていたのだが、シミュレーションゴルフ練習場に備え付けてあるボールを見ると、結構割れてしまっているのに気がついた。シミュレーションのデータを実戦と近づけるため、いわゆる練習場用ボールではなく、市販のボールが練習場には置いてある。破損ボールの回収箱には、たくさんの割れたボールが廃棄されていた。これは、ちょっと意外だった。
あまり細かいことを気にしないアベレージゴルファーの中には、大きなキズもなく球体が保たれていれば、何ラウンドでも1個のボールを使い続ける人もいるように思う。しかし、プレー中に割れたりしないのだろうかと心配になってしまう。果たして最近のボールの寿命は、どれぐらいなのだろうか。
あるボールメーカーの回答では、ボールのパフォーマンスが劣化しないのは、36ホール程度なのだそうだ。その後は、少しずつ性能が低下するようなので、私が2ラウンドでニューボールに交換しているのは、正解だったようだ。
また、ボールはヘッドスピードにもよるが、ドライバーでも100打以上は破損せずに耐えられるそうだ。Webサイトを探すと、実際に実験した人がいた。この人のヘッドスピードは42m/秒前後だそうだが、ドライバーで打ち続けること176打目で、ようやくヒビ割れしていた。
これから推測できるのは、アイアンとドライバーでは衝撃の大きさが異なるだろうが、実際のラウンドでも180回ぐらいフルショットしたら、割れる可能性があるということだ。パッティングは衝撃が小さいから無視したとして、大体5ラウンド(90ホール)ぐらいでボールは割れると考えておいていいだろう。
2ラウンドを待たずして割れたボール
それならば、私は2ラウンドごとに交換しているから、普通にプレーしている限りはボールが割れることはなさそうに思えるし、実際、ここ20年ぐらいはプレー中に割れたという記憶はない。だが、必ずしも2ラウンドで割れないとも断言できないようなのだ。
先日のラウンドでのことだ。プライベートの遊びのラウンドだったこともあり、その日が2ラウンド目のボールを使用した。フロントナインは特に問題なく終了し、昼食後のバックナインに進んだのだが、11番ホールでドライバーショットがとんでもない飛び方をするミスショットになった。
多少ヒール目に当たった程度の感触だったのに、左方向へ低い球筋となりほとんどスピンが入っていない感じで、150ヤードほどしか飛ばなかったのだ。このときから、どうやらボールにヒビが入り始めていたようだ。
しかし、2ラウンドぐらいでボールが割れるなんてまったく頭にないものだから、疲れなどでスウィングが悪かったのだろうと思い、そのままプレーを続けてしまった。その後は、そこまで変なボールにならずに飛んでいたため、変なショットが出たのはスウィングに問題があったのだと、ますます思い込んでいった。
だが、不可解なミスショットが少しずつ増えていき、とうとう17番・18番のティーショットでもありえないような飛び方のミスショットが出た。何とか最終ホールのグリーンに上がり、ボールをマークして拾い上げ、濡れタオルで拭いていたとき、ようやくボールのヒビ割れに気づいたのだ。
ヒビ割れは、その時点で3cmもの長さになっていたが、プレー中はまったく気づかなかったのだから、まぬけな話ではある。しかし、老眼なことと、割れるはずがないという思い込みのせいか、ヒビ割れが小さな内は目に止まらなかった。最終ホールまで使ってしまって、ヒビ割れが大きくなったから気づいたのだ。
このように、角度や影のせいでヒビ割れが見えにくいこともあり、気づかずに最後まで使ってしまった。明らかに不可解な飛び方をしたときには、やはり昔と同じようにボールの破損を疑ってみる必要があるようだ。
これだけのヒビが入っていると、恐らくインパクト時のボールの変形は、かなり異常な形になっていたはずだ。不可思議な飛び方のミスショットになるのも、納得できる。
ボールはしっかり状態確認をし、適切なタイミングで交換を
ルールでは、このようにヒビが入ったボールは、「プレーに適さない球」ということで、インプレー中でも無罰で交換ができる。確認のために、マークして拾い上げることも許されているが、破損がない場合はそのままリプレースし、ボールを拭くこともできない。
ボールをリプレースする処理のときには、元のボールをリプレースし、違うボールに交換することはできないが、例外もある。同伴プレーヤーに誤球され、それが池などに打ち込まれて回収できないような場合は、元のボールと異なるボールでプレーを続けることができる。ルール上は、「プレーヤーの故意ではなく、数秒以内に合理的な努力により球を取り戻すことができない場合」となっている。
一方、ボールがカート道路などに当たってスリ傷ができてしまった場合は、インプレー中に交換することはできない。艶が落ちた、色があせた、ペイントがはがれたという場合と同じで、こすれたスリ傷も取り替えできない。
以前は、スリ傷も飛球に影響があり損傷だと主張する人もいたが、2019年のルール改正で明確に否定された。誤って取り替えてプレーすると1打罰となるから、ホールアウト後、次のホールのティーショットを打つ前までに取り替えれば罰打はない。
ボールは、ホールとホールの間や、救済措置を受けたときには、いつでも交換することができる。プロは、3ホールごとに取り換えたり、ハーフを2個のボールを交互に使いながらプレーしたりしているようだ。
一般ゴルファーは、プロのようにボールをメーカーから支給されるわけではない。昔よりは安くなったとはいえ、高価なボールもあるから、消耗品のボールは大事に使いたいものである。
しかし、私が体験したように、気づかない内に損傷し「プレーに適さないボール」になっていることもある。思わぬミスショットを避けるために、パッティングでボールを拭くときやティーアップするときなどに、ボールに損傷がないか確認したほうがよさそうだ。
参考資料:
阿蘇紀子、中﨑典子監修『2023-2024ゴルフルール早わかり集』ゴルフダイジェスト社、2023年
「ゴルフボール寿命調査!ゴルフボールは何球打てば割れるのか!?」ズバゴル、2019年5月14日更新
「ゴルフボールは何ラウンドまたは何ホールプレーできますか?」SNELL GOLF、2019年5月27日
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