聴覚障害を持つ家族のなか、歌を愛する主人公が選んだ道とは
『SCOOP!』という映画の撮影中のことですから6年前のことでしょうか。主演の福山雅治さんから「今ゲーテで紹介している作品、面白そうですね?」と声をかけていただきました。その時、僕は面白かったけど、福山さんにはどうだろう……と今ひとつ自信のない対応をしてしまったのです。なので改めて言わせてください。
「福山さん! あの時激推しできなかった『エール!』ですが面白いッス! そしてアメリカのリメイク版は傑作です! ぜひ観ていただきたいッス!」
『コーダ あいのうた』の“CODA”は“Child of Deaf Adults”の略語。聾唖(ろうあ)の親を持つ子供という意味だそうです。主人公の高校生のルビーは父、母、兄が聴覚障害者。耳が聴こえる彼女はパブリックの場では、家族の思いを伝えるために、手話で“通訳”係を任されています。病院で父親の病気、股部白癬(いんきんたむし)について医師とやり取りするシーンは何度観ても笑ってしまったなぁ。両親の赤裸々な話になっていき、ルビーはお手上げ状態になっていました。
今作で両親と兄を演じている俳優は聾唖の方。御三方の手話の手の動きは思わず見入ってしまうほど感情豊かです。母親役のマーリー・マトリンさんは1986年に聾唖の女性役を演じた映画『愛は静けさの中に』の演技でアカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得しています。
菊地凛子さんが映画『バベル』で聾唖の女性を好演してアカデミー賞にノミネートされましたが、このルビー役を演じている、エミリア・ジョーンズさんも短期間で手話を身につけたそうです。もうね、頭が下がりますよ。俳優が何でもかんでもできると思うなよ! と心のどこかで思っていた自分が恥ずかしいっすよ……。
以前紹介した『エール!』もそうでしたが、今回もハンカチが絞れるほど泣けます。音楽のV先生にルビーは歌の才能を見出されるものの、家族は彼女の歌声が聴こえない故、そのとてつもない魅力に気づけない。親って近くにいすぎるせいか子供のよさが見えないんですよね。反省!
『コーダ あいのうた』
2021/アメリカ
監督:シアン・ヘダー
出演:エミリア・ジョーンズ、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、マーリー・マトリンほか
配給:ギャガ
2022年1月21日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。2021年のサンダンス映画祭で観客賞、審査員賞、監督賞、アンサンブルキャスト賞の4冠に輝いた感動作。聾唖の家族のなかで唯一耳が聴こえるルビーが、歌の才能を認められたことをきっかけに、自身の夢の実現か、家族のフォローか、葛藤する姿を描く。サンダンス映画祭史上最高額の約26億円で落札された。
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。主役の猫・マルの声優を務めるアニメ『かなしきデブ猫ちゃん』(NHK)が放送中。2022年初夏に映画『極主夫道』が公開予定。