2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。
首都圏外郭放水路
中田英寿のリサーチは抜かりがない。7月初旬の埼玉の旅に備えて、「(海外からの)帰りの飛行機で『翔んで埼玉』を観てきた」というから驚く。この旅では、埼玉のようにいかにも観光地がなさそうなところほど、訪ねてみるとおもしろいという傾向がある。そういう土地ほど"意外"な"知る人ぞ知る"スポットが隠れているのだ。
旅の初っ端、埼玉の底力を教えてくれたのが、春日部市の首都圏外郭放水路だった。外から見ると、ただの江戸川沿いの建物のしかすぎないが、実はその地下約50メートルには延長6.3kmの放水路が隠されている。かつて大雨のたびに洪水を起こしていたという地域に造られたこの施設は、突然の豪雨などで溢れそうになった中小河川の水、最大約67万㎥を地下に取りこみ、江戸川に放出するための防災用の地下貯水プールだ。
「『翔んで埼玉』のなかの集会シーンでも使われています。最近、施設内の見学ツアーを始めたんですが、結構人気になっています」(首都圏外郭放水路管理支所 高橋支所長)
長い階段を降りると、そこに広がるのは無数の円柱が並ぶ広大な空間。ここが全長177m、幅78m、高さ18mの巨大調圧水槽、通称"地下神殿"だ。今回のように水がないときには、特撮映画の戦闘シーンの撮影などによく使われるのだという。多少の湿度はあるが、下水的な匂いはまるでない。外は蒸し暑かったが、地下のこの空間はひんやりとして気持ちいい。このような空間、景色は、他にはない。
「ライブやイベントをやってもおもしろいでしょうね。照明デザイナーに頼んでライトアップにこだわったらもっとカッコいいかもしれない。今回はまったく水が入っていない状態でしたが、水が入っているところ、施設が稼働しているところも見てみたいですね。今日これから水が入りますというのがわかれば、それを見に集まってくる人たちもいると思います」
ダムや工場、廃墟でも観光客が集まる時代だ。確かにSNS映えも抜群のこの施設は、PR次第でもっと人気が出そう。埼玉、侮るべからず。まだまだおもしろいスポットが隠れていそうだ。