お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営し、新刊『未来のお金の稼ぎ方』を出版した起業家、児玉隆洋氏が「未来のお金」についてさまざまな分野の賢人たちに問う対談シリーズ。対話から見える、お金、経営、事業で成長するために持つべき視点とは――。前編はこちら
成功する人は皆、柔軟性がある
500社以上の企業を上場させ、特にIT業界の経営者で知らぬ者はいないとされる元大和証券エグゼクティブアドバイザーで、Major7th代表取締役の丸尾浩一氏。スタートアップから、超大手企業まで「経営者」を知り尽くすのIPO(新規上場株式)のプロに、金融教育の起業家がこれから成長していくために持つべきものを尋ねた。
児玉 今は非常に変化の激しい時代です。自分はIT出身ですが、今ほどテクノロジーの進化するスピードが速い時代は過去にありません。Web3、メタバースとネットに地殻変動が始まっており、ビジネスも暮らしもこれから影響を受けるのは必須。丸尾さんはこれまでもこうした時代の変化を何度も経験されていらっしゃると思いますが、ここを乗り越えて成長していく経営者には、どんな力があるのでしょうか。
丸尾 変化する時代は、経営者の柔軟性が試されます。信念をぶらさないことは大事ですが、時代は変わるので、ひとつのビジネスモデルで一生やっていくのは不可能。どれほどいいアイデアでもグロースしてこないなら、柔軟に変えていく。頑固にこだわるより、時代に合うものを作り出していく企業が生き抜けます。たとえば児玉さんが在籍されていたサイバーエージェントがそうですね。
児玉 たしかにサイバーエージェントはもともとインターネット広告の会社で、そこからブログサービスやゲームに事業を広げて、今はテレビ局も作っています。まさに柔軟性が成長を支えている企業ですよね。
丸尾 加えていうなら、創業者が変わってもそれができる企業が本当にすごい企業。代表的なのがソニーです。ソニーは有名な企業家を何人も輩出してきましたが、時代に合わせてビジネスモデルを変えることで、その都度ソニーを成長させてきた。そうして生き残り続ける会社が、株式市場においても「エクセレント」になっていくのです。
児玉 自分たちも今、これまでやってこなかった初心者向けの金融教育動画アプリを開発中ですが、ひとつできたら終わりではなく、時代に合うソリューションを作り続けないといけないですね。ちなみに「ABCash」の受講生は女性が圧倒的に多いのですが、この金融教育動画アプリは男性も使えるようになります。
丸尾 変わるトレンドをいかに早くキャッチできるかです。私は音楽が好きで、時代をよくヒットチャートに例えるのですが、時代によって売れる曲のテイストは変わります。たとえば日本のロックは、ある時からオレンジレンジやケツメイシのように、ラップをミックスしたものが流行りだしました。往年のロックファンはそんなの受け入れられないと嘆きましたが、売れているものがその時代のいいものなんです。そこをとらえることが、ビジネスの勘として非常に大事。売れるからこそ多くの人に届き、企業の利潤が増えるわけですから。
児玉 なるほど。ヒットチャートはわかりやすいです。時代が変わったのなら、昨日までと違うことを言ってもいいわけですか。
丸尾 それでいいんです。優秀な経営者ほどそれまでのスタイルをあっさりやめて、「もう時代が変わったからこっちでいく」と、変化することを恐れません。変わり身が早いので、「言っていることがこの前と違う」こともよくあります。
大胆に変わらないと日本の未来が危ない
児玉 たしかに、10年後には今とぜんぜん違うヒットチャートになっているのに、今と同じ曲をやっても仕方ないですよね。予測する力はどうすればつけられるのでしょうか。
丸尾 それこそWeb3、メタバースが今後どうなるか。全員がそっちに行く必要はありませんが、動きとしては見ておき、次に打つ手を考えることです。「風が吹けば桶屋が儲かる」「金を掘りにいけばリーバイスが儲かる」と言われるように、株やビジネスは連想ゲーム。普段から情報にふれるだけでなく、空気を読んで次はどうなるかを考える。そして、人より先に仕掛ける力を持つことが、次のヒットチャートを作る力につながることは間違いありません。
児玉 とはいえ、スタートアップはともかく、大企業はビジネスモデルを大胆に変えていくのが苦手なように思います。
丸尾 変わらないと困るんです。今、日本でいちばん大きなビジネスは自動車。戦後、トヨタが大きく成長して外貨を稼いでくれたから、日本は成長できました。それこそ、世界の覇者が日本にいたわけです。しかし、ヒットチャートが変わり、今はEVが台頭しています。では他にグローバルに戦えるものが日本にあるかというと、これが見当たらない。もし、自動車で負けたら日本は外貨を稼げるものがなくなってしまうんです。
児玉 ITが出遅れてしまったのが大きいですよね。日本はモノづくりが上手くいったからこそ、そこに固執してしまい、テクノロジーに遅れを取ってしまった面があるのが痛い。
丸尾 まさに。アメリカは自動車に代わってITが稼いでいますが、日本のITはまだグローバルではありません。日本はもうすぐ大きな転換点を迎えます。急いで世界に通用するなにかを作らないと外貨を稼げず、豊かにはなれなくなる。そこが心配です。大企業はもちろん、これから起業するなら、グローバルで通用するビジネスを作る目線を持ってほしいですね。そのために英語はもちろん、金融リテラシーが必須だと思います。
KOICHI MARUO
大阪府生まれ。新卒で大和証券に入社し、事業法人第七部長、事業法人担当などを経て2012年より常務執行役員、2015年より専務取締役を歴任。2021年4月より同社初となるエグゼクティブアドバイザーに就任。大和証券在籍中、500社以上のIPOを手掛ける。2021年5月、Major7thを設立し、代表取締役に就任。現在に至る。
TAKAHIRO KODAMA
ABCash Technologies代表取締役社長。2007年、サイバーエージェントに新卒入社し、AmebaBlog事業部長、AbemaTV局長などを歴任。2018年、日本の金融教育の遅れ・お金の情報の非対称性に大きな課題を感じ、ABCash Technologiesを設立。趣味はサーフィン。