今、六本木けやき坂下で開催中の展覧会「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ」。そして完全会員制リトリートラウンジ「UNBORN」。それぞれを手がけた、チームラボ代表の猪子寿之とクリエイティブディレクターの小橋賢児が、今、人間の内面へのアプローチを始めたわけを語り合った。対談前編。
固定概念を外されると、究極の忘我の状態になれる
超温冷交代浴によってもたらされる“ととのった”状態でアートを体験する、チームラボによる新しい展覧会「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ」。そして、生まれる前の胎児の状態のように思考や肉体の感覚を離れて、時を忘れるくらいのフロー状態へと心をゼロにする新感覚な体験をもたらすのが、会員制リトリートラウンジ「UNBORN」。期せずしてほぼ同時期に始まったふたつの新たな試みについて、チームラボ代表の猪子寿之とクリエイティブディレクターの小橋賢児が「TikTok チームラボリコネクト」で語り合った。
小橋 昨年の秋に偶然ラジオで猪子さんと話した時が、ちょうどこれからお互いが似たようなことをやるっていうタイミングだったんですよね。僕は「UNBORN」、猪子さんは「TikTok チームラボ リコネクト」を始めようとしていて。その時に猪子さんがアートは高級な場所で観るよりも、自分自身が高級な状態になって観たほうがよくない? みたいなことを言っていたじゃないですか。
僕のほうは生まれたての赤ちゃんが初めて全身で世界を感じるように、アイソレーションタンクでおなかの中の胎児の状態に戻ってアートを観るようなものを作ってみたいと思っていて、考え方が一緒でした。猪子さんがリコネクトを始められたのは、やはり今は時代的にそういう流れになっているからでしょうか?
猪子 実は自分が変わって世界を見たほうがいいっていうのは、東洋的にはすごく古典的な思想なんですよ。それはもちろん知っているんですが、それよりも単純にチームラボが夏から秋に九州で行なっている展示「かみさまがすまう森」の場所である御船山楽園に、2019年にサウナができて、サウナでととのった状態で自然やアートを観たら、世界と時間につながっている感じすらして、明らかにある種特別な体験だった。だから、御船山以外の都市部でも、超温冷交代浴による特殊な状態でアートを観る展覧会をやりたいなと思っていたんです。
あとは個人的に世界中の風呂を回るのが好きで、スイスのテルメ・ヴァルスのピーター・ズントーの建築は、もうなんか美しすぎて。人生で経験した建築のなかでもトップクラスに、建築と空間は美しいし、単純に気持ちいい。あとは、それこそアイスランドのブルーラグーン。そういう風呂って美しいじゃん。それもあって海外のある場所に大規模なサウナも含めたスパのミュージアムを計画していて設計も終わっていたんだけど、コロナ禍で止まっちゃったんですね。だったら、じゃあ東京に実験的につくろうと。
御船山だけでなく、都市でもサウナのあとにアートを体験できるように
小橋 日本で今、サウナブームが起きているから始めたっていう文脈もあるのかなと思っていたけど、違うんですね。
猪子 そう。元々スパのミュージアムをつくろうと計画していたのが止まったのと、そのうえ、自分が御船山で体験して感動したことを都市でも体験できたらいいなと思って、サウナのあとにアートを体験する場をつくろうと思ってさ。
小橋 日本の歴史の中でも、サウナのようなものに入ってアートを観るみたいなことはあったんですよね?
猪子 室町時代に、サウナに入ったあと休憩場に屏風を置いて、休んでいたらしいのね。それが淋汗茶の湯と言われて、新興の豪族たちの間で婆娑羅趣味として流行っていた。それまでは寺が風呂を提供していたんだけど、そうではなくて自分たちで風呂を振る舞う。それは新興の豪族が名ばかりの権威をバカにしてできていった婆娑羅文化のひとつでさ。
小橋 そういう歴史をもともと知っていたから今回のアート×サウナをやろうと思ったのか、それとも、あとからそういう歴史があったという情報がくっついてきたんですか?
猪子 今回でいうとあとから。御船山でサウナに入って、たまたま自分が置いているアートを観るじゃん。で、ヤベーって思って。これは昔の人もこの遊びをやってたなと思って調べたら、やっぱりそういう歴史があったわけ。それでサウナに入って冷たい水を浴びることを、勝手に超温冷交代浴って呼んでいるんだけど、激しい温冷交代浴によって、脳と体が特殊な状態になることでアートを観る展覧会がしたかったんだよね。アートを権威がある場所やシュッとした場所に置くことにみんなこだわっていたけど、そうではなく、観る側を特別な状態にしてアートを観せたかった。
小橋 確かに高級な場所に展示されたアートを観るのは、もはやそこにあるからその作品がいいっていう情報で観ている状態ですよね。もし、なんの情報もないまま作品だけを観たら、圧倒的な感動が得られていたかもしれないのに、先にこの美術館に展示されているから特別だとか、この絵は高額だからすごいっていう情報を知っちゃっていると、圧倒的な感じになれない。だから、自分自身をサウナでゼロにする、要は内面を変容させて観たアートのほうが圧倒的な感動を味わえますよね。
猪子 そうそう。あともうひとつは、自然現象を超越したような、現実には一見起こり得ないような不自然な状態、つまりは超自然現象的なものを見た時に、自分が持ってかれるような感じになって、脳もすごくいい状態になるような気がしたんです。
事の発端は、今回のリコネクトでも展示しているボールを浮かせる作品を実験していて初めてうまくいった時に、あまりにも持ってかれて1時間くらい見ちゃったんだけど、そしたら、すっきりして脳が洗われてピッカピカになったような感じがして。その自分に起こった出来事が面白かったから、今回、サウナと一緒に観せようと思ったんです。
小橋 僕らって普段は情報をもとに頭で物事を考えちゃっていますよね。でも、自分の理解を超えるような圧倒的なものを見て、固定概念を外されると、究極の忘我の状態になれるんです。あらゆる執着から解放されてもともとある状態に戻るような。
いつもは打算的にいろいろなものごとを考えてしまい、自分の“我”が邪魔をしたり、同調圧力に流されたり、人のことを気にしたりしていますが、圧倒的なものを見ると、思考から解放されて、それがパーンと外れます。ポジティブ心理学を提唱するミハイ・チクセントミハイが言うところのフローという状態になりますね。
猪子 持ってかれるってことは、自分自身がない状態になるってことだから、まさに忘我だよね。我を忘れて、観ている対象と一体化しちゃっていることなので。
小橋 でも、昔に比べて持ってかれるっていう体験が減ってるじゃないですか。例えば、東京タワーが建った時は、みんな持ってかれてたし、テレビが登場した時も持ってかれてたと思うんです。今は情報が多様にありすぎてそういう体験がなくなっているけど、「リコネクト」では作品の中に没入することで持ってかれる体験ができる。
猪子 そうだね。「リコネクト」では、球が浮いたり、水が光の結晶のようになったりするような、我々が古典的に知っている物理の法則からするとおかしい状態を生み出すことで、その対象物に対して持ってかれやすい状態を作っています。超温冷交代浴と超自然現象的なものを、どちらかだけより両方まとめてやっちゃったほうが、より持ってかれていいのかなと思って。
つまりは、強制的に超温冷交代浴で頭がおかしい状態にして超自然現象を見せることで、とにかく持っていかれて脳をピカピカにしようという展覧会ですね。
後編に続く
チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ
会期:3月22日〜8月31日
所在地:東京都港区六本木5-10-25
開館時間:10:00〜23:00 ※最終入館は21:30
休館日:不定休
料金:平日 4800円/日祝・特定日 5800円
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UNBORN
場所は非公開
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Toshiyuki Inoko
1977年徳島県生まれ。2001年東京大学工学部を卒業と同時に、アート集団チームラボ創業。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。現在、お台場の「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」、豊洲の「チームラボプラネッツ TOKYO DMM」、六本木けやき坂下の「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ」をはじめ、常設を含むさまざまな展示が国内外で開催中。
Kenji Kobashi
1979年東京都生まれ。88年に俳優デビューし、数多くのドラマに出演後、2007年に芸能活動を休止。『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクターや『STAR ISLAND』の総合プロデューサーを歴任。500機のドローンを使用した夜空のスペクタルショー『CONTACT』でJACEイベントアワード最優秀賞の経済産業大臣賞を受賞。日の出桟橋の「Hi-NODE(ハイノード)」の企画アドバイザーを務めたり、都市開発や地方創生に携わる。2020年、完全ノンアルコールバー「0% NON ALCOHOL EXPERIENCE」、2021年、「UNBORN」をオープンする。