いつもクールでスマートな男が、勝負の場になるとその表情を一変させる──。サイバーエージェント代表取締役社長・藤田晋氏は、今、麻雀に夢中だ。時代を動かし続ける男が「ビジネスにも通じる」麻雀の魅力を語る。
賭けるのは金ではなく、己のプライド
麻雀を打つ時は、黒の服と決めているのだという。理由をたずねると「勝負強そうに見せたいから」と笑うが、その目は真剣そのもの。サイバーエージェントの藤田晋社長は今、麻雀に本気で取り組んでいる。
「学生時代から自分は麻雀が得意だと思っていて、雀荘に通ったりもしていたんです。その後、社会人になって会社を立ち上げたりしている間は、さすがに打つ時間はありませんでしたが、2014年にプロ・アマ参加のオープントーナメント『麻雀最強戦』に参加して優勝したんです。それをきっかけにもう一度麻雀の勉強をしなおしました」
麻雀といえば、オジさんの娯楽。阿佐田哲也の『麻雀放浪記』に記されたような街場のギャンブルといったイメージがあるが、藤田氏いわく、最近若い世代にも静かなブームが起こりつつあるのだという。サイバーエージェントが手がけるインターネットテレビ「AbemaTV」では、麻雀番組がキラーコンテンツになっているとか。
「正直、人気が出るとは思っていなかったんですが、現在かなりの数のファンがついています。麻雀の競技人口はゴルフと変わらないくらいいるんです。自分の趣味が番組に役立つなんて思ってもみませんでした」
藤田氏が取り組んでいるのは、まるでスポーツのような"競技麻雀"。賭けるのは金ではなく、己のプライドだ。
「ギャンブルなら負けても金を払えば終わり。でもプライドを賭けて戦っているから、1ポイントたりとも失いたくない。全神経を集中して打つから、長時間は無理。集中力がもつのは、長くても4時間くらい。麻雀をしたあとは、疲れ切って逆に眠れないほど。徹夜麻雀なんて絶対にできませんよ」
麻雀には人間性が出る、麻雀は会社経営に似ている
タイトル戦なども含めると、年100戦。もはやプロ野球の選手並みに麻雀をしているといえば、その真剣さが伝わるだろうか。実戦だけではない。暇な時間があれば、麻雀関連の書籍を読むなど、技術の研究に費やしているという。
「3年前の最強戦は、勢いで勝った感じでした。でもあの頃に比べたら今の僕のほうが圧倒的に強い。地力がついたという実感があります」
麻雀には人間性が出る、麻雀は会社経営に似ているといったことは、よく聞く話だ。
麻雀には人間性が出る、麻雀は会社経営に似ているといったことは、よく聞く話だ。
「実際、そのとおりだと思いますよ。麻雀は運だけでも技術だけでも勝てない。配られる牌は不平等。そこからどうやって勝負していくか。ひとつ挙げるとしたら、重要なのは高い視点から勝負どころを見極めながら、我慢すべきときは我慢し、ここだと思ったら度胸を見せる胆力。会社経営にたとえるなら、企画と営業と経理と技術職をひとりで全部受け持つような感じですかね。そうなるとやっぱり経営者ってことになるのかな(笑)」
普段は穏やかな印象の藤田氏だが、麻雀の話になると明らかに顔が変わる。真っ直ぐに相手を射抜くような勝負師の目だ。
ビジネスは団体競技。麻雀は個人競技
「ビジネスも楽しいですけど、会社が大きくなると自分ひとりではない団体競技。でも麻雀は完全な個人競技です。だから夢中になれる。プロと合宿したりもするんですが、強い人と寝食を忘れて麻雀をするのは最高。女遊びしたり、変な買い物をしたりすることもないから、むしろ健全なんじゃないかな(笑)」
現在はタイトルを目指して精進中。"団体戦"で勝ち続ける男は、"個人戦"でも望む結果を手に入れられるのだろうか?