第一線で活躍するトッププロが愛用するゴルフクラブや高機能なゴルフウェア。名品の陰には匠の存在がある。
高橋義明×マジェスティ ゴルフ
高級感溢れる美しい仕上げとやさしく飛ばせる性能で、多くのゴルファーの心を掴んでいるマジェスティ ゴルフが2021年、創業50周年を迎えた。高橋義明は、その大半となる約40年を、ヘッドの研磨に捧げてきた。職人らしく物静かで、説明の言葉数も少なめな人物だ。
「もちろん、初めからうまくはいかないです。研磨の機械や、その機械が回っているところを見たことがありませんでしたから、削るのが怖かったのを覚えています。聞いてもわからないので、先輩のやっているところを見たりして覚えるしかありませんでした」
最初は、パーシモン製のヘッドを担当した。現在の金属や複合材料とは違う、柿(パーシモン)の木を使った、まさにウッドだ。
「木は、日によって吸湿変形するんです。雨が降ると膨張したり、乾燥すると縮んだり。そういう面倒な面もありましたけど、削りやすくはありましたね。パーシモンの次は、アイアンです。アイアンは3年くらい経ったときに、やっと一人前になれたなと思いました」
その後、高橋は一般ゴルファー向けの製品だけでなく、契約プロ用ヘッドの研磨も任されるほどの腕前になった。そこには、1988、1989年に全米オープンを連覇したカーティス・ストレンジやマスターズ王者のイアン・ウーズナム、ホセ・マリア・オラサバルらも含まれる。
現在の高橋の主な職務は、量産品の研磨の見本となるヘッドを仕上げること。長く担ってきているこの役割は、計り知れないほど重要だ。「いちばんこだわっていることは、やっぱり見た目の形状です。一個一個同じように削っても、違いますから。とにかくその差をなくすことを考えています」という高橋の言葉を補足するように、同い年の製造部部長、左藤克裕が、こう評する。
「見本となる研磨サンプルがないと、こちらが思っていたものとはまったく違う形状に削られてくるということが起こるんです。しかも、研磨サンプルは1つだけでなく、2つ、3つと同じ形状のものが必要になります。特にアイアンの研磨サンプルは、高橋なくしてはできなかったと思います。高橋が、マジェスティ ゴルフのアイアンをつくり上げてきたと言っても過言じゃありません」
しかも、研磨で大切なのは、形だけではない。同時に、強度の問題もあれば、重さのことも考慮にいれなければならない。
「頭の中で、形状、厚み、重量を同時に考えながらやっているという感じです。まあ、ずっとやっていますので、難しさは感じてないんですが。厚みがこれくらいになっているだろうというのは、ある程度はわかります。コンマ何ミリ削れと言われたらですか? サンドペーパーの粗さを変えていってやれば、多少はできますよ」
たまりかねたように、また横から左藤が声を上げる。
「多少じゃないです。完璧です、完璧(笑)。これくらい削れば、このくらいの厚さになるだろうという感覚は、職人にしかわからないものです」
左藤の言葉を聞いても、高橋の表情は誇らず、照れるわけでもなく、変わらなかった。傍からみれば驚くようなことでも、高橋にとってはあくまで日常にすぎない。