PERSON

2022.08.11

西武・高橋光成が才能開花するきっかけとなった高校2年時の"2週間"

アスリートにとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てる連載【スターたちの夜明け前】。今回は、西武ライオンズのエース格、高橋光成がスターとなる前夜に迫りたい。連載「スターたちの夜明け前」とは……

高校時代の高橋選手

写真:日刊スポーツ/アフロ

将来の成長性を魅せた高校2年時

2022年8月6日に開幕し、連日熱戦が続いている全国高校野球選手権。いわゆる"夏の甲子園"と呼ばれる大会であり、多くのプロ野球選手もこの舞台に立つことを目指してプレーしていた時期があったはずだ。そんな甲子園には古くから言われている一つのジンクスがある。それは『甲子園優勝投手はプロでは大成しない』というものだ。厳密には桑田真澄(元巨人)、現役では田中将大(楽天・2年時に背番号11で優勝投手)など大投手もいるため、すべてに当てはまるわけではないが、その輝きをプロでは発揮できない選手も多いことは事実である。

しかし、そんなジンクスを田中に続いて、打ち破りつつあるのが高橋光成(西武)だ。2014年のドラフト1位で西武に入団すると、1年目から一軍で5勝をマーク。その後は低迷した時期もあったものの、過去3年間で2度の二桁勝利を記録するなど、チームのエース格へと成長しているのだ。今年もここまで6勝7敗と負けが先行しているものの、防御率はリーグ3位の2.48と好調なチームを支える存在となっている(※8月3日終了時点)。
 
そんな高橋のピッチングを初めて見たのは2013年7月27日に行われた夏の群馬大会準決勝、前橋育英と樹徳の試合だった。前橋育英の2年生エースだった高橋は1回に3安打を浴びて1点を失ったものの、2回以降は見事なピッチングを披露。最終的に7回を投げて8奪三振、1失点でチームを勝利に導いている。ストレートの最速は142キロと高校2年生にしては十分な速さも備えていたが、その一方で気になる点があったこともまた事実だ。

当時のノートにも「少しクロス気味にステップし、体をひねって投げるフォームでバランスはもうひとつ。(中略)体の使い方が横回転で、制球も左右にぶれる。もう少し直線的に体重移動できるようになれば、馬力がもっと生きてくる。6回からは制球重視で打たせて取り、意外に器用だが、牽制やフィールディングなど投げる以外のプレーはまだまだ」などと、欠点を指摘する記述も多く見られる。当時のプロフィールを見ると188㎝、82㎏となっており、体格面でもまだまだ細いことが伺える。この時点では来年が楽しみな選手の1人という位置づけだった。

ポテンシャルを証明した、完璧なピッチング

しかしそれからわずか約2週間後の2013年8月12日、甲子園のマウンドに立った高橋は圧巻のピッチングを披露することになる。対戦相手となった岩国商のエース高橋由弥(元王子)も高校日本代表に選ばれるほどの好投手だったが、そんな難敵を相手に1対0で完封勝利をおさめて見せたのである。

打たれたヒットはわずかに5本で一度も連打を許さず、奪った三振は13個。しかも3回途中から6回途中まで9者連続奪三振も記録したのだ。群馬大会の準決勝では最速142キロだったストレートもこの試合では145キロまでアップ。当時のノートにも「しっかり軸足に体重を乗せてからステップすることができており、群馬大会と比べても明らかにバランスが良くなった」と書かれている。高校生は短期間で急成長を見せるケースも少なくないが、約2週間でここまで劇的によくなる例は珍しい。
 
高橋の快進撃はこの後も続き、結局この年の甲子園では6試合、50回を投げて自責点はわずかに2という見事な投球でチームを初の全国制覇に導いてみせた。前述したように田中将大も駒大苫小牧2年の時に優勝投手にはなっているが、この時は他にも好投手を擁しており、投球内容では高橋が明らかに上回っていたことは間違いない。結局翌年は群馬大会で県内最大のライバルである健大高崎に3回戦で敗れ、再び甲子園に出場することはできなかったが、2年時に経験した聖地でのマウンドが高橋の才能開花に大きく寄与したことは間違いないだろう。
 
冒頭でも触れたようにプロでもチームの中心となりつつあることは確かだが、持っているポテンシャルの高さを考えればもっとできると感じているファンも多いはずだ。今年で25歳と年齢的にもまだまだ若いだけに、今後はリーグを代表する投手にまで上り詰めてくれることを期待したい。

連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てる!

Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

過去連載記事

TEXT=西尾典文

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