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2020.04.10

【特別寄稿】ハリー杉山「見えない敵」 

英国王エドワード1世の末裔にして、父親はニューヨーク・タイムズ誌の東京支局長として活躍した敏腕ジャーナリスト 。 ラジオDJやMC、情報番組のプレゼンターなど、さまざまな分野で活躍し、自身のツイッターやインスタライブでコロナ問題について意見を発信するタレントのハリー杉山が寄稿した。

人の命は自分の命と思え

誰がこうなると思っただろうか。見えない敵、新型コロナウイルス。その尖った釘は、一本ずつ確実に自分、そして皆さんの身の回りに打ち込まれ、その音は躊躇なく玄関に近づいている。シャイニングのジャック・ニコルソンのように斧でドアを破壊し、容赦ない顔はいつ覗き込んでくるかわからない。でも聞こえるのは音だけだ。それほど自分は恐怖を感じている。

ただ眠らない街 東京、そして日本全国に私が持つ危機感をどれほどの人が共有できているのか? 街を歩く人々の表情は現実を受け止めず、失われた過去にしがみついているのか、根拠なき安心感に身を包もうとしているのか。緊急事態宣言の何が緊急なのか全く理解していないように見えてしまう。

単刀直入に言おう。我々は大戦以来の危機に陥っている。メルケル首相や各国の代表が言うように戦争である。生死の問題である。4月9日現在、全世界で150万人弱の感染者が報告され、8万6000人ほどの方々の命が奪われてしまった。父の母国であり、自分も育った英国ではこの数日、ヨーロッパ最高の致死率を記録しようとしている。

ただ数字を見ても生の声を聞かない限り、実感はできない。英国にて青春を共にした同級生たちを辿り、NHS (医療保険制度)の最前線で医療崩壊を目の当たりにしている医療従事者、感染者、その家族に私は話を聞いた。

人工呼吸器が足りない。ベッドが足りない。マスクがない。医療物資はどこだ。そう皆口ずさんだのは過去だそうだ。今は"人がいない"と彼らは言う。人とは医者、看護師、医療従事者のことである。政府がボランティアを募ったところ。素晴らしいことに56万人の応募があった。が、彼らは専門家ではない。一番必要なのは最前線で戦う医療従事者。その多くは感染し、ツイッターを開けるたびにまた一人命を失った医療従事者の写真を毎朝見かける。医療崩壊は残酷であり、一度始まったら修復するのには時間がかかってしまう。そして命が失われるペースは進んでしまう。

英国が外出禁止令を打ち出したのは3月23日。6650人の感染者に対して335人の死者。4月9日現在、60,733人の感染者、7097人の死者。完全なる医療崩壊。この感染速度と致死率を見ると英国にいる仲間、家族、恩人の顔が思い浮かぶ。そしてスマホが鳴るたびに自分は覚悟している。

さらにイタリア、スペイン、と同じように英国の医者は究極の決断を下さなくてはいけなくなった。誰を生かすかだ。生死を彷徨う患者の誰に人工呼吸器を渡すのか。誰に命を与え、誰を諦めるのか。医者は今後永遠とその十字架を背負うことになる。彼の気持ちをわかるだろうか? そして自分の大切な人がこの審判を受ける側になったとしたらあなたはどう思うだろうか?

この悲劇が今日本で起きようとしている。既に医療崩壊へのカウントダウンは始まっている。対岸の火事ではない。緊急事態に聞こえない緊急事態宣言が発表された4月7日、全国の感染者は4257人、死者81名。総理は2週間後に感染者を減少させたいと話されたが、期待はできるだろうか? 日本のICUのベッド数は10万人に対しておよそ5床、トータル1000床に満たない。壊滅的医療崩壊を経験しているイタリアでさえ10万人に対して12床ICUのベッドがあった。

4月9日国内感染者は4873人,死者105名。ただ数字以上に医療従事者にかかっている負担は厳しい。私が話した救急専門医、感染センターの看護師、広い分野で戦う医療従事者が話す言葉は、英国で3月末に外出禁止令が出された時の友の言葉と一致している。1週間に一度配布されるマスク、ウイルス性肺炎患者の増加、ベッドが足りない、新患者の門前払い、不安からの不眠。患者も大事だが、何としてでも我々市民は彼らのことを死守しなくてはいけない。経済と天秤にかけてる場合ではない。

極めて厳しい状況なのは確かだ。要請しかできないなか、覚悟を決めた、納得できる補償が発表されない限り、人の動きは止まらない。人が動かなければ、コロナに歩く足はないが、今はコロナに勢いを与えるガソリンを与える一方だ。止めることは我々一人一人が徹底的に人と会わず、一丸と対策を行わない限り、感染は広がる。パンク寸前の病院たちを守ることは厳しくなる。

日本はまだコロナを甘く見ている。その代償を払う前に理解するべきである。

無症状感染者が山ほどいると考えた方がいい。自分も無症状感染者と考えたほうがいい。自分のことを大切に思う人がいれば、街で通り過ぎる人も誰かが愛する人であることを忘れるな。長いシフトを終え、ふらつく医療従事者のことをお願いだから忘れるな。人の命は自分の命と思え。

時間がないのです。一人一人意識を最大限にすれば悲劇は逃れます。この異常事態を乗り越えた時の幸せを夢見て、共に頑張りましょう。

重い気持ちにさせて申し訳ないですが、これが現実。

80年ほど前に母国を守るために命を捧げ戦場に行った人々を思えば、家に残ることはできるでしょう。

次回は家で、今この時をどう楽しむべきか、を話したいと思います。

Good Luck.

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