役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
歯向かうことができない恐怖心を植えつける
「人のふり見て我がふり直せ」ということわざがありますが、滝藤は映画を観て、「うわ、こんな男になっちゃいけない」と自戒することがしばしばあります。最近見たなかで、襟を正した作品を紹介します。
フランス映画『ジュリアン』。何がすごいって、この映画、ただただ父親役のドゥニ・メノーシェが強烈。ほぼ彼の印象しかありません。存在が異常に生々しい。芝居だとわかっているのに、こんなに不快にさせられるのは滅多にない経験です。何度もスクリーンに向かって心の中で罵声を浴びせてやりましたよ(笑)。
さて、肝心の内容は、狂気的な夫と離婚できたものの、11歳の息子ジュリアンの養育が共同親権となり、苦難が始まります。
フクロオオカミ(タスマニアタイガー)のような執拗さで我が子を利用し、元妻に近づこうとする執念は、終始、彼を拒み続けていた私の心をポッキリと折り、歯向かうことができない恐怖心をしっかりと植えつけていきました。
夫の妻への依存を炙り出しており、観ていて滑稽で痛々しいが、自分はどうか。「妻に捨てられたくないよー」と思わせてくれる作品でした。
『ジュリアン』
1979年生まれのフランス人、グザヴィエ・ルグランの長編デビュー作。離婚を機に家族への依存をさらに深める中年男性の暴走を描く。
2017/フランス
監督:グザヴィエ・ルグラン
出演:レア・ドリュッケール、ドゥニ・メノーシェ、トーマス・ジオリアほか
配給:アンプラグド
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中