昨年、東京の銀座中央通りにオープンしたロロ・ピアーナ 銀座店。この建築を手掛けた青木淳氏のエキシビジョン「青木淳展 – The Touch Of Architecture」が、同店で5月9日まで開催中だ。青木氏が表現したかったこととは何か、その建築思考に触れる。
柔らかい肌触りを、硬い物質で表現
イタリアの老舗ラグジュアリーブランド、ロロ・ピアーナが昨年6月、東京・銀座の中央通りにオープンさせた旗艦店「ロロ・ピアーナ 銀座店」。空に向かって波打つようなファサードがひときわ目を引く建物は、すでに銀座のアイコニックな存在のひとつとなっている。この美しい建築について、現在、同店4階のVIPスペースにて開催されている個展「青木淳展 – The Touch Of Architecture」で、青木氏に話を聞いた。
「製品に触れてまず印象的だったのは、ビキューナやベビーカシミヤといったとても貴重な素材の触感でした。非常に滑らかで、素肌に触れてもチクチクしない、これまで体験したことのないものでした。温かみがあるのだけどシャープで、視覚的に表現するならば光沢に近いと思いました。ブランドカラーであるクンメルも、レンガ色なので温かく重みがあるのだけれど、生地に触れるとツルっとしています。本来共存しそうにない要素が、ロロ・ピアーナでは共存し得るのです」
高さ56m、まるでファブリックが風になびいているように見えるファサードは、ロロ・ピアーナのアイコニックな「クンメルカラー」のグラデーションで色付けされ、ミラー張りのスチールプレートが細やかなテクスチャーを描きだしている。ロロ・ピアーナのDNAともいえる肌触りを、硬い物質で表現しているのだ。
「設計を手がけるにあたり、普段はいくつものアイデアを浮かべて悩んだりするのですが、今回はすんなりと決まりました。最高の手触りを、どう形にするか。その光沢感や温かさをどう出すか。最終的には、ルーバーのファサードにして、ルーバーの側面に色を塗り、下の方はクンメル色で、上に向かって白くしていきました」
ルーバーはすべて同じ角度の二等辺三角形、3度ずつ設置する角度を変え、また正面に当たる部分はステンレスミラー貼りに。ミラーなので、日中は前に建つ建物や空が映り、また夜はルーバーの間から、室内の光がやわらかく溢れる。昼と夜でまったく違う表情になる。
「建築にあたっては、いつもそうなのですが、建設の途中の段階で、実際に実物のファサードをつけて、どのように見えるか試しました。地方の工場でつくった全長56mのファサードを一度設置してまた外すのですから、それは大変な作業です。でも、街並みにどう溶け込むか、銀座は夜でも明るかったりするので、これは欠かせない作業です。今回も、想定した見え方とは違っていて、ひとつひとつのルーバーの形状を変更することになりました」
青木氏といえば、青森県立美術館や京都市京セラ美術館、世界各国のルイ・ヴィトンの店舗を手掛けている。いずれの建物も唯一無二、すべてがまったく異なるアイデア、表現方法を用いられている。
「毎回、チャレンジング。そのほうが面白いじゃないですか。でも、正直に言うと、完成したものを初めて見るときはドキドキしています。実は怖くて怖くてたまらないんですよ」
今回のエキシビジョンでは、これまで手がけてきたプロジェクトのスケッチブックや材料の一部を、その対面には着想源としたロロ・ピアーナのビキューナやベビー・カシミヤなどの素材を展示。また会場中央では、薄い柔らかなファブリックを重ねたスクリーンに、銀座店が誕生するまでの軌跡を追った映像をブランドのストーリーとともに投影する。ファサードが誕生するまでの過程を、視覚と触覚の両方で確かめられるのだ。
印象的なファサードが、青木氏の思考のなかでどのように生み出され、実際に形となったのか、その一端に触れたい。
青木淳展 –The Touch Of Architecture
会場:ロロ・ピアーナ 銀座店(東京都中央区銀座3-5-8)
日程:2021年4月16日~5月9日
※4月24日、25日の二日間は15:00-20:00までイベントのためクローズ
営業時間:11:00~20:00(最終入場:19:30)
TEL:03-5579-5181
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Jun Aoki
建築家。1956年神奈川県生まれ。東京大学工学部建築学修士修了。磯崎新アトリエ勤務を経て、'91年に独立、青木淳建築計画事務所を設立。公共建築から商業建築、個人住宅まで多数手掛ける。代表作に「馬見原橋」(くまもと景観賞)、「S」(吉岡賞)、「潟博物館」(日本建築学会賞作品賞)、「ルイ・ヴィトン表参道」(BCS賞)、「十日町ブンシツ」(グッドデザイン賞2016 ベスト10)など。現在、自身が建築を手掛けた京都市京セラ美術館の館長も務める。