Passionable(常熱体質)とは、Passionとableを組み合わせた造語。仕事や遊びなど、あらゆることに対して常に情熱・熱狂を保ち続けられる=”常熱体質”である。今回は、織田信長をキーパーソンに「サイコパスの持つ力」について、脳科学の視点から解き明かす。
Key person:織田信長
「サイコパス」と聞くと一般的に、映画などに登場する残虐で冷酷な殺人鬼といった異常者をイメージしがちです。確かに凶悪な犯罪者たちにはサイコパスが多いことも事実。しかし、ビジネスで成功を収め社会的地位が高い人たちもまた、サイコパスである可能性があるのです。
彼らは良心や共感性が欠如しているので、他者の痛みや苦しみを理解することがありません。しかしその一方、リスクへの不安も感じないので、プレッシャーにさらされても極めて冷静な判断を下し行動することができる。
企業のCEOなど組織のリーダーは時に、非情な判断や意思決定を迫られます。その際、情に流されて論理的な思考力を失ってしまうようでは優れたリーダーということはできません。それを考えればサイコパスが経営者として成功するのも納得ができますし、サイコパスであることが必ずしも悪いこととは限らないのかもしれない。また、閉塞感のある社会においてはそんな彼らが、世界を変える存在となることもあるのです。
あくまで個人的な見解ですが、日本の歴史上では織田信長がその典型といえそうです。
信長は極めて独裁的、冷徹非情な人物で、部下や周りの人間に対しても酷薄であったとされていますが、旧態依然とした秩序には果敢に挑み、それを打破しようとしました。「天下布武」という目標を定め、その実現のためには手段を選ばない。超合理主義ともいえる考えを持ち、比叡山の焼き討ちにみられるように敵対する勢力には相手が誰であろうが容赦はしませんでした。また、楽市・楽座の徹底や南蛮貿易の奨励、鉄砲を活用した戦術の考案など、当時としては画期的なアイデアを次々と実行。新しい世界への明確なビジョンを迅速に政策としてカタチにしていったのです。
ネガティブな印象の強いサイコパスですが、強靭な精神力や冷酷な性格、リスクを恐れない行動力など、リーダーとして必要な能力とサイコパスの長所は重なるものも多い。天才的なイノベーターであった織田信長は、自身がサイコパスであることをうまく利用し、歴史に名を残した好例といえるでしょう。
中野信子
脳科学者。1975年東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了フランス国立研究所にて博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学特任教授。脳や心理学をテーマに、研究や執筆を精力的に行う。著書に『サイコパス』、『脳内麻薬』など。『シャーデンフロイデ』(幻冬舎新書)が好評発売中。新刊『戦国武将の精神分析』(宝島社)が話題になっている。