約1年の延期が決まった東京五輪。本連載「コロナ禍のアスリート」では、まだまだ先行きが見えないなかでメダルを目指すアスリートの思考や、大会開催に向けての舞台裏を追う。
NBAと下部リーグの両方でプレーできるツーウエー契約
最高峰の舞台で3シーズン目を戦う権利を得た。NBAラプターズは20日、渡辺雄太(26)とツーウエー契約を結んだことを発表した。渡辺は21日に会見に臨み「(プレシーズンマッチの)3試合目が終わった直後に、コーチとGMから“チームに残す”と言ってもらえた。素直に嬉しかった。しっかりアピールできれば今まで以上にチャンスは増えると思う。今シーズンが楽しみで仕方がない」と表情を崩した。
ツーウエー契約はNBAと傘下の下部Gリーグチームの両方でプレーできる契約。本来は最大45日までNBAチームに登録ができる規定だが、コロナ禍による特例で今季は72試合中50試合までNBAのロースター(登録選手)入りが可能となる。帯同日数の制限も撤廃され、年俸も一律44万9155ドル(約4600万円)に定められた。ツーウエーで各チームが同時に契約できるのは2選手まで。対象はNBA在籍年数4年未満の選手に限られる。この契約で同一チームに所属できるのは最大2シーズンという条件も付く。渡辺は昨季までプレーしたグリズリーズともツーウエー契約を結んでいた。
渡辺はラプターズの開幕前キャンプに無保証の最低年俸でNBAではプレーできないエグジビット10契約で参加した。プレシーズンマッチ全3試合に出場し、1試合平均で10分に満たない出番で4.7得点、3.7リバウンドを記録。フィールドゴール成功率57.1%、3点シュート成功率60%をマークした。
ラプターズはキャンプに参加していた20選手のうち3選手を19日に解雇。渡辺はプレシーズンマッチでのアピールが実り、新たな契約を勝ち取った。ナース監督からは「多才な選手。フォワードでありながらポイントガードの仕事もこなせる。いい視野を持っているし、いいシューターだ。それに見た目よりも強い」と高い評価を受けている。
グリズリーズでプレーした18-19、19-20年シーズンは通算33試合に出場。1試合平均8分30秒の出場で、2.3得点、1.5リバウンドだった。昨季の3点シュート成功率は37.5%。ラプターズで結果を残せた要因について、渡辺は「チームと(相性が)合っていると思う。短い時間で良いプレーができたと思っているが、何か特別に去年から違うことをやったわけではない」と強調。攻守の切り替えの速さ、運動量の求められる守備など自身の長所がチームにフィットしている分析した。
今季は八村塁選手との対戦が実現する可能性も
渡辺は昨季終了後の8月下旬に一時帰国。帰国者は公共交通機関を利用できないため、レンタカーで羽田空港から実家のある香川県に移動した。実家で自主トレを続け、10月中旬に再渡米。ロサンゼルスに拠点を置きトレーナーと契約して新シーズンを戦うための準備を進めた。ロサンゼルスで開催されたトライアウトでラプターズから声がかかり、12月1日から合宿に参加。勝負の20日間で、NBA切符を手にした。
ラプターズは18-19年シーズンにカナダ勢として初優勝を果たし、昨季もプレーオフに進出した強豪。本拠地はトロントだが、米国-カナダ間の入国制限に伴い、現在はフロリダ州タンパに活動拠点を仮移転中だ。本来なら渡辺はGリーグのラプターズ905が主戦場となり、ラプターズからの招集を待つ立場だが、コロナ禍でGリーグの新シーズンの日程が不透明なため、当面はラプターズに同行して練習する見通しだ。
ラプターズは23日(日本時間24日)にペリカンズとの開幕戦を迎える。八村塁(22)の所属するウィザーズと同じ東カンファレンスを戦う。渡辺と八村が同時にコートに立ったのは昨年12月14日のウィザーズ-グリズリーズ戦で記録した1分9秒間しかない。渡辺は「出場時間をしっかり勝ち取って、彼との対戦をもっとたくさんできたらいい」と思いをはせた。
八村は開幕直前に流行性角結膜炎を発症。約3週間の離脱を強いられるアクシデントに見舞われたものの、今季も日本人対決が実現する可能性は十分にある。2人は来夏の東京五輪に出場する男子日本代表でも軸を担う。NBAで切磋琢磨(せっさたくま)した先に、TOKYOでの飛躍が待っている。