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2021.12.02

6位入団の10年目で初タイトルを獲得した楽天・島内宏明。”ちりつも”を地で行く野球人生とは?

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。今回はパ・リーグの打点王に輝いた島内宏明(楽天)の夜明け前。【第17回 奥川恭伸(ヤクルト)】

星稜高校時代の島内宏明。

星稜高校3年時の2007年8月12日 全国高校野球選手権 対長崎日大戦

以前のコラムで取り上げた杉本裕太郎(オリックス)と並んで、今年驚かされたタイトルホルダーと言えばパ・リーグの打点王に輝いた島内宏明(楽天)ではないだろうか。昨年までも“つなぎの4番”として出場することはあったものの、ホームランは2017年の14本、打点は’19年の57打点がキャリアハイであり、タイトルに絡むような数字は残していない。ところが今年は5月以降ほとんどの試合で4番を任されると、これまでの記録を大きく上回る21本塁打、96打点をマークして、プロ入り10年目にして初のタイトルを獲得したのだ。

そんな島内のプレーを初めて見たのは’07年8月12日に行われた夏の甲子園、対長崎日大戦だ。この試合で島内は1番、ファーストとして出場。2安打、1四球と4打席で3度出塁し、トップバッターとしての役割を果たしたが、チームは1対3で敗れている。島内自身のプレーについても第1打席で放ったレフト前ヒットで一塁到達4.25秒という高水準のタイムを残しているものの、当時のノートには「左方向に打ち返すミート力があり、ヒットでも足を緩めない姿勢は素晴らしい」としか書いておらず、正直強い印象は残っていない。ちなみに当時のチームはエースで4番の高木京介(巨人)が注目選手であり、この試合でも負け投手となったものの4安打をマークし、当時のノートにもピッチング、バッティング両方について11行に渡ってメモを残している。このことからも島内の印象が薄かったことがよく分かるだろう。

明治大学3年時の’10年9月26日 秋季リーグ戦 対早稲田大学戦

島内は高校卒業後、明治大に進学するが、3年春まではわずか1試合、1打席の出場にとどまっており、この時点では高校時代にプレーを見ていたことはすっかり忘れていた。ようやく”明治大の島内”として存在を認識したのは2010年9月26日に行われた秋季リーグ戦、早稲田大との試合だ。この試合で島内が5番、ライトで出場。第3打席ではセンターにツーベースを放ち、8.00秒を切れば俊足と言われる二塁到達タイムで7.91秒という数字を残している。相手はこの年のドラフト1位で広島に入団する福井優也(楽天)で、この試合でも最速150キロをマークしていたが、そのスピードにも振り負けないシャープなスイングが目立った。

さらに同年10月25日に行われた立教大戦では4番に座り、第3打席で矢部佑歩(三菱自動車倉敷オーシャンズ)からセンターへリーグ戦初ホームランも放っている。当時のノートにも「小さい動きで力強いトップの形を作り、インパクトも強い」、「インサイドアウトの軌道で振り出せ、フォローも大きい」などと評価するメモを残している。結局このシーズン、島内は規定打席には未到達ながら打率4割をマーク。翌年には春、秋連続で打率3割を大きく上回る成績を残し、2季連続でベストナインにも輝いている。

このように大学4年時の活躍ぶりは見事だったが、ドラフト候補として高い注目を集める存在だったかという決してそういうわけではない。一つ大きなネックとなっていたのが守備面だ。高校時代には脚力はありながらもファーストを守っていたように、スローイングに強さがなく、試合前のシートノックではチームメイトの中でも明らかに返球の勢いが劣っていたのだ。3年の時は主にライトを守っていたが、この送球難が災いして4年時にはレフトを守ることが増えており、そのこともやはりマイナスの印象を受けた。

守備の不安がある程度払拭できる可能性をようやく感じられたのは4年秋の’11年9月17日に行われた法政大との試合だ。この試合は9対8で明治大が勝利する乱打戦となり、レフトを守る島内も多くのヒットを処理したが、その時の内野への返球に素早さが出てきていたのだ。当時のノートには「スローイングの強さはやはり物足りないが、動きは素早く正確に返球できるようになった」と書いている。それでもドラフト6位で名前が呼ばれた時には、プロでここまでの選手になるとは想像がつかなかった。

改めて振り返ってみると、大学の下級生時代は試合に出られない中でも持ち味であるミート力とスピードに磨きをかけ、課題だった守備も大学最後のシーズンで改善するなど、着実な成長を見せていたことがよく分かる。ドラフト候補になる選手やプロでブレイクする選手は、ある日、あるシーズンに突然才能が開花するケースが多いが、島内の場合はそうではなく、一歩一歩階段を上るようにして課題をクリアしてきたことがプロ入り10年目のタイトル獲得に繋がったのではないだろうか。

大型補強で他球団から移籍してきた主力選手が多い中で、生え抜きのドラフト6位入団の島内が4番を任せられていることに喜びを感じているファンも多いはずである。来年以降もその着実な歩みを止めることなく、さらなる高みへと到達してくれることを期待したい。

【第17回 奥川恭伸(ヤクルト)】

Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=スポニチ/アフロ

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