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2022.08.18

勝手に期待したほうが悪い!? 飛び込み・玉井陸斗の強靭メンタル

今回の連載「アスリート・サバイブル」はパリ五輪飛び込みで高飛び込みと板飛び込みの二刀流で出場を目指す玉井陸斗に注目する。連載「アスリート・サバイブル」とは……

2022 飛込 日本選手権 男子 10m高飛込 予選/玉井陸斗/Rikuto Tamai

二刀流という選択

飛び込み競技に「リップ・クリーン・エントリー」という言葉がある。水しぶきをまったく上げずに水中に消える入水を意味する。水面に泡のみが出てポコポコと唇をはじくような音がすることから、名付けられた。ほとんど水しぶきを上げない「ノースプラッシュ」を上回る最も美しい入水だ。

この究極の演技を求めて、日本男子のエース玉井陸斗(15歳・JSS宝塚所属)は鍛錬を重ねている。

2022年8月5日~7日に開催された日本選手権の高飛び込みで511.56点の高得点を出して4連覇を達成した。2位に86.30点差をつける断トツの優勝。本格的に練習を開始して1年足らずの3m板飛び込みも413.55点で3位に入った。

飛び込み競技の五輪個人種目には、高飛び込みと3m板飛び込みの2種目がある。高飛び込みは高さ10mの台からダイブし、3m板飛び込みは高さ3mの弾力のある板から跳ね上がって飛び込む。ともに回転数や方向、ひねりの有無などによる難易度と、出来栄え点で得点が決まる採点競技。男子は6回、女子は5回の演技の合計点で争う。

玉井は日本選手権後に「パリ五輪で少しでもメダルの可能性を増やすために二刀流で頑張っていきたい」と宣言。2024年パリ五輪は、高飛び込みと3m板飛び込みの2種目で出場を狙う。

世界選手権ブダベスト大会(2022年6月17日~7月3日)の高飛び込みで488.00点を出し、銀メダルを獲得。東京五輪でワンツーだった中国勢の一角を崩した。

この大会までの日本勢の世界選手権でのメダルは2001年福岡大会の「銅」2つのみで、寺内健の3m板飛び込み、宮崎多紀理、大槻枝美ペアのシンクロ高飛び込みを上回る史上最高成績。日本飛び込み陣は1920年アントワープ五輪での五輪初参加以来1度も表彰台に立ったことがなく、パリ五輪では初メダルの期待が懸かる。

肉体改造で描く金メダルプラン

12歳でシニアデビューした2019年4月の日本室内選手権で優勝して一躍注目を浴びた。それから約3年4ヵ月で身長は17cm伸び、体重は9kg増加。成長に伴い回転力が落ちる懸念もあったが、計画的な筋力トレーニングで逆に宙返りのスピードは増した。

1m60cm、55kgとなった体を扱う能力も高まり、成長。東京五輪では7位と高飛び込みで2000年シドニー五輪の寺内以来21年ぶりの入賞を果たした。

世界選手権で銀メダル獲得後は更なる飛躍を目指して肉体改造に着手。スクワットは板飛び込みで板を踏む感覚に近い状態を意識して踵を浮かせた体勢で行い、上半身の筋力トレも体を大きくするメニューからキレを増すためにスピード重視に変更。「入水時と同じような動きを取り入れるトレーニングをしている」と常に実戦を意識している。

玉井の高飛び込みの自己ベストは2020年9月の日本選手権で記録した528.80点。6本中4本が80点台、2本が90点台と安定した演技をそろえたが、昨夏の東京五輪では4位相当のスコアだ。一方の板飛び込みは本格練習開始前の2020年日本選手権で頂点に立ったが、国内でも絶対的な地位は築けておらず、世界との距離は遠い。

馬淵崇英コーチ(58)は高飛び込みについて「すべてのジャンプを90点以上にすることが目標。水しぶきの処理、踏み切りの安定感などまだまだ足りない。100点は1つの壁。100点も1つの目標になる」と金メダルプランを描く。板を踏み込むパワーが必要な板飛び込みは「高さ、回転力などまだ足りない。今の体だと板飛び込みではまだ子供。パリ五輪はまず出場することが目標になる」とターゲットを設定した。

玉井は小学高学年以降はケガ防止のため自転車に乗らず、体育の授業の球技は見学するなど飛び込みに打ち込んできた。国際舞台の雰囲気に溶け込むため、今春の高校進学後は通学の電車のなかで眠い目をこすりながら英単語帳と向き合う日々だ。

世界選手権の銀メダルで周囲の期待は高まるが、信条の「試合を楽しむ」に変化はない。少なからず重圧も感じているが「結果が出なくても”勝手に期待したほうが悪い”くらいのスタンスでやっている」と強いメンタルで目標に突き進んでいる。

玉井陸斗(たまい・りくと)
2006年9月11日生まれ、兵庫県宝塚市出身。3歳で水泳、小学1年から飛び込みを始める。12歳だった2019年に日本室内選手権で史上最年少優勝を果たした。東京五輪は7位。世界選手権は2022年ブダペスト大会が初出場で、銀メダルを獲得した。兵庫・須磨学園高1年。JSS宝塚に所属。好物は牛タン。現在1m60cm、55kg。

■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

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TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=森田直樹/アフロスポーツ

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