数多くの流行を仕掛け、時代を感じとってきたホイチョイ・プロダクションズ代表取締役社長・馬場康夫氏が今思う、家の在り方とは−−。
人生はトースターorフェラーリ!?
「大手町に新しくオープンした外資系ホテル内のイタリアンは、店内よりテラスのほうが人気だそう。これも新しい生活様式なんだろうな」と、馬場康夫氏。1987年公開の初監督作品『私をスキーに連れてって』でスキーブームを巻き起こしたのをはじめ、数多くの流行仕掛け人にして、時代の気分を鋭く見抜く達人だ。そんな馬場氏に、昨今人々の家に対する意識がどのように変わりつつあるか分析してもらうと、「見た目よりも実質価値に重きを置くようになったのでは?」と。
「少し前まではビジュアル重視の傾向が強かった気がするんですよ。デザイン性が高くて、眺めて気分がアガる家というか。でも、自粛やらリモートワークやらで自宅で過ごす時間が増えたら、『あれ!? この家見た目はいいけど、意外と使い勝手が悪いな』って、みんな気づき始めてしまった。昔、『人生はトースターかフェラーリか』という本があったんだけど、まさにそれ。家は本来、眺めているだけで心弾むフェラーリではなく、毎日パンがおいしく焼けるかどうかが重要なトースター。快適に暮らせるかどうかこそが大事なんだということにね」
例えば個室の数を最小限に抑えることで実現した広々としたリビング。ゆったり寛げたはずのその場所は、リモート会議中に子供が側を横切ったり、家人が観ているテレビの音が聞こえるなど、新しい生活様式のもとではかなり不便。
「狭くても、自分ひとりで専有できる部屋が複数ある家が売れているのは、その表れでしょう」
どう過ごすかによって理想とする家の在り方は変わる。コロナ禍は、“家の原点”を思いだすきっかけになったということか。
「これからはビジュアルよりも、室温が常に快適に保たれているとか、キッチンが使いやすいといった実用性重視の傾向が高まるんじゃない? まぁ、僕はもともと使い勝手オンリーで、見た目は気にしなかったけど(笑)」
その言葉どおり、世界的建築家が設計した広いワンルーム型のオフィスに、特注キャビネットに囲まれた隠れ家的スペースを設けるなど、自分好みにアレンジ。壁を覆う棚には、本やDVD、ビデオテープといったお気に入りの品が、所狭しと並ぶ。
「入手困難な昔の連ドラや映画も揃っていて、ネットフリックスならぬ“ババフリックス”(笑)。ミニマルな空間のほうが洒落ているんだろうけれど、僕は基本オタクだから、好きなもので埋め尽くされた空間が一番居心地がいい。一日中このオフィスで過ごしてもOKなくらい。そもそも好きなことを仕事にしているから、オフィスって感じでもないんだけど」
最近は、仕事場での過ごし方に新たな楽しみも加わった。
「アプリとZoomの両使いで、仲間とオンライン麻雀をやってるんです。集まれなくなったから苦肉の策で始めたんだけど、これがすごく楽しい! プライベート空間だから、自分の好きな音楽を聴いて、自分の好きなお酒を飲みながら、気の合う仲間と、夜中から明け方まで『ロン! 』とか『チー! 』って。それは僕にとってものすごく豊かな時間。見た目はプアで、中身はリッチ。いつの時代であっても、それが僕の信条なんです」
Yasuo Baba
1954年東京都生まれ。テレビや映画、出版、広告の企画制作に約40年携わり、書籍『東京いい店やれる店』や『見栄講座』、映画『バブルへGO!!タイムマシンはドラム式』などが話題に。近著に『不倫の流儀 オッサンがモテるための48の秘訣』がある。