「丁寧に作られたものこそここぞの時に輝く」
「勝負をしなくなったら、もう経営者といえない」
そう語るシーラホールディングス会長の杉本宏之氏。現在、不動産投資クラウドファンディングプラットフォーム立ち上げを控え、大規模な投資と改革を続けており、まさに新たな勝負に挑んでいる真っ最中だ。そんななかで、金融機関との交渉や、投資家との面談など、会社の未来に関わる場では、必ずエルメスのオーダースーツを纏(まと)うのだという。
「最初は髙島屋の外商さんに勧められるがまま(笑)。そんなにいいなら作ってみようかな、という軽い気持ちでした。日本に数人しかいないという採寸のプロフェッショナルが何度も採寸を重ねて丁寧に作ってくださったので、結果的に、ここぞという時に着るスーツになりました」
エルメスならではの上質な生地と細やかな仕立て。ネイビーという色も汎用性があり、シーンを選ばずに着られる。ここ最近はカジュアルな装いで仕事をすることが多いというが、だからこそ、このスーツを着る時は余計に戦闘モードに。
その腕元を飾るのは、ロレックスのデイトナ ポール・ニューマンモデル。杉本氏が購入した時よりも、現在は倍近くの価格になっていて、まさに勝負スーツに合わせるにふさわしい縁起物といえる。
24歳で起業、不動産業界最年少で株式上場を果たした後、リーマンショックの煽りを受け、民事再生と自己破産。民事再生した会社の売却先を決めた後、投資家の鞄持ちをしながら再起を誓う。そして2010年にシーラホールディングスを立ち上げた。まさに勝負に勝負を重ね、時に地獄を見てきた。
「経営者として大事なのは、何かを得るためには何かを失う覚悟があるかどうか。普通の安定した幸せがあって起業家として成功もしたいなんて、いいとこ取りは通用しない。僕は、普通の幸せなんかとっくに捨てているんです。地獄といわれようが、自分はこの道で戦うと決めた」
「あの人がいたから」と思ってもらえる上司に
現在「プロップ(不動産)テックグループ」を掲げているシーラホールディングス。杉本氏自身もゼロからプログラミングを学んでいる。
「キツくても自分をアップデートしていかないと、優秀な人たちに来てもらえませんし、プログラミングがわからないと、エンジニアともプロダクトマネージャーとも話せない。毎日成長していかないといけません」
自分を追い詰め、常に学び続ける姿勢は、機関投資家の元で修業をしていた時に学んだ。
「それまで経営者としてやってきて、サラリーマンに戻るって結構な勇気が必要なんです。でも自分にはファイナンシャルリテラシーがなく、そこをつきつめないといけなかった。学んだ投資家は厳しかったですよ。突然クイズのように『A社の棚卸し(資産)の金額はいくらだ』と聞いてくるんです。1円単位まで答えないと『だからお前は会社を潰したんだ』と。経営とはそこまで数字をつきつめなければいけないと、叩きこまれました」
血みどろになるような勝負を経てきても、杉本氏の根底にあるのは19歳で初めて就職した住宅販売会社の上司の存在だ。
「とてもいい上司でした。若かったので喧嘩もしたし、とにかくめちゃくちゃでしたが、温かく見守ってくれた。社員は上司を選ぶことができないけど、自分も『あの人がいたから』と思ってもらえる上司になるべきだと今改めて思います。感情に動かされず、相手のことを考え、相手のためになることをする。それが大事なんです」
自らに言い聞かせるように杉本氏はスーツの襟を正した。
SUGIMOTO’s TURNING POINT
19歳 不動産業界に入る。当時の社長から、ビジネスの基本を学ぶ。
24歳 9.11をアメリカで体験。人生の儚さを知り、その年の内に起業。
28歳 株式上場。不動産業界で上場した最年少社長となる。
31歳 400億の負債を抱え、民事再生を申請。ファイナンスを学び直す。
32歳 現代表の湯藤善行氏に背中を押され、シーラホールディングス創業。