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2018.03.01

【松浦勝人】才能はすぐ近くにある

素人目線

チャンスもヒントも与えずにあきらめてはいないか

全部、夢だったのではないかと思うことがある。僕が生きているこの人生は、長い夢にすぎず、突然叩き起こされると、僕はベッドの中にいて、ごく平凡な本当の一日が始まる。最近そんな空想をすることがある。

普通の人生では味わえないような楽しいことを経験してきた。普通の人生ではありえない辛い目にもあってきた。その振り幅が大きすぎて、とても現実の人生だとは思えない。

僕が夢のなかにいるのだとしたら、今は、決してよい夢とは言えない。以前であれば、CDを売って話題を作って、ツアーをやって、グッズを販売するという「サイクル」が確立していた。でも今、CDが売れなくなった。CDが売れないと、ツアーをやってもお客さんはどうしても集まりにくい。ツアーにお客さんが集まらないと、グッズの売り上げは伸びない。「サイクル」の根幹が崩れてしまった。このままだと、音楽業界はジリ貧になっていく。

昔は、タイアップをとって、CMスポットを打って、歌番組に出て、ラジオで曲を流して、という「ヒットの方程式」と呼ばれるものがあった。でも今はそれだけでは通用しない。

どうすればそういう方程式ができるのか。今、日本だけでなく、世界中が新たな方程式を探している。

だけどある日、ある社員が面白いことを言った。「最近の音楽業界って、すぐにあきらめてしまうんですよね」と。彼は、浜崎あゆみ、小室哲哉さん、倖田來未が時代の色を塗り替えていっていた頃を知っている。「過去の売れる方程式にのっとっていろいろやってみるんですけど、結果がでないと、すぐにあきらめてしまう」と。そこが問題なのだと言う。

僕たちがエイベックスをつくった時、ダンスミュージックについては詳しかったけど、音楽業界については何も知らない素人集団だった。音楽の売り方なんか誰もわからない。方程式も何もなくて、とにかくありとあらゆることをやってみる。だって、それしかなかったから。気合いと根性と覚悟。僕たちにはそれしかなかった。毎日「やり残した穴はないか、まだできることはないのか」そればかり考えていた。

ありとあらゆることを、がむしゃらにやって、それでたまたまヒットが出た。ヒットには、それぞれに要因がある。それを後から分析して、集計してみると「こういうやり方がヒットの要因になっていたことが、たまたま多かった」ということがわかってくる。これを勝手に後づけで「ヒットの方程式」と呼んでいたのは僕らだった。だから、そのとおりやれば必ずヒットが出るという方程式なんかそもそも存在しなかった。唯一の方法は「全部やる」。気合いと根性と覚悟で「あきらめない」。それしかなかった。

エイベックスの急成長を褒められた時、僕はいつも「まぐれです。偶然です」と答えてきた。それは謙遜ではなく、僕自身本当にそう思っていた。だって、最初の上大岡の店は、13坪の狭い店だったのに、そこからどれだけたくさんの才能が生まれたか。これは偶然でしかありえないと思っていた。

一緒に店をやった林真司と小林敏雄は、後にエイベックスの役員となって重要な仕事をする。アルバイトとして働いていた星野靖彦は、後にジュリアナ東京を象徴する曲になった「Can’t Undo This!!」や浜崎あゆみのヒット曲を書く。同じくアルバイトだった五十嵐充は、後にEvery Little Thingのメンバーとして大成功する。挙げ句の果てに、熱心にレコードを借りに来ていたお客の高校生が、後のEXILEのHIRO。LDHの役員たちは、ほとんどが僕の高校の後輩で、HIROの同級生。あんな小さな店に、これだけの才能がたまたま集まっていたなんて、現実にはあるわけがない。偶然にもほどがある。

大学3年生の時、横浜市港南台にあった貸しレコード屋でアルバイトをしたことから、僕のビジネス人生が始まる。オーナーは、音楽のことは詳しくなかったし、店もうまくいっていなかった。そこへ僕がバイトとして入ってきた。

当時の僕は、ちょっと音楽に詳しい大学生でしかない。でも、オーナーは僕の話をものすごく真剣に聞く。僕の目をじっと見つめて、僕の話に目を輝かせていく。そして「君の思ったとおりに店をやっていい」とすべてを任せてくれた。僕たちは店の売り上げを上げるために、思いつく方法をすべて実行した。ヘトヘトになって夜中、風呂の中で「なんで、他人の店のためにこんなに一生懸命になっているんだろう」と不思議な気持ちになった。でもそれは、オーナーが何もない大学生にチャンスを与えてくれたからだと今になって思う。それから30年、僕は人が授けてくれたヒントを心に刻みこみ、もらったチャンスをひとつも無駄にすることなく積み重ねてきた。そこはまぐれでも偶然でもない。

何かの才能を持っている人は、僕たちが思っているよりもたくさんいる。でも才能を発揮するチャンスに恵まれず、才能を無駄にして、「自分には何もない」とあきらめてしまっている人が多すぎる。

13坪の小さな店から、なぜこのようなたくさんの才能が出てきたのか。それは、僕がオーナーにしてもらったように、彼らの話を真剣に聞いて、彼らにチャンスを用意したからだと思う。

僕たちの仕事は、才能を見つけて、話をよく聞いて、チャンスを与え、ヒントを授け、その人の才能を開花させること。そのためには、やれることは全部やる。あきらめない。気合いと根性と覚悟。

才能は、どこかではなく、自分の近くにある。それを見逃すな。与えられたチャンスは、ひとつも無駄にするな。結果が出なくても、結果が出るまであきらめるな。その簡単でもあり、難しいことを気合いと根性と覚悟でやり抜いた者だけが、夢の続きを見ることができる 。

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