ひふみ投信シリーズのファンドマネージャー藤野英人氏が率いるレオス・キャピタルワークスが運営するYouTubeチャンネル「お金のまなびば!」から、藤野氏と、名経営者を側で見てきたインフルエンサーで企業PRを務める田端信太郎氏の対談を3回に渡って紹介。第3回は、求められる人材になるためにビジネスパーソンが意識しておくべきこと、そして田端氏の1日の時間の使い方に迫る。#1 #2
20代のうちに、その後の人生の名刺代わりになるような仕事をしろ
田端信太郎氏は自身の著書『ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言』で会社の看板よりも、個人の名前で活躍できる「ブランド人」になるべきだと説く。
そこで藤野英人氏は、就職活動中の若者がこの「ブランド人」になるため意識すべきことを尋ねた。
「就職活動で突然、『ブランド人にならなきゃ!』なんて目覚める人は、そもそもブランド人でもなんでもないと思います。僕は、メディアやコンテンツの仕事をしていて『ネットメディアを作りたい』という学生をよく面接することがあります。
もちろんとてもいいことですが、『じゃあ、Twitterとかnoteとかやっている?』と聞くと、やっていないという。野球選手になりたいと入団テストを受けにきた人が、野球をやったことないってありえないですが、それと同じだなと思ってしまうんです」
インターネットを介して誰もが発信できる時代にあって、SNSはある意味、草野球のようなもの。若い人が最初に触れる、そして最初につくりあげるメディアであり、嗜んでいて当たり前のものなのだ。
一方で田端氏は、若い人が仕事を選ぶ際に迷う、2つの選択肢について考えていた。
「好きなことを仕事にするべきか否か。もちろん好きなことを仕事にすべきだという人と、好きなことを仕事にしてしまうと、大人の事情やしがらみのせいで楽しめなくなる、だから得意なことを仕事にして、好きなことは余暇にとっておく、という2つの派閥がありますよね。藤野さんはどっち派ですか?」
実は、ふたりの意見は「好きなことを仕事にしたほうがいい」と同じだった。
藤野氏は言う。
「得意なことばかりやっていても、飽きてしまう。好きでないと続けられないし、突き詰められない。そして物事を突き詰められなければ、その人自身も成長できない」
その意見に賛同する田端氏。
「仕事って相手のあることだから、好きなだけではできない。それはわかるんですが、本当に好きなことを仕事にできていたら、収入が少なくても幸せなんじゃないでしょうか」
もし好きなことを仕事にできたら、きっと夢中になれる。日本の社会における就職は、大学院やビジネススクール進学が多い欧米とは違い、4年生大学を卒業後という早いスタートが基本だ。
「だからこそ、1社目に入った会社が自分の専門性の基本になる。好きなことをするために、最初から起業したり、フリーランスでいる必要はなくて、サラリーマンで全然いいと思う」と続ける田端氏。その田端氏自身、数々の企業でのサラリーマン生活のなかで、好きなことを見つけ、極めていくことの魅力を感じてきた。
「そのなかで、できれば20代のうちに、名刺代わりになるようなプロジェクトをやっておけるといい。後々、業界で『ああ、あれか』と思われる仕事をやれるのが、理想ですね。
大企業にはおじさんたちがたくさんいて、稟議を回しあって無駄だから、大きな会社ではなく、伸びているスタートアップに入った方がいいと考えている方もいるでしょう。それはもちろん間違いではないですが、ド真ん中、ある意味保守的なキャリアっていうのも、やりたいことをやるうえでちゃんと意味がありますから」
金融なら金融の、不動産なら不動産の大企業でキャリアを積めば、「あそこの会社にいたのか」とその業界内での信頼がついてくるようになる。それもひとつのブランド化なのだ。
では、ブランド企業に入らず、最初から自分自身をブランドにしようとする若者は、どのように働けばいいのか。田端氏は言う。
「とにかく人目に触れるところにアウトプットし続けるしかない。プログラマーだったらオープンソースでもなんでもいいし、映像ならYouTube、文章ならnoteでもなんでもいい。愚直にやっていれば必ず、見ている人は見ている。
例えば審査員が5人しかいないビジネスプランのプレゼンだったら、審査員が無能でいい企画が落ちるということはあるかもしれない。けれどインターネットの世界、オープンな世界であれば、それは民主主義みたいなもの。多くの目がある世界にいて、それでも見つけてもらえないんだったら、それは歌手だろうが起業家だろうが、そいつがダメってことだと思います。だからSNSのフォロワー数って、会社のなかの評価よりある意味フェアですよ」
であれば、案ずるより生むが易し。今更至極当たり前で、真っ当なことかもしれないが、SNSはやりたいことのために、徹底活用すべきなのだ。
時間に余白がないと、好奇心が摩耗してしまう
これまでNTTデータ、リクルート、ライブドア、LINE、ZOZOなど成長著しい企業に勤め、現在はフリーとなった田端氏。藤野氏は、これらのキャリアのなかで自身をブランド化してきた田端氏の1日の時間の使い方を聞いた。
「睡眠は夜1時から朝7時くらい。日の出とともに起きます。夏は5時くらいに起きますね。起きてからスマホを見て、市場の動きを見たり、Twitterを見たり。シャワーを浴びながら1日にやるべきことを整理したり」
その後は9時から18時まで、オフィスでZoomミーティングなどをこなす。けれど自分の作業と、人との打ち合わせや約束事は半分半分と決めている。
「1日のスケジュールが約束事でびっちりなのに疲れてしまって、会社員を辞めたんですよね。あとはYouTubeで自分のチャンネルを持つようになって思うのが、その日のタイムリーな時にパっと撮って出せるっていうのが大事で。そういう作業って余白がないとできないので、1日のスケジュールでその余白をつくることは意識しています。
そもそも余白がないと、好奇心が摩耗してきてしまう。街を歩いていて面白そうな店があった時、とりあえず入ってみる。そういう余裕と発見がないと、どんどん自分が凝り固まっていってしまいますから」
その言葉を聞いて、藤野氏も自身の好奇心について思いを巡らす。
「ある程度経験値を積むと、さまざまなことに予想がついてしまう。けれど好奇心が湧くというのは、予測がつかないからこそですよね。どうなるかわからないからワクワクする。だからどうやって予測のつかない場をつくるのかが大事ですね」
好きなことを仕事に、そして好きなことを好きでい続けるために、いつでも好奇心を持っておく。
自分自身をブランド化するため、というより、それは幸福な人生を生きるための手法のひとつと言えるのかもしれない。
■第1回、2回の記事は関連記事よりご覧いただけます。