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2021.11.18

ヤクルト奥川恭伸の分岐点となった3つの「11月10日の神宮球場」

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。今回はヤクルト優勝の立役者のひとり、奥川恭伸の夜明け前。【第16回 杉本裕太郎(オリックス)】

高校2年時の明治神宮大会で快投した奥川。

星稜高校2年時 2018年11月10日 明治神宮大会、対広陵戦

混戦のセ・リーグを制したヤクルトの投手陣で救世主的な存在となったのが奥川恭伸だ。プロ入り2年目ながら先発ローテーションの一角としてチームトップタイとなる9勝をマーク。クライマックスシリーズのファイナルステージでは1戦目の先発を任せられると、わずか98球で完封と完璧なピッチングを見せている。

2019年のドラフト会議では3球団から1位競合となるなど、星稜高校時代から佐々木朗希(ロッテ)とともに世代を代表する投手だった奥川だが、下級生の頃は決して圧倒的な存在だったわけではない。初めてそのピッチングを見たのは’17年6月3日に行われた春の北信越大会の対新潟明訓戦だ。1年生ながら背番号18をつけてベンチ入りしていた奥川は7点をリードした5回から2番手として登板。2回を投げて被安打1、1奪三振で無失点の好投でチームのコールド勝ちに貢献したが、まとまりはあるもののボール自体にはそれほど凄みは感じられなかった。ちなみにこの時の最速は136キロという数字が残っている。その年の秋の北信越大会、対北越戦でも4回を投げて1失点、8奪三振と好投を見せているが、当時のノートには「ステップが狭く、股関節の硬さが気になる」、「少しギクシャクした動きで全体的に窮屈なフォーム」などというメモが残っている。

高校2年夏の甲子園では最速150キロをマークして全国的にも注目を集める存在となったが、フォームについての印象は大きく変わることはなかった。この時の奥川のピッチングについて広島カープの苑田聡彦スカウト統括部長が『(スピードガンの数字は)速いけど僕でも打てそうですよ』と笑いながら話していたのをよく覚えている。それだけステップの幅が狭くて単調で、タイミングが取りやすいということから出た発言と言えるだろう。

ファウルで粘ることすら許さぬ圧巻の投球

そんな奥川の印象が一変したのが、’18年11月10日に行われた明治神宮大会、対広陵戦だ。全国でもトップクラスの強豪を相手に7回を被安打3、四死球0、11奪三振完封という圧巻のピッチングを見せたのだ(試合は9対0で星稜がコールド勝ち)。夏までと大きく変わったのがステップの動きだ。踏み出す幅はまだ少し狭かったものの、軸足に体重を乗せてからゆったりとステップできるようになり、ギクシャクしたような動きもなくなったことでボールにしっかりと力が伝わっているように見えた。この試合での最速は149キロだったが、夏の甲子園で記録した150キロよりもボールの勢いはアップしていたことは間違いない。フォームが安定したことでスライダーとフォークも変化が鋭くなり、対戦した広陵の打者たちもボールが消えるように感じたというコメントを残している。

そして更に凄みを感じるのが7回を投げてわずか78球という球数だ。11個奪った三振について球数の内訳を見てみると、3球が2個、4球が8個、5球が1個となっている。それだけ打者にファウルで粘ることすら許さなかったということの証明であり、現在のピッチングスタイルにも共通する点である。奥川は翌年の春には初戦の履正社で17奪三振、夏の甲子園では智弁和歌山を相手に延長14回で23奪三振という大活躍を見せて高い評価を不動のものとしたが、その奥川伝説の始まりとなったのは明治神宮大会での快投だったと言えるだろう。

プロ初先発も、プロ初完封も11月10日の神宮球場

ちなみに広陵戦の2年後の11月10日に奥川は一軍でプロ初先発を果たしたものの、3回途中5失点で負け投手となっている。そしてそこから更に1年後の11月10日に冒頭で触れた巨人戦での快投を見せ、全ての試合の舞台となったのが神宮球場だというのも何とも運命的である。高校時代の明治神宮大会がそうだったように、先日のピッチングをきっかけにプロでも更に飛躍していくことも十分に期待できるだろう。

【第16回 杉本裕太郎(オリックス)】

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

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