GOLF

2023.04.04

一気に才能を開花させた26歳、マスターズ昨年王者スコッティ・シェフラーとは

開催を控えた2023年マスターズ。高校時代から注目を集め「テキサスの天才児」と呼ばれていた、昨年のマスターズ覇者スコッティ・シェフラーに迫る。また、アプローチ法を吉田洋一郎が伝授。

弱気な一面も克服し、世界ランク1位へ

昨年のマスターズ王者、スコッティ・シェフラーの活躍が今シーズンも続いている。2022年2月にWMフェニックスオープンでプレーオフの末に初優勝を果たした後、翌月のアーノルド・パーマー招待とWGC-デルテクノロジーズ・マッチプレーでも勝利し、あっという間に世界ランキング1位となった。

シェフラーの快進撃は止まらず、初優勝から約2ヵ月後のマスターズでメジャー初制覇を果たす。今シーズンも好調を維持し、WMフェニックスオープンで連覇を達成すると、第5のメジャーと呼ばれるザ・プレーヤーズ選手権を制し今季2勝を挙げた。

ジョン・ラームやローリー・マキロイに世界ランク1位の座を明け渡した時期があったものの、3月に入り再び世界1位を奪還し、4月に行われるマスターズの連覇に挑む。

シェフラーは母親の仕事の都合で6歳の時にゴルフの盛んなテキサス州ダラスに転居し、間もなくゴルフを始めたという。高校時代から注目を集め「テキサスの天才児」と呼ばれ、ハイランドパーク高校では2013年の全米ジュニアを制覇する。

その後、ゴルフの名門テキサス大学に進学し、新人王や2017年の全米オープンローアマチュアなどを獲得し、エリートアマチュアとして名を馳せていた。テキサス州生まれで同じテキサス大学出身、3歳年上のジョーダン・スピースとはジュニア時代からの付き合いで、テキサス大学進学を勧めたのもスピースだったそうだ。今も若くしてトッププロとなったスピースのプレーぶりや、その立ち居振る舞いに勇気づけられていると語ったこともある。

まさにエリート街道を歩んできたシェフラーだが、プロ転向後は上位争いをするものの、なかなか優勝には手が届かず、殻を破ることができなかった。しかし、昨年のWMフェニックスオープンで1勝を挙げたのを機に2ヵ月間で4勝を挙げ、破竹の勢いで世界ランク1位まで駆け上がり、メジャーも制して一流選手の仲間入りをした。

かつての天才児がようやく才能を開花させた瞬間だった。

世界一の座を奪還したシェフラーは、実年齢の26歳よりも落ち着いた風貌ということもあり常に冷静でいるように見えるが、実は弱気な一面を見せることもある。

昨年のマスターズ最終日を首位で迎えた朝、彼は妻の前で赤ん坊のように泣きじゃくったという。プレッシャーからか、気持ちの準備が整わないと涙を流すシェフラーに、妻のメレディスさんは「結果は神様が決めること、あなたが心配することじゃないわ」と慰め、彼も「今日が自分の日ならそのような結果が出るだろうし、82を打てばそれは神様の思し召し」と考えて落ち着くことができたという。

ランディ・スミスの指導で独特なスイングを完成

シェフラーは190センチ、91キロという恵まれた体格で手足も長い。いかにも飛ばしそうな体つきで、実際に平均飛距離は300ヤードを超えている。スイングはトップの位置が高く、フェースも開き気味なのが特徴だ。

足の使い方も独特で、ダウンスイングからインパクトにかけて右足を背中側に引くような動きをする。シェフラーと世界ランク1位を競うラームは「右足をスライドさせる動きは、グレッグ・ノーマンに似ている」と評している。

シェフラーは7歳の頃から名コーチ、ランディ・スミスの指導を受けていることでも知られている。スミスといえば、選手の特徴を生かした指導がポリシーで、型にはめるようレッスンは行わない。PGAツアーの主流とは違った個性的なスイングを完成させたのも、スミスの手腕に寄るところが大きいはずだ。

また、シェフラーはショートゲームのうまさにも定評がある。バッバ・ワトソンも試合後、「私がすごいと思うのは、彼のショートゲーム」と舌を巻いたことがある。スミスも「ショートゲームが非常に独創的で、ゲームのバランスがいい」と絶賛する。特にランニングアプローチが得意で、マスターズを制覇した時もランニングアプローチを駆使してコースを攻略していた。

キャリーとランの割合を考えてクラブを選択する

ツアープロのアプローチといえば、ふわりと上げてグリーン上に止めたり、バックスピンをかけたりと高度な技を思い浮かべるかもしれないが、プロの場合もボールを転がすランニングアプローチが最も安全で確率の高い寄せ方だ。

その意味ではシェフラーのアプローチは基本に忠実だと言えるかもしれない。この点はアマチュアゴルファーも参考にすべきだろう。

ただし、ランニングアプローチが確実な寄せ方だと言っても基本的な知識や技術がなければうまくいかない。そこで今回はランニングアプローチの基本を紹介しよう。

ランニングアプローチにおいて重要になるのは、まずクラブの選択だ。クラブは9番、8番アイアンなどロフトの立ったクラブを選ぶ。アイアンを使えば、ウエッジのように開いたフェースにボールを乗せる技術は必要なく、フェース面でボールをとらえればいいため大きなミスを防げる。

問題は距離感だが、これは練習でしっかり感覚を身に付けるとともに、クラブごとのキャリーとランの割合も覚えておくといいだろう。通常、アプローチウエッジは1対1、ピッチングウエッジで1対2、9番アイアンは1対3、8番アイアンで1対4となっている。その割合を念頭に、番手ごとのキャリーとランを確認しながら練習をしておくことが大切だ。

ランニングアプローチの構えは、再現性を高めるために動かす部分を少なくし、コンパクトに構えることが大事だ。広いスタンスを取ってしまうと振り幅が大きくなりがちになるので、スタンスを肩幅より狭くする。

ボールを右に置いてロフトを立てて低く転がそうとする人がいるが、クラブのロフトが立っているので、ボール位置は左足のかかとの延長線上に置けば十分ボールは転がる。手の位置は左足の内側あたりにセットすることで、自然と若干のハンドファーストになる。体重はフォロースルーをとりやすくするために7割程度左足にかけるといいだろう。

打ち方はパットと同じ要領で、振り子をイメージして胸の動きに連動して腕を動かす。手や腕でクラブを振らないようにしてほしい。

ランニングアプローチが上達すれば、ショートゲームの確実性も増すはずだ。ぜひ距離感を身に付けてコースの攻略に役立ててほしい。

TEXT=吉田洋一郎

PHOTOGRAPH=青木紘二/アフロスポーツ

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