街ですれ違ったとしても、その男が不動産業界トップレベルの年収を稼ぎだす営業マンだとは思わないだろう。28歳にして業界の革命児となった彼は、熱狂とは無縁。常に淡々と落ち着いて、自分の仕事と人生を見つめていた。
数字を求めないから、数字がついてくる
不動産投資コンサルタント・山根陽一が抱えている顧客は2500人弱。そのなかには経営者や企業役員、公務員や一流アスリートなど、さまざまな人がいるが、彼は「誰ひとりないがしろにしていない」と言い切る。
「名前を見ればお顔と誕生日を思いだせます。独立したてのころは、お客様に365日、毎日ハッピーバースデーのメッセージを送ることが目標でした。閏(うるう)年の2月29日生まれの方に出会った時は嬉しかったですね」
現在28歳。不動産会社勤務を経て山根コンサルティングとして活動を始めたのは2020年。2年あまりで、いわゆる富裕層に属する多くの優良顧客を獲得し、ひとりで年間300件以上の物件を販売するまでに成長した。
だが、山根の見た目は「不動産業界の成功者」のイメージとは大きく異なる。派手めのスーツやネクタイ、高級時計で“武装”した営業マンが多い業界において、彼は「スーツはめったに着ません。時計はアップルウォッチ」というスタイルだ。
「あの武装にも意味があるんです。若い営業マンがローンで高級時計を買って自分を追いこむことで成績を上げるとか、高そうな時計をつけていることでお客様にやり手だと思わせるとか。でも僕はもっと自分の本質的な所を知ってもらって、信頼してもらいたい。だって腕時計で営業マンを選ぶお客様は、もっと高い時計をつけている人間がいたら、そっちに行っちゃうじゃないですか(笑)」
落ち着いているが、クールなわけではなく、若々しさや愛嬌、人懐っこさも感じさせる。一方、ビジネスに関する会話はとても明朗でわかりやすい。
「僕がやっている不動産投資は、売買の利益で考えるバブル型ではなく、お客様それぞれのライフプランに合わせた資産形成や税金対策が主な目的です。だからお客様とのお付き合いは必然的に長くなる。従来の不動産業は、売ることがゴールでしたが、僕にとってはスタート。ひとりのお客様に信頼していただくと、3人の新しいお客様を紹介していただける。そうやってかけ算的にお客様が増え、気がついたら2500人近くになっていました」
成功の秘訣は、「目標ではなく目的で動いたこと」だと語る。
「同業者の多くが、売り上げとか販売物件数という目標で動いている。僕もそういう時期はありましたけど、それだけだと心が枯れるし、お客様にも無理をさせてしまう。だから僕は目標ではなく、『不動産を通してお客様の人生を豊かにする』という目的でこの仕事をすることにしました。まずお客様にとって何が大切かを知り、それに合わせて必要な情報をお渡しする。会っても不動産の話をしないことも多い。数字を求めないことで、数字がついてくるというのは、日々実感していることです」
山根コンサルティング
戦術がなければ長続きしない
2022年12月初旬、山根はカタールにいた。顧客の招待で初のW杯観戦。日本がスペインを撃破したあの奇跡の瞬間を観客席から観ていたのだ。
「堂安律選手がゴールを決めた時はすごく興奮しました」
小学2年生から大学までサッカーをやっていた。プロに憧れ、目指したこともある。だからこそ、日本代表の戦いぶりには不満も感じたと言う。
「生意気なことを言わせてもらうなら、チームとしての戦術が見えなかった。僕も結果だけを求めて仕事をしていた時期もありましたが、今は戦術を大切にしています。そうじゃないと、長続きしないと思うんです。日本代表も結果は残せた。次は明確な戦術を持って世界と戦う姿を観たいなと思いました」
山根は、戦術の人だ。常に遠くを見ながら、人生を歩んでいる。就活の際、不動産会社を選んだのも、彼なりの人生を見据えた戦術に基づいたものだった。
「両親が教師で、何も贅沢をせず、家があって三食たべられればいいだろうという感じでした。今でこそ、それが立派なことだということもわかるんですが、当時は退屈に思えて、自分はもっと思いどおりに生きたいと思っていました。そこでまず必要なのがお金。お金を持つということがどんなことなのかを知りたいと思ったんです」
就活の時から、いずれは独立して経営者になろうと考えていた。そのために必要な知識と人脈を得るために選んだのが不動産業界だった。
「不動産会社にOB訪問したら、みんなが『売るぞ、稼ぐぞ』って空気を出していた(笑)。周りがギラギラしているからこそ、僕のような淡々としたタイプが活きるんじゃないかと。誰とも被らないから、むしろ勝負しやすいんじゃないかと思って、この業界を選びました」
就職前、頭に描いた戦術どおり、入社2年目で営業成績ナンバー1になり、3年で独立を果たした。
「服装のこともそうですけど、他の人と同じように仕事をしていてもダメだと思っていました。でも特別なことをしていたわけではありません。意識していたのは、当たり前のことを当たり前にやるということ。挨拶をちゃんとする。礼儀正しくする。連絡をもらったらすぐに折り返す。どんな質問にも答えられるように勉強する。相手に無駄な時間を使わせない……そういうことをコツコツやっていくことが自分の付加価値になり、結果につながったと思っています。
親に厳しく躾けられたことに感謝していますし、サッカーを通して人間関係を学べたのもよかったと思っています。もうひとつよかったのは、自分の当たり前のレベルが上がっていくと、同じように考えている人が顧客になっていくんです。互いに尊敬し、感謝し合えるお客様が多いのも、当たり前を大事にしてきたからだと思っています」
独立後は1年の売り上げ目標を半年で達成し、収入も大きく増えた。「お金を持つことの意味」は理解できたのだろうか?
「そうですね。結局、お金は手段でしかないとわかりました。僕の場合、物欲もなくて、クルマとか時計も欲しいと思わない。ほぼひとりで仕事をしているし、普段はほとんどクルマで動いているので、立派なオフィスは必要ない。人を雇って会社を大きくすべきだというアドバイスをいただくことも多いんですが、今はまだ自分の目の届く範囲で丁寧に仕事をしていたい。不動産業界のイメージを変えたいという思いはありますが、それ以上の大きな“世界”までは見えていません。僕の周り、僕と関わる人たちが、僕と出会ったことで幸福を感じてもらえれば、十分だと思っています」
山根コンサルティング
人とのつながりが人生を豊かにする
山根にとって一番大切なのは、「自由でいること」だと言う。
「好きな時に好きな所で好きなことをする。そのためにお金はある程度必要だと思っています。でも地位とか名誉は不要。自由の邪魔になりますよね。僕にとって自由とは、ストレスがないこと。昔、会社員だったころにお客様に誘われて草野球に行ったんです。でも僕は野球が全然好きじゃない(笑)。あの時は本当に苦痛でした。そういう無理は先につながらないと思うんです。僕はサッカーが好きで、ワインが好き。だからそこで結びついたお客様とはいつまででも話ができる。それで何回か会っているうちに『実はマンションの購入を検討しているんだけど』と向こうから声をかけてくれるようになるんです」
山根は、現在どんな“戦略”で動いているのだろうか?
「好きなことを、同じ志を持つ人たちとやりたいと思っています。2022年はワイン好きの仲間とワインバーをつくり、同世代のジム経営者とパーソナルジムをつくりました。今年はサウナ好きが集まってサウナを開店する予定です。僕は自分がオーナーになるというより、仲間と一緒に何かをやることが好き。将来的には、同じ志を持つ若者たちに投資して、可能性を広げる手伝いをしたいと思っています。自分が最前線の営業マンでいることはやめるつもりはないです。そこで出会う人たちとのつながりが、自分の人生を豊かにしてくれると思っていますから」
仕事に熱狂はないと、山根は言う。
「申し込みとか契約で興奮したり、熱狂したりすることはないですね。そこはもう粛々とやるだけ。嬉しいのは、長いお付き合いを続けるなかで、お客様の人生のいい節目に関われること。契約から数年後にジワジワと嬉しさがこみ上げてくるんです」
熱狂はしない。ただ静かな情熱を胸に秘め、山根は今日も「成功より成長」を目指している。
山根陽一の3つの信条
1.当たり前のレベルを上げる
挨拶や基本的な礼儀、言葉遣いなど、当たり前に思えることをちゃんとやり続ける。そうすることで、自分と同じように当たり前を大切に思う人が周りに集まるようになる。
2.目先の利益を追わない
目先の利益を追うから、嘘やごまかしが出てくる。顧客の立場で考え、時には自分が損をしてでも相手につくせばそこに信頼関係が生まれ、いずれ大きなリターンを生む。
3.明確なビジョンを描く
目先の数字を追い求めるのではなく、10年後、20年後にどういう自分でありたいかを常に考える。そうすることで、今やるべきこと、やってはいけないことが自然と見えてくる。
【山根陽一が解説する不動産投資実践編】
年収1000万なら不動産投資を考えるべき本当のワケ
実は怖くない? 将来の備えになる ”買い”物件の見極め方