アートやヒップホップに造形が深く、一方で経営者へのインタビューなど幅広い活動をするライター川岸徹は人生の「楽しみ上手」。海外ドラマや映画専任のライターではないからこそ、本能に従順に、真に心に響く、人生を潤す海外ドラマをセレクト! ビジネスパーソンのお手本にもなる!? ドラマ2作品をお届けする。
壮大なスケールの頭脳戦を切り広げる『ペーパー・ハウス』
日本人は「泥棒の物語」が大好きです。古くは石川五右衛門や鼠小僧次郎吉、江戸川乱歩が創作した怪人二十面相、新しいところでは怪盗キッド。『ルパン三世 カリオストロの城』に出てくる「奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」という銭形警部の言葉は、日本映画史に燦然と輝く名台詞です。
知的で大胆。しかも情に厚く、弱者にやさしい。狙うのは腹黒い権力者や金持ちが中心で、庶民は泥棒の活躍に心を躍らせる。そんな“正しき泥棒”の姿は日本のみならず、海外でも大人気。泥棒を主役にしたドラマが数多く制作されています。
「泥棒もの」の最新ヒット作といえば、『ペーパー・ハウス』。もともとはスペインのテレビ局が制作したドラマで、Netflixが放映権を獲得し世界配信。ハマる人が続出し、国際エミー賞の最優秀ドラマ・シリーズ賞をはじめ、栄誉あるドラマ賞を総ナメしています。シーズン5まで制作され、最終シーズンは昨年12月に完結しました。
『ペーパー・ハウス』のヒットの理由は、なんといっても「壮大なスケールの頭脳戦」。シーズン1・2では、8人組の強盗団が24億ユーロの強奪を目的にスペインの造幣局に籠城。でも、簡単に盗み出せるはずもなく、警察との攻防戦が始まります。造幣局は警察に取り囲まれ、数の勝負では敵いません。脱出は不可能に思われますが、首謀者である「教授」が建てた計画がすごい。頭脳が数を凌駕する、スリリングな展開に興奮します。
シーズン3~5はスケールがさらに壮大になり、スペイン銀行から金塊と国家機密を盗み出すストーリー。でかくて重い金塊を、どうやって運び出すのでしょう……。
ヒットの理由その2は、強盗団メンバーのキャラクター。首謀者である「教授」以外のメンバーは、お互いを「トーキョー」「ベルリン」「ナイロビ」「デンバー」「ヘルシンキ」など世界の都市名で呼び合っています。その各メンバーのキャラ立ち具合が秀逸。一番人気は「トーキョー」と呼ばれる女性。クールで知的なルックスながら、内面は情熱的。マシンガンをぶっ放すシーンに心惹かれます。
長期におよぶ籠城の間には、さまざまなことが起こります。仲間割れが起きたり、人質と恋愛感情が芽生えたり。細かなエピソードも心地いいアクセントになり、ついイッキ見してしまう傑作ドラマです。
ルパンのようなスマートさに魅せられる『LUPIN/ルパン』
「泥棒もの」のもう一本は『LUPIN/ルパン』。この作品も頭脳戦が見どころです。主人公の名はアサン・ディオプ。彼の父親はセネガル移民で、息子アサンにより良い暮らしを与えようとフランスへ渡ってきました。父親は富豪ペレグリニ家の運転手として真面目に働いていましたが、雇用主のユベール・ペレグリニに盗みの濡れ衣を着せられ逮捕。獄中で自殺し、アサンは孤児になってしまいます。
アサンは幼い頃に父親から贈られた「怪盗紳士アルセーヌ・ルパン」の小説を教科書に、泥棒の心得や盗み・変装のテクニックを取得。そのテクニックを駆使して、ペレグリニ家への復讐と父親の無罪の証明に挑みます。
復讐がテーマの物語とはいえ、ストーリーは軽快。アサンがルーヴル美術館から絵画を盗み出す第一話から、巧妙なトリックに胸を弾ませながら鑑賞することができます。ルパンのようなスマートさに魅せられ、アサンを応援したくなります。
ドラマは継続しており、現在第2シーズンまで配信中。最後には「父の汚名を晴らしてほしい」と願うばかりです。