世界史に残る2020年を音楽で描き上げた作品
コロナ禍の2020年12月、ユーミンが渾身のアルバム『深海の街』を発表した。
「世界史に残る特別な年を自分のために記録しておきたいと思いました。こんな作品を作ったシンガー・ソングライターが日本にいたんだ――と100年後の人が聴く作品にしたかった」
ユーミンが語るとおり、『深海の街』には凄みや覚悟が感じられる。
1曲目の「1920」は、100年前の史実をモチーフに歌詞がつづられる。1920年は2020年と似た状況。スペインかぜで世界中の命が失われるなか、ベルギーでアントワープオリンピックが開催された。
100年前と現在、時空を超えた景色が歌われ演奏される。
「音楽家は時代を作品として残すべき。ボブ・ディランが『風に吹かれて』を作ったようにね」とプロデューサーの松任谷正隆。
収録曲の多くは、3〜5月末のステイホーム期に、自宅内のプライベートスタジオで音源を作り始めた。
そして夏、年内の発表を強く望んだユーミンは完成へ向けてギアを上げ、歌詞をつむいでいったという。
応援歌ではない。癒やしの音楽でもない。力のある作品こそが、その時代とともにリスナーの脳に記憶され、エバーグリーンになる。
Kazunori Kodate
1962年東京都生まれ。音楽ライター。『ジャズの鉄板50+α』(新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。