常に時代の先頭を走り続ける西野亮廣の連載「革命のファンファーレ~現代の労働と報酬」!
いまだに売れ続けているベストセラー『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』の刊行から4年経った、今の西野さんの頭の中とは? 連載第四回。
※ここで掲載する記事は、オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』に投稿した記事を、連載用に加筆修正したものです。
連載「革命のファンファーレ~現代の労働と報酬」
第四回 「安くすれば売れる」という思考の落とし穴
NFTの盛り上がりも手伝って、「デジタル」の価値が認められてきています。
最近の西野は、デジタルデータをサックと売買できる『elu(エル)』というサービスにドップリとハマっておりまして、もっぱらデジタルデータを売ったり、買ったりしています。
そんな中、先日、面白い問題にブチ当たったので、共有させていただきます。
競合は「隣に並んでいる商品」だけじゃない
グラフィックデザイナーの「かんかん」サンが描く『プペル』と『ルビッチ』が僕は大好きで、「プペルとルビッチの【スマホの待ち受け用のイラスト】を描いて、eluで売ってくださいよ。僕、買いますんで」とお願いしてみました。
このあたりの節度のないアクションは、何の苦労もせずに世に出てきてしまった男の成せる技であります。
それでも、心優しい「かんかん」サンは、すぐに【スマホ待ち受け用のイラスト】を描いてくださいました。
そして、こんな質問が飛んできました。
「これって、何個(限定)で、いくらで販売したらいいんですか?」
ここからが今日の本題です。
皆様なら、『プペルとルビッチの待ち受け画面用イラスト』を、いくらで販売しますか?
ちなみに(参考までに)、eluの設定可能金額は『500円~5万円』、設定可能の商品数(現定数)は『10個~100個』です。
かんかんサンの稼働費や、『えんとつ町のプペル』のブランド代も考えなきゃいけません。
……そう言われちゃうと、ちょっと難しいですよね?
僕は、『5000円×20個』か、『500円×100個』で悩みました。
「待ち受け画面の画像」に『5000円』とは、かなり強気の値段設定ですが、「世界に20個しかない」という希少価値を考えると、無い話でもなさそうです。
でも、とはいえ、『待ち受け画面の画像』です。
やっぱり、最も安い『500円』にして、たくさん販売するのが妥当な気もします。
そんなこんなで、『5000円×20個』で10万円の売上を作るか、『500円×100個』で5万円の売上を作るか悩んだのですが……“ある視点”から切り取って考えてみると、「『500円×100個』で5万円を売上を作る(=安いものをたくさん売る)」は、デタラメに難易度が高いことが見えてきました。
「どっちにした方がいいのかな?」と悩んでいた頃(3秒ぐらいね!)の僕には、『お客さんのお財布事情』と『eluの商品棚に並んでいる他の作品』にしか目がいっていませんでした。が、よくよく考えてみると、【スマホの待ち受け画面】を販売するということは、「お客さんが現在登録している超お気に入りの【スマホの待ち受け画面】」に立ち退いてもらわないといけないわけです。
「お客さんが現在登録している超お気に入りの【スマホの待ち受け画面】」なんて、eluの商品棚に並べられているどの作品よりも強いわけで、そんなモンスターを相手に100勝しなきゃいけないなんて、ムリゲーもいいところ。
たとえ、100円であろうと、10円であろうと、関係ありません。
僕らは「競合」と聞くと、ついつい【同じ商品棚に並んでいる商品】に目をやってしまいますが、作品・商品・サービスにとってみれば、【すでに買われた作品・商品・サービス】が競合でもあるわけで…んでもって、後者は競合として強すぎる。
西野家のトイレの壁に飾るようなイラストや写真を西野に販売しようと思ったら、すでに西野家に飾られている『蜷川実花さんの作品』に勝たなきゃいけないんです。
難しすぎません?
可処分所得は給料日にリセットされますし、
可処分時間は1日の終わりにリセットされますし、
可処分胃袋は朝昼晩にリセットされます。
しかしながら、『可処分家の壁』や、『可処分待ち受け画面』は時間が経過してもリセットされることはなく、お客さんの『可処分家の壁』や『可処分待ち受け画面』を奪おうと思ったら、すでにそこを押さえている商品・作品・サービスに立ち退いてもらわないといけない。
「待ち受け画面を100個売る」が、なんと難しいことか。
それならば、数は少なくなるかもしれませんが、『待ち受け画面にこだわりがない人(&限定数に魅力を感じてくれる人)』をピンポイントに狙った方がいい。
その場合の競合は「eluの商品棚(もしくは他の待ち受け画面販売サイトの商品棚)に並んでいる作品」となり、最強甚だしい「すでに買われている作品」と戦わなくて済みます。
「可処分○○」は、○○のジャンルによって、競合が変わっていることを、もっと強く意識しなきゃなぁ(=こんなのは二択問題じゃなくて、一択問題なので、迷わずに0.1秒で答えが出せるようにしなきゃなぁ)と思ったので、今回、共有させていただきました。
よくよく考えてみたら、僕らの身の回りはもう、自分が気に入ったもので埋めつくれていませんか?
自分が消費者だとして、「安いスニーカーが出たから」といって、先月(お金をためて)買った超お気に入りのスニーカーを買い換えます?
それは、つまり「お金をためて買った自分」を否定する行為です。
そんなこと、なかなかしませんよね。
消費者目線で考えると、「安いからといって、買わねーよ」になるのですが、売り手目線になると、途端に、「安くすれば売れる」という思考になる。
安いものを“たくさん売る”というのは、まったく安全策なんかじゃなくて、その分、勝たなきゃいけないハイレベルな試合が増えるわけで、なかなか険しい道です。
ちなみに、かんかんサンの【スマホの待ち受け画面用イラスト】は『5000円×20個』で即完。
このあたりのバランス感覚(可処分○○によって競合が変わる)は、すべてのサービス提供者が持ち合わせておかなくちゃいけないのかもしれません。
今後もいろんな実験を繰り返しては、オンラインサロンで共有していきます。
現場からは以上です。
西野亮廣/Akihiro Nishino
1980年生まれ。芸人・絵本作家。モノクロのペン1 本で描いた絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』。完全分業制によるオールカラーの絵本に『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック~約束の時計台~』。小説に『グッド・コマーシャル』。ビジネス書に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『新世界』。共著として『バカとつき合うな』。製作総指揮を務めた「映画 えんとつ町のプペル」は、映画デビュー作にして動員170 万人、興行収入24億円突破、第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞という異例の快挙を果たす。そのほか「アヌシー国際アニメーション映画祭2021」の長編映画コンペティション部門にノミネート、ロッテルダム国際映画祭クロージング作品として上映決定、第24回上海国際映画祭インターナショナル・パノラマ部門へ正式招待されるなど、海外でも注目を集めている。
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