2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。
寒空の下で泥に入って加賀れんこんの収穫を体験!
金沢市北部の湖南町(こなんまち)は、干拓によって生まれた土地だ。ここの広大な平地で栽培されているのが加賀れんこん。川端崇文さんは2006年、28歳で脱サラし就農。現在計9000坪でれんこんの栽培に取り組んでいる。
「たまに米作りの手伝いをしていたくらいで、れんこん栽培はまったくの未経験。農家の方に弟子入りするところからのスタートでした。やっぱり安心して食べてもらいたいから、農薬や化学肥料は使わず、土の力でおいしいれんこんを育てたいと思っています。人間の体もそうじゃないですか。サプリで栄養をとるのではなく、ちゃんとごはんを食べたほうが健康的だと思いませんか」(川端さん)
加賀れんこんの特長は、節間が詰まっていて肉厚なこと。もっちりとした粘り気とシャキシャキの食感が食欲を増進させる。もともとは前田家がお堀のまわりに観賞用として蓮を植えていたそうだが、その後中国から食用の蓮が持ち込まれ、この地で栽培されるようになったという。
「このあたりではすりおろしてから蒸してあんをかけて食べる『はす蒸し』にすることが多いですね。れんこんは春に植えて8月から収穫が始まります。夏場の新しいれんこんは、梨のような甘みがあります。収穫は冬をまたいで5月まで続きますが、寒くなるにつれて糖分がでんぷんに変わり、粘り気が増していきます。天ぷらやきんぴらなどなんでもおいしく食べることができますね」(川端さん)
訪ねたのは、11月初旬。すでに冷たい風が吹き付けている。そんななか川端さんは、水を満々とたたえた畑に入って収穫をする。水の上の葉はほぼ枯れているように見えるが、土中にはたくさんのれんこんが埋まっている。ホースから噴出する水で土の中に埋もれた長さ1メートル以上あるれんこんを探り出し、折らないように慎重に持ち上げるのだが、水の噴出で泥が舞い上がるため、水中の様子はまったく見えない。勘と手の感触だけが頼りだ。
「収穫の作業は午前2〜3時からスタートします。冬場は雪もふりますし、畑が凍りついていることも珍しくありません。そういうときは、氷をバリバリ割りながら作業することになります」(川端さん)
中田英寿も全身を覆うゴムの作業着をまとって、収穫にチャレンジ。水深はひざくらいだが、しゃがみこまないと収穫はできない。泥の中では動きがままならないうえ、土中のれんこんを手探りで掘り出す作業はそう簡単ではないようだ。
「本当に手探りだけがたよりなんですね。やっと見つけたと思っても、どこが根本なのかわからない。折らないように持ち上げるのもかなり難しいですね」(中田)
ホースで泥をかきわけ、泥の中を探り続ける。ようやく掘り出したれんこんは、小ぶりながら丸々としていて実に美味しそうだ。
「食べたあとに『なつかしい味がする』といわれるとうれしいですね。寒いなかで土中保存されたれんこんはしっかりとした旨味があるんです」(川端さん)
川端さんは、薄く切って素揚げした「加賀れんこんちっぷ」や小麦粉や米粉のように使える「加賀れんこんパウダー」など加工品の販売にも力を入れている。特に、川端さんのれんこんチップは皮のままスライスしているので風味が残っていて、手でスライスしているので機械で均一にスライスされたものより味わいがあって美味しい。
「に・ほ・ん・も・の」とは
中田英寿が全国を旅して出会った、日本の本物とその作り手を紹介し、多くの人に知ってもらうきっかけをつくるメディア。食・宿・伝統など日本の誇れる文化を、日本語と英語で世界中に発信している。2018年には書籍化され、この本も英語・繁体語に翻訳。さらに簡体語・タイ語版も出版される予定だ。
https://nihonmono.jp/