世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム116回目。多くのアマチュアゴルファーを指導する吉田洋一郎コーチが、スコアも所作も洗練させるための技術と知識を伝授する。
高齢になると足腰が使えない
25年ほど前に、何度か一緒にラウンドさせてもらっていた知人の滝さん(仮名)から、先日久しぶりに電話があった。その当時は55歳だったが、80歳になった今も週に3回ほどのペースでコースに出ているという。全盛期には240ヤード飛ばしていたドライバーの飛距離はかなり落ちたというが、それでも180ヤードから200ヤードは飛ばすという。80歳でそれだけ飛べば十分な気もするが、もっと飛距離を伸ばしてゴルフを楽しみたいと勉強や練習に余念がない。
滝さんは私の著書も読んでくれているそうで、「書いている内容は最新の理論で、非常にわかりやすくおもしろい」と絶賛してくれた。ただ、実際に自分自身のスイングに取り入れるのは難しいようで、「本に書いてある下半身を使ったスイングは、自分たちのような高齢者にとってはハードルが高い」と語っていた。
ゴルフスイングは下半身から始動し、全身を使ってクラブを振る。しかし、80歳にもなると、足腰が弱ってくるため、下半身を使ってクラブを振ることが難しくなるという。意図的にフットワークを使うことができないので、手や腕を使ってボールを打つしかないというのだ。
下半身が使えなければ、遠心力で飛ばす
滝さんに話を聞くと、体力の衰えを感じ始めたのは65歳頃だという。確かに、65歳を超えてから体力が大幅に落ちて飛距離がガクンと落ちたという人の話を聞く。筋力の問題だけではなく、肩や股関節周りの筋肉も硬くなり、関節可動域も狭まるので身体も回転しにくくなる。そのような状態で「全身を使ってスイングをしてください」と言われても、たしかに難しいだろう。
しかし、年齢を理由に飛距離をあきらめるのは早い。ゴルフは道具を使うスポーツなので、フィジカル以外の部分で工夫をすることで飛ばすことができる。特にクラブの使い方を改善することで、効率よく飛距離を出すことが可能だ。
以前、90歳で220ヤードもドライバーを飛ばす「スーパーおじいさん」とラウンドしたことがある。その人は特別体格や筋力に恵まれているわけではなく、年相応な筋力と柔軟性だった。しかし、クラブの使い方がうまく、遠心力を生かしてクラブヘッドを加速していた。まるで鞭のようにシャフトをしならせてヘッドを加速することで、ドライバショットで220ヤードの飛距離を実現していたのだ。
年齢的に下半身を使うのが難しい人や下半身が弱い人などは、この「スーパーおじいさん」のように遠心力を使ってヘッドスピードを上げるといいだろう。
遠心力を使って飛ばすために、「トップスイングでのシャフトのしなり」「ダウンスイングでのリリースポイント」の2点に気を付けてほしい。
切り返しでシャフトをしならせることで、タメを深くしてクラブを加速させることができる。シャフトをしならせるために、トップで切り返しの間を作ることが大事になる。この切り返しのタイミングを覚えるために、先端を結んで重くした状態のバスタオルで素振りをしてみよう。トップで先端部分が背中に当たってから、切り返すイメージを持つことで、シャフトがしなる「間」が体感できるだろう。トップで上半身の力を抜き、切り返しで無理に手や腕でクラブを振り戻さないようにすることがポイントだ。
ダウンスイングでは、右腰のあたりからクラブをリリースするイメージを持つといい。いつまでもクラブをコントロールしようとすると、手元が先行して遠心力を生かすことができなくなる。手元がインパクトに向けて減速することで、クラブヘッドがリリースされ遠心力が生まれる。このイメージを体感するために、野球のアンダースローでボールを投げるイメージを持ってみるといいだろう。右腰あたりでリリースするイメージを持って、クラブヘッドを目標に放り投げるようにスイングしてみてほしい。実際にクラブを放り投げることができる環境があれば、周りに十分気を付けて行ってみてもいい。適切なタイミングでリリースをすることで、ヘッドスピードも上がり飛距離も伸びるはずだ。
ゴルフは何歳になっても楽しめるスポーツだといわれる。そして、年齢や体力に合わせて楽しめるスポーツだ。20代から30代なら、体力やパワーを生かして飛距離を追求する。年齢を重ねれば、それまで積み上げてきた経験や磨いていた技術を駆使し、体力が落ちて飛距離が落ちた分のマイナスを補っていく。そして、60代を超えて身体が思うように動かなくなっても、工夫次第でまだまだゴルフを楽しむことができる。足腰が動きづらくなっても、遠心力を活用してより遠くまでボールを飛ばしてほしい。