2000年から放映され、今や国民的ドラマとなった『相棒』。水谷豊氏演じる、杉下右京の“相棒”、冠城亘役を、ʼ15年から務めてきたのが、反町隆史氏だ。反町氏は、今シーズンをもって卒業となったが、ふたりのつきあいは、7年以上に及び、絆は強く、深い。お互いを「最高のバディ」と称するふたりに、仕事からプライベートまで、たっぷりと語ってもらった。お二人が表紙を飾る【ゲーテ5月号はこちら】
──撮影中もゴルフ談義に沸くなど、終始息の合ったところを見せる水谷豊氏と反町隆史氏。初顔合わせの時から、お互い、バディとしての相性のよさは感じていたようで……。
水谷 ソリとは『相棒』が初共演。それまでもソリが出ていた作品は観ていて、「いい役者さんだな」と思ってはいたけれど、面識はなくて。初対面の時に感じたのは、「人を楽しませるのが好きな、根っからのエンタテイナー」ということ。(反町氏が趣味の)釣りの話を、すごく楽しげに、1時間くらい話してくれたんだよね。
反町 あの時は、僕も必死だったんですよ。ホテルの1室で、水谷さんやプロデューサーたち数名で集まったんですけど、みんな無口だから、なんとか場を盛り上げなくちゃって。数日前から、「当日は何を話そう」と悩んでいたくらいです。
水谷 で、選んだのが釣りの話。
反町 「釣りならいくらでも話せる!」と、思ったから(笑)。
水谷 こっちは、釣りに全然興味がないのにね(笑)。でも、楽しげに話すソリを見ていて、こちらまで楽しくなっちゃった。笑顔っていいよね。仕事でも、作品を観て喜んでくれる人を見るのが、何より嬉しいもの。
反町 釣り、本当に楽しいんですよ、一度行きましょうよ。
水谷 だから、僕は釣りに興味がないんだって(笑)。
ゴルフを始めたのはデートのためだった
釣りへの想いは対極だが、ゴルフは共通の趣味。ラウンドはもちろん、ゴルフグッズを一緒に買いに行ったことも。
水谷 僕が初めてゴルフをしたのは30歳の時。面白いなとは思ったんだけど、その後やらない時期が長く続いて。
反町 僕もです。25歳くらいの時に始めたんですけど、30代になってケガをしたこともあって、しばらくゴルフから離れていました。そもそも、ゴルフに興味があったわけじゃなくて、妻とデートするのが目的で始めたことだったので。
水谷 えっ、そうなの?
反町 付き合い始めたばかりの頃、写真を撮られないためにはどうすればいいかを考えて、「何人かでゴルフに行けば、バレないんじゃないか!?」と(笑)。で、ゴルフを再開したのが、ちょうど『相棒』に出させていただくようになった頃でした。
水谷 それで、僕に「一緒に回りましょう」と声をかけてくれた。共演して2年目だったかな。ソリに触発されて、キャストもスタッフもゴルフに夢中になって、コロナ前は、コンペを開いたりもしたね。
反町 『相棒』は1シーズン20話で、撮影期間が7ヵ月と長い。現場は、楽しい反面、ハードでシビア。だから、ゴルフという撮影以外の場所で、「天気がいいな」とか「ナイスショット!」みたいな気持ちのいい瞬間を共有させていただけたのは、ありがたかったですね。心がほっとする、贅沢な時間でした。
水谷 ゴルフは1日一緒に過ごすから、お互いの距離が縮まるんだろうね。ただ、何年たっても、ソリと僕の腕の差は縮まらなかった(笑)。ソリはアスリートだから。
反町 何でも突き詰めたいんですよ。クラブにしても、ウッド、アイアン、ウェッジと、それぞれメーカーが違いますし、アイアンには鉛をつけて自分仕様にしてみたり。道具を、自分に引き寄せたいんです。水谷さんは反対で、柔軟に、道具に自分を合わせるタイプ。
水谷 ゴルフに限らず、僕は物に頓着しないんだよね。こだわらなさすぎるから、ソリが気にかけて、クラブを選んでくれたこともある。そういえば、今はなくなってしまったけど、撮影所のそばに、僕が大好きな中華料理屋さんがあったじゃない。
反町 はい。僕も、何度もご一緒させていただきました。
水谷 つけ麺や青椒肉絲、焼きそばと、お薦めはいくつもあるんだけど、ソリは7年間ずっーと、つけ麺ひと筋。ソリほどつけ麺食べた人、見たことがない。もう、ミスターつけ麺(笑)。
反町 何でも飽きるまで続けたいんですよ。自分から「もういい!」って言うくらい(笑)。
なぜ俳優をしているかは、なぜ生きるのかと同義
反町 水谷さんのそばで7年間仕事をさせていただいて、人としても、俳優としても、いろいろなことを学ばせていただきました。そのひとつが、主演俳優のあるべき姿。『相棒』は、ほぼ毎回ゲスト俳優が登場しますが、なかには、緊張でガチガチになってしまう人もいる。それを、水谷さんが、さり気なくほぐしているんですよね。話しかけたり、冗談を言ったりして。
水谷 同じ俳優として考えた時に、一番残念なのは、緊張のあまり、本来の力を発揮できないことだと思うんだよね。だから、リラックスして、思う存分演じてほしい。それが、作品に跳ね返ってくるだろうし。
反町 水谷さんの「30代の時、全然仕事がなかった」という言葉も、すごく印象に残っています。僕、30代は自分で自分を持て余していて、答えが出ないまま40代に入ってしまったんですよ。だから、その言葉を聞いた時、『水谷さんですらそうだったんだ』と、心が救われました。
水谷 30代は、ちょっと中途半端な年代なんだろうね。そこをどう過ごすかで、次に行かれるかどうかが変わってくる。
反町 同じ感覚が、僕のなかにもあります。人生には波がある。波が来ていない時こそ、次の波への準備をする時だって。
水谷 “今”が過去の証明なんだよね。いいことばかりじゃなく、悩んだり、辛い時期もあったと思うけれど、仕事もプライベートも活き活きしている今のソリを見ると、過去のそれらが、間違いなくソリのためになっていると思う。ネガティブな経験も、ちゃんと自分のものにしてきたんだなと、今のソリを見ていて実感しているよ。
反町 ありがとうございます。ご一緒させていただけて、本当によかったです。
水谷 僕も、そんなソリを近くで見ることができて、とても嬉しかったし、楽しかった。そういえば、10代の終わり頃かな、ある人から「この世界は90%の人が消えていく。だから、他の世界に行ったほうがいい」と言われて、そのとおりだなって思ったの。でも、不思議なことに、まだ俳優を続けている。それはもちろん、周りの人のおかげでもあるんだけど、「なぜ俳優をやっているのか」と問われても、答えがないんだよ。「好きだから」とか「経済的」なんて、理由を言おうと思えば、いくらでもあるんだけど、それがすべてじゃない。突き詰めると、僕にとってそれは、「人間ってなんだろう」「生きるってなんだろう」という問いと同じなんだよね。わからないから、答えを求めて生き続けているというか。死ぬ時になったら、わかるのかな。でも、生きている間に知りたいなって気持ちもある(笑)。
仕事でのこだわりは気持ちが動くかどうか
水谷 僕はね、物を選ぶことに関してのこだわりがまったくないけれど、仕事は別。「気持ちが動くかどうか」を大切にしているというか……。俳優は、気持ちが動かないと何も始まらないと思っているから。チャレンジは一生続けたいと思っているし、僕にとって仕事は、間違いなくそのひとつ。
反町 僕もそうです。7年間同じ役をやり続けるというのは、僕にとって大きな挑戦でした。
水谷 ソリも言っていたけれど、撮影期間が7ヵ月と長丁場だと、きつくて、大変な時もある。でも、それは、自分しか味わえないものだよね。そう考えると、いつしか大変さが喜びに変わって、そのうち、大変だと思わなくなってくる。
反町 シビアな現場でしたけど、その分、得られたものも大きかったですね。7年間無我夢中で登り続けてきた山を、僕は今、下りようとしているところ。この先のことを聞かれることもありますが、それは下りてから考えることで、今はまだ、どう下りるかに必死です。あ、相棒役は卒業しますけど、これからもゴルフは誘いますので、スケジュール、空けてくださいね。
水谷 もちろん。
反町 それから、釣りもぜひ一緒に!
水谷 だから、僕は釣りには興味がないんだってば(笑)。