MIYAVIという人間を知る者であれば、その決断には少なからぬ驚きを感じたはずだ。昨年末、突然LDH JAPANへの移籍を発表。日本をベースに世界で戦う道を選んだ理由とは?
「LDHに移籍したのはMIYAVIがMIYAVIらしくいるためであり、さらにブーストするため」
“サムライギタリスト”と呼ばれるのは、単に海外で活躍する日本人ギタリストだからではない。ある程度、成功が約束された日本の芸能界に敢えて背を向け、たったひとりで世界に挑む。そんな生き様は、“侍”のような矜持を感じさせる。
世界でカリスマ的人気を誇るギタリスト、MIYAVIがEXILE HIROが率いるLDHへの移籍を発表。日本のエンタテインメントのど真ん中と契約したことに違和感を持った人は多かったはずだ。
「みんな驚くだろうなとは思っていたけど、予想を超えたリアクションでした。MIYAVIがロックじゃなくなるのか、バックダンサーの前で演奏するのか、ついにはEXILEに入って踊るのかって反応まであった(笑)。勘違いしてほしくないのは、今回LDHと契約をしたのは、MIYAVIが変わったから、変わりたいからではないということ。むしろMIYAVIがMIYAVIでいるため、さらに自分の道を突き進んでいくためのブーストとして必要な決断だったんです。
移籍発表直後の昨年12月31日には、福岡ヤフオク!ドームで開かれた「LDH PERFECT YEAR 2020 COUNTDOWN LIVE 2019 ▶ 2020 "RISING"」にシークレットゲストとして出演。世界を驚かせたパワフルかつ超絶テクニックのギターを披露し、超満員の観客を熱狂させた。それはMIYAVIとLDHの融合が新たな化学反応を生んだ瞬間でもあった。
「独立して10年間、一匹狼として世界で戦ってきました。ボコボコにされたこともあったし、立ち直れないくらい傷ついたこともありました。それでも何度でも立ち上がって戦っているうちにそれなりに力がついて、自分なりの武器も手に入れることができた。今なら飛んできた弾丸を斬り落とすこともできるし、戦車も斬ることができます。でも世界はとにかくデカい。戦車を1台やっつけて顔をあげたら、そこにはまだまだ無数の戦車がいた(笑)。これは刀1本で戦うのはしんどいなと。ひとりで戦わなければならないのか。そもそも戦わなければならないのか……そんなことを考えた時、今の自分には仲間が必要だと思ったんです」
これまでも大手事務所からオファーはあった。そんななかからLDHを選んだ最大の理由はHIROの存在だった。
「HIROさんとは以前から面識があって、いろんな話をしてきました。HIROさんが日本でダンスカルチャーを普及させるために果たしてきた役割はすごく大きいと思っています。自分で汗をかいて築き上げてきたその功績と情熱を心からリスペクトしています。そしてHIROさんは自分にないものを持っていた。それはリーダーとして仲間を率いていること。時には自分を犠牲にしてでも仲間のことを守る。そういう組織としての戦い方は、日本っぽいのかもしれないけど、HIROさんが作り上げたLDHという組織は、決して閉鎖的ではなく風通しもいいんです」
2019年12月18日、移籍会見の場に駆けつけたEXILE AKIRA。「MIYAVIさんが入ったことで、LDHはさらに進化、覚醒するはず」とコメント。
MIYAVIはHIROを「熱く、そしておおらかなリーダー」だと語る。
「僕が通じる部分を感じたのは、カッコよくなくていい、どろんこでもいい、熱くなっていいという、古臭さ、人間臭さも持っているところ。HIROさんが後ろにいてくれれば、僕は前を向いたまま戦える。リーダーとして仲間をまとめて、大きな力に変えていくのを近くで見て、自分もその姿勢を少しでも学びたいという気持ちもあります」
世界に挑むことをやめるつもりはない。
「LDHと関わりがある映画プロデューサーの野村祐人さん、LDHに所属しているm-floのVERBALさんらは日本と世界の温度差を知りつつ、そこを自由に行き来できる稀有な存在。こういう人たちとの関係性は、HIROさんが本気で日本のカルチャーを世界に届けようとしているということの表れだと思うんです。しかもLDHはエンタテインメントに限らず、飲食やアパレル、教育や農業にも挑戦している。何にでもチャレンジできる空気があるのもHIROさんの器があってこそだと思います。世界ではアジアンカルチャーが注目されていて、中国や韓国は世界を視野に国ぐるみの活動をしている。でも日本では、そういう思考で経営をしている人はほとんどいない。LDHみたいな組織は稀です。柔軟性があってチャレンジスピリットがある。未来の可能性を感じさせるまさに次世代型の会社。ここでならMIYAVIをさらに輝かせることができるんじゃないかと思ったんです」
「2020年、世界で一番HOTな東京にいることは面白い。ここから世界と対峙して、日本の音楽を変えていきたい」
昨夏からMIYAVIはベースを日本に移し、愛する妻や娘たちとともに10年ぶりに日本で生活している。
「正直、日本は居心地がよすぎるから、今までなるべく帰ってこないようにしていたんです。贅沢なことなんですけど、とにかく海外にいて、海外で爪痕を残すことにこだわってきた。でも2020年はオリンピックがあります。世界が日本に注目し、世界からたくさんの人がやってくる。東京は間違いなく世界で一番HOTな街になる。その1年を日本で過ごすのも面白いと思いました。娘たちにも2020年の日本を見せておきたいなと」
ミュージシャンとしてはもちろん、俳優として、そして’17年からは日本人初の国連難民高等弁務官事務所の親善大使としても活動するMIYAVI。仲間という新たな武器を手に入れ、さらに自らを加速させる。
「とはいっても僕自身はワールドツアーを続けますし、海外と行ったり来たりの生活になります。日本人として育ってきた僕は、たとえ世界のどこにいたとしても、日本人として世界と対峙して、日本と世界のためになることをやっていく。それが自分の使命だと思っています。この国の音楽ももっと変えていくことができると思っているし、そこに自分の役割もあるはず」
異質なものの組み合わせだからこそ、そこに強さが生まれる。
LDHとの融合をMIYAVIは“超合金”と呼ぶ。
「LDHにおんぶにだっこになるつもりはありません。僕も会社に与えられるものがあると思うし、自分が引っ張っていくくらいの気持ちでやるつもりです。今、会社のいろんな部門の人と毎日のようにミーティングをしながら、自分がここで何ができるのかを考えています。HIROさんは僕に『この会社を思う存分使いこなしてほしい』と言ってくれました。僕にとっては超合金のロボットアームを手に入れたような感じ(笑)。これからのMIYAVIはもっとエキサイティングになりますよ。今はワクワクしかしていません」
ふたつの異なる熱が出合い、火がともった。その火が大きな炎となって燃え盛るのは、遠い未来ではないだろう。
MIYAVI
1981年生まれ、大阪府出身。バンド活動を経て、2002年からソロ活動を開始。’09年に渡米、世界中でライブを開催し、そのパワフルなプレイ、超絶テクニックでカリスマ的人気を勝ち取る。’14年には友人でもあるアンジェリーナ・ジョリー監督の『不屈の男 アンブロークン』で俳優デビュー。’17年、日本人初の国連難民高等弁務官事務所の親善大使に就任し、活動を行う。