幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から”大谷番”として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
'16年12月に長嶋茂雄氏と初対面
2013年4月。当時日本ハムのルーキーだった大谷に初めて投げかけた質問を今でも反省している。巨人の長嶋茂雄終身名誉監督と、巨人やヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏が国民栄誉賞を同時受賞した。その吉報を受け「長嶋さんや松井さんのような国民的スターを目指したいですか?」と問うと、大谷は首をかしげながら「いやぁ、特に……」と答えに困窮。いかにもスポーツ紙らしい「見出し」を狙った質問だったからだ。
ただ、大谷のような優れた才能と華を持った選手は過去に見たことがなかった。当時は「二刀流」に懐疑的な見方も多く、注目度も限定的だった。だが、大谷の投打を実際に目にしたメディアやファン、相手チームは一様に驚きの声を挙げていた。筆者が初めて大谷を見たのは2軍での練習と試合だったが、投げては150キロ台を連発し、打っては驚異的な飛距離の柵越えを連発。化け物ぞろいのプロ野球の世界でも、ポテンシャルの高さが図抜けていることは明らかだった。
時を経て2015年2月20日。長嶋氏の79歳の誕生日だったこの日に大谷は栗山監督から初の開幕投手を告げられた。その後の会見で栗山監督は「長嶋さんがつくってくれたもの(プロ野球)を、あいつ(大谷)には背負ってもらわないといけない。あいつは歴史をつくると思う」と思いを語っている。
さらに、'16年12月。同年に10勝&22本塁打でチームを10年ぶりの日本一に導き、MVPにも輝いた大谷は長嶋氏と取材現場で初対面を果たしたことを明かした。大谷は長嶋氏の印象について「言葉ではなく、話している感じとか人柄。現役(時代)を知らない僕らでもそう感じるということは、それだけ魅力があるということ」と話した。さらに、長嶋氏と自身を比較し「全然、残してきたものが違う」と語り「僕が長嶋さんにそういう感情を抱いたように(その空気感は)目指すものではなく、それは周りが決めること」と続けた。ファンあってのプロ野球。スターの領域に足を踏み入れた男だからこそ、国民を熱狂させた長嶋氏のカリスマ性を肌で感じ取ったようだった。
投手として0勝、打者として打率.190
メジャーに舞台を移し、コロナ禍の'20年。2年ぶりに投手復帰を目指した大谷は投手として0勝、打者として打率.190と苦しんだ。二刀流の是非を問う声も再び聞こえるようになった。大谷はすでに国民的スターだが、「ミスター級」かと言われれば意見は分かれるだろう。大谷は長嶋氏のように真摯(しんし)に質問に受け答えをする立ち居振る舞い、積極的なファンサービスは、プロ野球選手として常に意識してきた。だが、'17年から4年連続でシーズンを通して二刀流で戦えていないのもまた事実。「スター」から「スーパースター」への壁が"ここ"にあるような気がしてならない。
今季終了後の総括会見。大谷は「改善点、課題みたいなものはあると思うので、それをオフシーズンに取り組んでいきたい」と語った。ワールドシリーズも終わった今、大谷は何を思うのか。野球に全てを注ぐひたむきな姿が、必ずや大谷をスーパースターに押し上げる。大谷がミスターを超えなければ誰が超えるのか。筆者は本気でそう思っている。