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2021.03.06

【松浦勝人】「何かに頼らないというのが、僕のゲン担ぎかもしれない」

松浦勝人

勝ちの一手は自分頼み

30歳ぐらいの時から、いつもクロスのネックレスを身につけている。つけ忘れると何か落ち着かない。何か足りない感じがしてしまう。でも、それがゲン担ぎになっているとか、お守りになっているとかいう意識はない。ただ習慣になってしまったのでつけているだけ。

しかもよく失くすので、10年ぐらい前に、これ以上失くさないよう、わざわざ特注で作ってもらった。どこかに置き忘れると寒気がするほど焦るけど、それはもう一度注文しなければならないとか、お金がかかるとかそういうことで、運気が逃げるという感覚はない。

大きな勝負の前に、ゲン担ぎをするということもしたことがない。初詣も行かない。どんなに大きな勝負であっても、なるようにしかならないと思って今までやってきた。ここぞという勝負の時は、ゲン担ぎをやっているような余裕なんかない。自分そのままで臨む以外ないと、ただそれだけでやってきた。

占いも信用しない。そういうものに頼らなくても、絶対にうまくいくはずだと信じて臨んできた。自分が信じたとおりにやるというやり方でやってきた。何かに頼らないというのが、僕のゲン担ぎなのかもしれない。

仕事に関して、ゲン担ぎをしたり占い師に相談をしてうまくいったなどと思ってしまったら、自分がどんどんそういうものに頼るようになってしまう。それが好きではない。

成功というのは、まず自分が限界以上の努力をして、そこに運や偶然が起こってうまく回りだす。でも、それだけでは成功とはいえない。うまくいった状態を長く続けることができて初めて成功で、僕にとっては、この長く続けるということがとても重要だった。だから、ゲン担ぎをして、今回だけなんとかくぐり抜ければいいということにはならない。ひとつひとつ地道に積み重ねていくしかない。

僕にもうまくいかなかったプロジェクトはたくさんある。成功したプロジェクトと同じように努力を積み重ねている。それでもうまくいかなかったのは、運が悪かったのではなく、タイミングが悪かった。だから、別の時期にやっていれば成功していたかもしれないといつも思う。結局、タイミングを読み違えた自分の失敗。

「全力で行きあたりばったり」で臨む

「うん」と言わせなければならない大きな交渉ごとに臨む時も、勝負服を着るとか、幸運のアイテムを持っていくということもしない。事前に、細かく想定質問を作ってシミュレーションするということもない。だいたいぼんやりとこんな感じになるということは考えるけど、基本は何も決めない。

だって、いろいろ考えたって、直前の1分で、状況がまったく変わってしまうということがいくらでもある。相手の反応を見て、話の持っていき方を変えていかなければならない。相手にいい話だと思ってもらわなければならない。相手の反応、状況を瞬時に判断しながら、話を変えていく。ものすごくエネルギーを使う。

そういう交渉ごとに、事前に原稿を書いて、朗読するだけの答弁みたいなことをしても意味がない。だから、僕はいつも行きあたりばったり。全力で行きあたりばったりをやってきた。

大きな問題が起きた時も、神頼みみたいなことはしたことがない。大変なことというのは立て続けに起きる。立て続けに起きるから、問題を片づけていくことができる。何もない時に50点ぐらいの問題が起きると、それでいっぱいいっぱいになってしまうけど、同時に80点ぐらいの問題が起きると、そちらをどうにかしなければならないから、50点の問題のほうは、すぐ決断ができる。続けて100点の問題も起きると、80点の問題の判断がつくようになる。

100点の問題を解決するのは自分しかいない。「昔、やはり100点の問題があってたいへんな思いをした。でも、乗り越えてきた。あの時のことを考えれば、今の問題なんてどうってことない」と自分を信じるしかない。そこで神頼みというのは逃げにしかならない。神様に逃げても問題は解決されない。僕が逃げるとしたら、エイベックスを捨て、自分の生活を捨てるしかないけど、そんなことができるはずがない。僕には逃げる場所なんてなかった。

僕の「今までつらかったことベスト10」ランキングは、すべてが人間関係だけど、このコロナ禍は、今まで経験したことがないたいへんな問題。僕が何かをしても解決できない、考えてもどうにもならない。世の中がゆっくり変化していたところにコロナ禍が起きて、いきなり3倍速で変わってしまった。当然、今後、その歪みがいたるところで現れてくるようになる。

エイベックスというのは、世の中の変化に合わせてどんどん変わってきた。だから、コロナ禍でまた変わることになる。でも、どう変わるかを決めるのは、もう僕ではない。社長の黒岩を信じて任せているのだから、彼が決めること。それに対して「僕はこう思う」という意見は言うかもしれないけど、「それは違うからこうしろ」とは絶対に言わない。

今の僕は、CEOという職を社長に渡し、音楽制作に集中している。今のやり方は、手法はコライトだオンラインだと新しいものに見えるかもしれないけど、根本の部分は、僕が20代の頃にやっていたことと何も変わっていない。ということは、20代の僕でもやれていたことなんだから、今、20代のすごい才能が出てきたら、その人のほうが僕よりもずっとうまくできるのかもしれない。僕みたいなおじさんが「まだまだ頑張ります」と言っていられるほど、世の中の進み方は遅くない。もしかしたら僕のやり方は古いのかもしれないけど、それは自分では判断がつかない。でも、音楽の流行というのは必ず繰り返すので、すべてはタイミング。それを読み切れるかどうかで決まる。

僕は今、人生最後になるかもしれない勝負をしている。今までと同じように全力の“行きあたりばったり”で臨んでいる。

Masato Matsuura
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸レコード屋の店長としてビジネスを始め、以降輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメにまつわるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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