Passionable(常熱体質)とは、Passionとableを組み合わせた造語。仕事や遊びなど、あらゆることに対して常に情熱・熱狂を保ち続けられる=”常熱体質”である。今回は、細川幽斎をキーパーソンに「脳と運動の相関」について、脳科学の視点から解き明かす。
Key person:細川幽斎
運動が脳の前頭前野の働きを活性化し、記憶力や判断力を向上させるという最近の学説の影響か、ジョギングやウエイトトレーニングを始めるビジネスパーソンが増えているそうです。
筋肉と脳の働きには、もちろん相関があります。最新の脳科学が筋肉と脳の関係を次々に解明していますが、日本の武将たちにとってそれは常識だったようです。黒田官兵衛も唱えていた文武両道という言葉が何よりの証拠。高い知性と強靱な肉体を兼ね備えることが、当時のエリートの条件だったわけです。
肉体自慢の戦国武将は数多あれど、やはり白眉は路上で暴走した牛の角を摑んで投げ飛ばしたという逸話のある、細川幽斎でしょう。本名は藤孝。豊前小倉藩初代、細川忠興の父親。第七十九代内閣総理大臣細川護煕氏の、直系のご先祖です。
幽斎といえば古今伝授を受けた当代一の歌人、連歌や茶道を極めた文化人というイメージがありますが、武術家としても超一流。剣術の師は塚原卜伝、弓術も馬術も印可を受けた武芸百般の人でもありました。
武将としての彼を特徴づけるのは、非凡なまでの政治的な嗅覚と決断力です。彼ほど怜悧に時代の先を読み切った人はいません。彼は足利義輝の時代から義昭、信長、秀吉、家康と、変転する政権の中枢に居続け、一度も失脚していない。驚くべきことです。生死を分ける大博打を繰り返し、そのすべてに勝ち残り、いつしか細川家が味方につけば政権は安泰とまでに言われるにいたりました。本能寺の変後の身の処し方など、ほとんど名人芸の域に達しています。
彼の鋭い政治的嗅覚や決断力は、肉体の鍛錬の賜物に違いありません。一族郎党から家臣まで何百人の命運を賭けた究極の選択は、机上の思索だけでできるものではない。日々の鍛錬で養った胆力と強靱な身体が彼の決断の確かさを支えていたのだと私は考えています。
脳のパフォーマンスを限界まで引き出すのは肉体の力なのです。仕事で煮詰まったら、身体を動かしましょう。幽斎も悩んだ時は、剣を振ったに違いありません。俺はまだ本気出していないという人は、成功本など読むより、一度は身体を鍛えてみることをお薦めします。
中野信子
脳科学者。1975年東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了フランス国立研究所にて博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学特任教授。脳や心理学をテーマに、研究や執筆を精力的に行う。著書に『サイコパス』、『脳内麻薬』など。『シャーデンフロイデ』(幻冬舎新書)が好評発売中。新刊『戦国武将の精神分析』(宝島社)が話題になっている。