ドラマの大盛況によって、ついに映画として最集結した「ゆとりですがなにか インターナショナル」のメンバー。ふたつの世代に分かれ、それぞれの世代観とスーツ論を語る。今回は、宮藤官九郎と水田伸生のインタビューをお届けする。【特集 テーラード2023】
「ゆとり世代」を切り口に、今の日本の姿を描く
大ヒットしたドラマに続き脚本・宮藤官九郎、監督・水田伸生の再タッグで放たれた今作は、抱腹絶倒のコメディでありながら、現代の社会課題に鋭く突っ込む硬派な側面も。5人のなかでも特にスーツの似合う世代のふたりが見た、「ゆとり世代」を取り巻く日本の今とは!?
宮藤 テレビドラマの映画化って微妙な気持ちになるんです。ドラマを見ていない人も楽しめるようにするのはもちろん、映画はスクリーンに集中するものだし、ドラマは家で寝転がって、最近はスマホ片手に観るもので、視聴体験としてまったくの別物。そのギャップをどう乗り越えようか、いつも悩むのですが、結局「いつも通りでいいか」という結論に達する。「おなじみの感じですよ」というようにすることで、最終的にはキャストの皆さんと水田さんがなんとかしてくれるだろうと(笑)。
水田 僕がなぜこの作品を映画にできると思ったかというと、類似品がないからです。映画にして面白くできる自負があったのも、ドラマのキャストやスタッフが見事に揃ってくれたから。物語の面白さは宮藤さんの脚本が担保してくれるし、何よりも芝居で楽しめる。絵面や舞台設定、どんでん返しが凝っているとかでなく、劇場でずっと口を開けて見ていられる作品があってもいいんじゃないかと。
かつて森繁(久彌)先生が演じられていた『社長シリーズ』(編集部注:東宝が1956年から70年まで製作していた喜劇映画シリーズ)のようなね。僕はそういう作品の現代版だと思いながら撮っていました。
宮藤 なるほど。それはなんとなくイメージが浮かびます。
水田 昭和の高度成長期の日本の「とある属性の在り方」を切り取ったのがあの喜劇シリーズだとすると、宮藤さんが描いてくれた「ゆとり世代」を切り口にしたこの作品も、その先輩も後輩も含めたすべてのジェネレーションをひっくるめた今の日本の姿です。僕はそんな気分でテレビドラマも映画も撮りました。だから、あまり力んではないです。渋谷のスクランブル交差点のシーンだけですね、人が多くて力が入ったのは(笑)。
宮藤 結局あの3人はまったく変わってなくて、むしろ世の中の状況が変わり、直面する問題が変化したということなんですよね。子供ができたから子育て支援が必要というところから始まって、会社が外国資本になったから、外国人の転校生が来たから、LGBTQへの配慮が必要だから、対応しなくちゃならなくなっただけで。
今の人たちは、ものすごくクールで冷静
水田 世代を切り口にした物語ということでひとつ思うのは、その世代だけが持つ連帯感だったり、寛容性だったり、前向きなよい面は確かにあります。ただ、ある特定の世代だからといって何かを決めつけてしまったり、見下すような目線があるとしたら、それはまったくナンセンスなことだと思いますよね。
宮藤 人が知り合う時に、共感する最初のきっかけとして「世代」を持ってくるのはいいと思いますけれど、「世代」を理由に社会から色眼鏡で見られるのは可哀相です。たまたまその年に生まれて、たまたま教育制度が変わっただけなのに。だから今のZ世代というくくりにしても同じことが言えるのかなと。
水田 僕は、団塊、シラケ世代に続く「新人類」です。こういう風に誰が名付け始めたのか知らないけれど、大昔からある年齢層の人たちは「今の若いモンは」と言い続けている。大事なのはその先で、「今の若いモンは」となった後に、「なかなか捨てたもんじゃないな」となるのか、「やっぱりダメだ」になるのか。
僕らが同じことを言われていた時代は、社会も経済も上向きに続いて幸せなままでいられるんじゃないかと能天気に思っていたわけですが、今の人たちは世の中が窮屈だからか、ものすごくクールで冷静です。
宮藤 そもそもこの作品自体が「ゆとり」と呼ばれていた若い人たちと話した時に、「なぜ彼らとこうも考え方が違うんだろう」と思ったところからスタートしています。そんな彼らもすでに30代半ばで、学校で教わらなかったことを社会のなかで痛烈に教わって「ゆとり教育ってなんだったんだろう」とひと通り感じている。
だからさっきの水田さんの話じゃないですけれど、せめて僕は「今の若いヤツらは」とか、「これだからゆとりは」と切り捨てないで、個人と個人で向き合って話したいです。それは「団塊ジュニア」だった僕らも同じでしたから。
水田 コンプライアンス的な要素を盛りこむにしても、宮藤さんから出てきた文言はほとんどカットしなかったのも同じような理由からです。映画の表現としていかがなものかと言われることを危惧しても仕方がなくて、それをしたらテーマの本質からズレてしまう。だから彼らのその後も描いていかないとダメだなと思いますよね。まぁ、続編は作品がヒットするかどうかにかかっていますけれど(笑)。
宮藤官九郎
1970年宮城県生まれ。2001年に映画『GO!』で第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞他、多くの脚本賞を受賞。ドラマ、映画など多数の話題作を手がける。
水田伸生
1958年広島県出身。1981年に日本テレビに入社後、テレビドラマの制作に携わりながら、映画監督も務める稀有な存在として多くの話題作を生みだす。
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