激動の時代といわれ、物事の変化も目まぐるしい現在。経営者には新しさへの柔軟な対応力が求められている。そんな現代の経営者に、第一線で活躍するスタイリストが新しい服と着こなしを提案。未知のフェーズに挑戦することで、新たな自分を発見し、自己を活性化させる。その先にこそ、奥深く豊かなスタイルが見えてくる。
旭酒造 代表取締役社長 桜井一宏 × スタイリスト 久保コウヘイ × GIORGIO ARMANI
西日本豪雨やコロナ禍という逆境をはねのけ、名酒「獺祭(だっさい)」の素晴らしさを世界へと広げるべく奮闘する桜井氏。時代に即したビジネススタイルの提案に定評がある久保氏は、絶妙なさじ加減の着こなしにより、桜井氏のスタイルをリフレッシュさせた。
改めて思い知る変化することの大切さ
旭酒造を率いる桜井氏は、苦境の飲食店を守るために地域ごとの柔軟な制限策を行政に訴えた意見広告や、需要激減の酒米農家の支援と消毒液不足の解消を兼ね、酒米の山田錦を用いた「獺祭エタノール」を開発するなど、コロナ禍における人間味溢れる施策が称賛を集めている。今回久保氏がジョルジオ アルマーニを選んだのも、そんな桜井氏の人柄が大きいという。
「芯地類を用いない柔軟なスーツや無駄のないデザイン、シックな色使いなど、ジョルジオ アルマーニの服には柔らかで控えめな印象がある。それが桜井さんの優しげな人柄に合っていると思ったのです」(久保氏)
社内では失敗を恐れず、変化し続けることを奨励する桜井氏。革新的施策はそんな社風から生まれたに違いないが、服装に関しては保守的になりがちだそう。
「毎シーズン服はオンラインなどでも購入しているのですが、どうしても同じデザインや色のものばかりになってしまいます。休日でも毎朝の酒のテイスティングには参加するため、会社には顔を出しており、オンとオフの服装も曖昧になってきている。柄物のシャツやスーツ、多色使いのニットなど、普段なら選ばない服を今回プロにスタイリングしていただき、いかに日々の服が固定化されていたか、改めて気づきました」(桜井氏)
多忙な毎日のなかで保守化し、やがてルーティンとなる服選び。着るのが難しく感じた服もテクニックしだいで着やすくなるので、少しずつでも取り入れていくことが装いをフレッシュに保つ秘訣と、久保氏は言う。
「今回のスーツのように、柄物を使う時は色数を絞るなど、全体のバランスを考えるのが大切。ジョルジオ アルマーニには大人の男性でもトライしやすい、絶妙な色柄も豊富ゆえ、ぜひ取り入れてほしいです」(久保氏)
弛まぬ変化と豊かな人間性により、未曽有の荒波のなかで会社の舵取りを行っている桜井氏。今回の久保氏とジョルジオ アルマーニとの出会いからも、新たな学びを得たようだ。
「似合うか不安だった服も、着ると意外に自然と着こなせて驚きました。自分だけで最適を求めていくと、こうした遊びや揺らぎといった変化が乏しくなる。失敗と成功を繰り返しながら、少しずつでも変化していくことが、酒造りにも企業経営にも大切です。そういう意識は自分の服装にはまったくなかったので、今後は意識していきたい。服が変われば気持ちまで変わることもわかりましたし、新しい楽しみが増えました」(桜井氏)
柄×柄もワントーンコーディネイトで簡単に攻略
桜井氏がよく着るというネイビースーツ。久保氏は敢えてそこに新しい要素を盛りこんで提案する。「一見無地ですが、ジョルジオ アルマーニらしい和っぽいカスリ調の柄が入っており、酒造りという桜井さんの仕事をイメージして選びました。シャツとタイも柄入りですが、ブルーのワントーンにすれば上品にまとまります」(久保氏)。
優しい人柄を体現するニュアンスカラーの使い方
柔和で優しげな桜井氏の人柄を表現すべく、久保氏が提案したのがブラウンのニットジャケット。ジョルジオ アルマーニ得意のニュアンスカラーでまとめた。「トーンが近くてもっとぼやっとするかと思いましたが、上品で柔らかな印象です。茶のジャケットは白シャツばかり合わせていましたが、これは取り入れたいですね」(桜井氏)。
色柄物にも気負わずトライできる計算された服装術
色数の多い服に抵抗感があり、普段は無地ばかりという桜井氏。そこで久保氏は抵抗なく着こなせる服装術を伝授する。「このカーディガンのような多色使いの服は、他のアイテムのトーンを統一し、一色だけひろえばなじんで見えます。桜井さんは胸板が厚いので、インナーはTシャツ1枚でも格好よくさまになりますね」(久保氏)。
袖を通せば気分が切り替わるスポーティエレガンス
普段はスーツかジャケットが多い桜井氏に、敢えて真逆のスポーティな着こなしを提案。「織り柄でロゴが入ったブルゾンやトレーニングパンツ風のボトムス、スニーカーと、スポーティなアイテムで揃えましたが、シルキーなブルゾンなど素材の高級感やシックな色使いで大人の雰囲気。着るとスイッチがオフになる装いです」(久保氏)。
アルマーニ / 銀座タワー
住所:東京都中央区銀座5-5-4
TEL:03-6274-7001
営業時間:11:00〜20:00
KAZUHIRO SAKURAI
1976年山口県生まれ。早稲田大学卒業後に日本酒とは関係ない都内のメーカーに勤務するが、偶然居酒屋で飲んだ獺祭の美味さに改めて気づき、2006年に実家の旭酒造へ入社。海外マーケティングなどを経て、ʼ16年に社長へ就任。父で現会長の桜井博志氏が作りだした、世界に誇る名酒獺祭を守り続ける、四代目蔵元。
KOHEI KUBO
1977年東京都生まれ。2002年よりスタイリストとして活動をスタート。メンズ誌や企業広告に加え、長谷部 誠や上原浩治、五郎丸 歩、アンドレス・イニエスタらのアスリートやタレントのスタイリングも担当。また文化人や著名人のパーソナルアドバイザーとしても活躍している。